第19話


大学を出たあと、千代は走った。全力で、息切らして頭の中が真っ白になるまで。。。


彼女は、そのまますぐに店に着く。


「いらっしゃい、ま…如月副店長?!!」


店に着く一歩前で、ガラス窓に頭をぶつけてそのまま倒れていたのを、茜に助けられた。


「歳を考えないでもう、絶対走らない」


スタッフルームに連れて行かれ、頭を氷水が入った袋で、冷やしていた千代。


「ハイハイ。でも、千代さんどこ行ってたんですか?」


「千代さんは…大学に」


「えっ?!!あの八倉さんの?!」


「うん、七倉さんね」


水を頂戴…。と、付け足す千代。


水を受け取り一気飲みをしてから、話しの続きを話そうとした瞬間。。。


背広姿の遥が、帰ってきた。


「あ、おかえりなさい!」


「店長、おかえりなさい」


「…」


見るからに、様子のおかしい遥。千代は、茜に少しの間二人きりにしてくれと、頼んだ。


「遥さん」


「千代…」


ボソッと、零れるように呟く。彼女は、そのまま立ち上がり、彼を優しく抱き寄せた。


「お疲れ様」


「つ、つかりたぁ~」


彼曰く、遥は、会長会議に出る度にHPが減っていき、HPが0になると無口になる。


でも、千代的にはそっちの方が静かでいいのだが。なんて、思っていた。


「ハイハイ、良く頑張りましたね」


「もっと褒めてぇ~」


よしよし。と、頭を撫でる。


「あれ?ちぃちゃん、少し汗の香りが」


「あー、走ってきたから」


「どっか行ってたん?」


遥の問にどう答えたらいいか、千代は少し考える。


元彼のことを、彼話したら遥はきっといい思いしないだろう。


「ちょ、ちょっとマラソン?」


「学校の持久走も、ズル休みしていたちぃちゃんが、マラソン?」


「い、いいでしょ?女には、走って忘れたいこともあるのよ」


「そういう時は、お酒飲んで忘れようね」


まぁ、ええわ。と、彼女を抱きしめる。


あの時、七倉に握られた手が未だに熱いのだ。


「ね、ねぇ?店長?」


「二人きりの時は、遥さんやろ?」


「良いじゃない。別に」


ぷくーっと、頬を膨らませる遥。


「ハイハイ。遥さん」


「なぁに?」


すぐに機嫌が直るのだ。


「わ、私に恋人とか出来たら…どうする?」


一気に、不機嫌モードの彼に、千代は少しだけビビる。


「なんで、そないこと聞くん?」


「な、なんとなく?」


「せやな。僕の千代に手出すんやから、金玉一個無くなる覚悟できとるんちゃう?」


いつもの笑顔が尚更怖い。


「あのね、私だっていつかは結婚す「絶対認めへん!千代は、ずっと僕と一緒にいるんや!!!」


まるで、子供のように千代を抱き寄せて思いのほか少しだけ彼の体は、震えていた。


千代は、思う。。。


この人には、私がいないと駄目なんだ。


「何処にも行かないよ」


「ホンマ?」


「うん、遥さん…ハルくんの傍にいる。ずっといるから…」


遥は、再び嬉しそうに微笑む。。。


今のこの子は、昔のあの子によく似ている…迷涼に…。。。





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