第13話

遥と千代


龍夜にレポートを託して、遥は自分の店に戻る。


「ただいま~」


「奥山店長!!」


慌ててお出迎えしてくれた茜。


「アレ?ちぃちゃんは?」


「会長様が来てます!!」


それを聞いて、目を見開く。


「今、如月副店長が対応してくれてるんですが…って!店長!?」


茜の言葉を、最後まで聞かずに遥は、スタッフルームまで、走る。


扉の前で、軽く深呼吸をして中に入ると、パイプ椅子とテーブルだけしかない殺風景な場所に、千代と呉服店『八重桜』の会長であるー奥山 聡子ーの姿があった。。。


そうだ、奥山 聡子は遥の二番目の母親。つまりは、継母だ。


「遅れて申し訳ありません」


「店長!」


「遥さん、今まで何処に行ってたのですか?」


「それは…「奥山店長には、最新の着物の、デザインを描いたイラストを取りに行ってくれたのです」


遥の、フォローに回る千代に、そうですか。と、聡子は納得をしてくれたようだ。


「奥山店長、コチラにお掛けください」


遥を座らせる。彼の後ろに、立ち聞きをしている千代。


「で、今日はどのような要件で?」


「別に貴方に用で、来た訳ではありません。如月副店長を私の秘書にしたいの」


「え?」


「ふぁ?」


思わず、アホみたいな声を漏らしたのは千代だ。


「如月さんの仕事っぷりは、いつも聞いてるの。バカで使えない店長の代わりによく働いてるって」


遥は、拳を握り締めることしかできなかった。。。


聡子は、続けてこう言うのだ。


「本当に使えない。役立たずね、あの女そっくり」


これ以上は、流石の遥も堪忍袋の緒が切れる思いだ。


反論をしようとした瞬間だ。


ーパシャッ


目の前に、合ったお茶を聡子に掛ける千代。。。


「なっ!?何をしているの?!貴女の為でもあるのよ?!」


「遥さんをバカにするな!!!!」


目の前で、まるで自分の事のように怒っている千代である。


「貴女なんか、クビよ!クビッッッ!!」


「それはできひんよ。この店で僕が店長です。如月副店長は、貴女には渡しませんしクビもさせません」


「ふざけるんじゃないわよ!!妾の子如きが!!!アンタたちなんか、いつだってクビに出来るのよ!?アンタは、私の言う通りに生きていれば良いの!一生ね!!!」


取り乱す聡子に、カッチーンと来る千代。

カラになった湯呑みを、咄嗟に投げつけようと振りかざす。


しかし、遥がそれを止める。


「開店時間過ぎてるんで、お引き取り願いますか?」


「絶対許さないわよ!!アンタはっ「分かってます!!」


聡子の言葉に、遥はいつものほんわか笑顔で、答えるのだ。


「僕は、所詮…妾の子やから」


聡子は、荷物を持つとそのまま帰っていった。。。


千代の湯呑みを握り締めている手を離した。


「なんで、千代が泣いてるん?」


「もう知らない」


彼女は、遥から離れようとした瞬間。腕を引っ張られて、抱き寄せる。


「なに怒っとるの?」


「怒ってるよ!!怒るに決まってるでしょ?!なんなの、あのババアっ!!口を開けば、店長のこと…妾の子妾の子って!!ふざけるんじゃないわよ!」


他人のことを、まるで自分のことのように怒る彼女に、愛さを覚える。。。


「僕なら、大丈夫やで」


湯呑みをとりあえず、テーブルに置いてから力いっぱい彼女を抱き締めた。。。


「て、店長…く、くるじい」


「ありがとう…大丈夫やで…僕には、千代が居てくれるから」


遥は、千代の頬にそっとキスを落とす。それと同時に、彼の頬に一筋の涙が零れた。


困った人。と、呟いてから涙を拭いてやる。


「ありがとう…」


「いいえ」


おでことおでこを合わせ微笑み合う二人だった。

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