第17話 口の中へ

「逃げるな餌! 丸呑みさせろ!」


 ニーズベッグが猛進して、おいらたち三匹を追ってきた。ペリペリは斜面を登るのに精一杯だから、おいらとタヌ吉でニーズベッグが走るのを妨害してやらなきゃ。


「よし、タヌ吉、うんちしろ、うんち。あいつの口に放りこんでやるぜ!」「合点承知! ふんぬっでやんすっ!」


 ころっとタヌ吉のお尻からうんちが出てきたから、そいつをおいらが尻尾でつかんで、ぽいっとニーズベッグの口に投げこんでやった。


「うぎゃああ! またやったなうんちサル!」

「へへーん、今度はおいらのを食らえ!」


 おいらもうんちをして、尻尾でつかんでニーズベッグの口に放りこんでやった。


「げぇえええ! うんちサル性格悪いぞ!」

「悪食なやつにいわれたくないね」


 うんちは地味に効果があって、ニーズベッグがげぇげぇ苦しむと、斜面を登る速度が落ちていた。


 でも、この方法には限度があった。


「ウキ助さん、あっしもう出ないでやんす」


 タヌ吉が腹をさすっていた。食べたら出るものだから、もっと出したかったら、もっと食べなきゃダメなんだ。


「おいらも出ないぜ。ちくしょう、こんな状況なのに腹へってきたぜ」


 おいらも、ぐーぐーと鳴った腹をさすった。


 するとペリペリがわずかに力んだ。


「僕、斜面を登りながらでもうんちできるよ」

「よっしゃ! おいらが尻尾で受け止めてやるぜ!」

「むむむ」


 ぷりっと可愛いうんちが出てきたので、やっぱり尻尾でつかんで、ニーズベッグに食わせてやった。


「げべえええ! なんで今日はうんちばっかり食うんだ!」


 ニーズベッグが猛り狂った。よっぽどうんちを食べるのはイヤだったらしく、ついに口を閉じてしまった。


 これでいきなりお尻から丸呑みされることはなくなったな。


 ようやく斜面が終わったところで、白亜の王宮が視界に入ってきた。


 どたばたと足音が響くので、巡回していた犬の兵士たちが、ニーズベッグの巨体に気づいた。


「ニーズベッグじゃないか!」「ついに城を攻める気か!」「伝令を出せ、ニーズベッグが王宮を襲ってきたぞ」


 てんやわんやの大騒ぎだ。この調子なら、誰にもとがめられることなく王宮へ入れるぞ。高山王に会って、ニーズベッグの弱点を教えてやるんだ。


 おいらたちは、混乱する兵士たちの間を駆け抜けて、王宮の正面から入った。入り口は、おいらが両手を広げてぴたっと手のひらがくっつくぐらい狭かった。ニーズベッグの巨体だと通り抜けることができない。


 これは勝ったな、とおいらたち三匹は思ったんだけど、ニーズベッグは諦めなかった。


「おまえら絶対に許さんぞ、うんちばかり食わせやがって!」


 ニーズベッグは体当たりで入り口の枠をぶっ壊して、柱を折って、壁をガリガリ削って、追いかけてきた。完全に頭に血が上っていた。理屈とか理由とか吹っ飛んでいて、ひたすらおいらたちを追ってくる。もしかしてうんちを食わせたの逆効果だったかな……?


 ひょいっと青い毛玉が隣を走った。


「おいかけっこかえ? 余も混ぜておくれ」


 高山王が、尻尾を楽しそうに振っていた。


「お前、なんだかんだ楽しんでるな」

「王宮は退屈で退屈で溶けてしまいそうじゃからな」

「じゃあ、ニーズベッグ倒すの手伝ってくれよ。弱点見つけたんだ」

「まことか。さぁ教えておくれ。余が噛み砕いてやろう」

「口の中だよ。あいつ口の中に石ころとかうんちを投げこまれるのを、すごい嫌がるんだ」

「面白い。面白いのじゃが……どうやって口の中を噛み砕けばいいのじゃ? あやつの口は無駄にデカイのでなぁ」


 どうすればいいんだろう。おいらはちらっと賢いタヌ吉を見た。


「噛みつき攻撃以外はできないでやんす?」

「尻尾で叩けるぞ」

「威力はどんなもんでやんす?」

「鉄を折れるな」

「なら、口の中を叩いてもらいやしょう。尻尾を差しこんでから、先っぽでばしーんっと」

「……ところでさきほど、ニーズベッグにうんちを食わせたといわなかったかえ?」

「いったでやんす」

「そんなところに余の尻尾をいれたくない」


 なんてワガママな犬だ。おいらは高山王の尻尾をぐいぐい引っ張った。


「なんなんだよ、せっかくあいつを倒せるチャンスだってのに。ちょっとぐらい我慢しろよ」

「いやなものはいやじゃ。余は怠惰なものも不潔なものもきらいじゃ」


 もうしょうがないなぁ。おいらたちでなんとかしよう。


 ――いきなり役に立つものを発見した。でも、あれを使うには抵抗があった。暮田伝衛門と約束したばっかりだから。


 でも、あれを使えば、ニーズベッグを倒せるかもしれない。


「なぁ高山王。とっておきの技を使うから、王宮に残ってるやつらを避難させてくれよ、いつ崩れてもおかしくないだろ。あの暴れっぷりからして」

「ならばわらわは王宮のものたちを避難させよう。頼んだぞ」


 高山王が離脱したところで、ペリペリが叫んだ。


「つ、疲れた……!」


 ペリペリの足も限界だ。斜面からずっとおいらとタヌ吉を乗せて走り続けてくれたから。


「よーしペリペリ、あとはおいらが一人で逃げるぜ! タヌ吉を連れて王宮の外へ逃げてくれ」

「わかったよ、ウキ助くん」「気をつけるでやんすよ」


 ペリペリとタヌ吉も離脱。


 おいらは一人でニーズベッグに立ち向かうことになった。


「サルが一匹でなにができる!」

「火を使うのさ」


 おいらは王宮を明るく照らしていた松明を手に持った。

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