サルのウキ助が大冒険! ~迷子のアルパカが群れに帰るのを手伝うぜ!~
秋山機竜
大冒険のはじまりはじまり
地球編
第1話 迷子のアルパカがサル山にやってきた
うっきっきー! おいらサルのウキ助。最近大人の仲間入りをはたしたばっかり。体毛は紅葉みたいな色で、尻尾は植物のツタみたいに長いぞ。
ずっと生まれ育った山で暮らしていて、時々人里に降りて畑の野菜を食べる。好物はサツマイモだ。え、盗んでるじゃないかって? おあいこさ、人間だって山から山菜を盗んでいくんだから。
そんな細かいことより、大事なことが目の前にあるんだ。
白い馬みたいなやつが山に迷いこんできたんだ。どうして馬と断定しないで“みたいな”やつかっていえば、このあたりじゃ見かけない動物だからだ。
縄張りに侵入してきた見かけない動物なんて怪しさ満点なんだけど、こいつはジワっと涙をためてオドオドしていた。
もしかしたら群れからはぐれてしまった迷子かもしれない。
「おい白い馬みたいなやつ。もしかして迷子か?」
「あ、どうもおサルさん。ここはなんて山なの?」
「山は山だよ。おいら他の山を知らないし」
「そっか。どうもここは、僕の暮らしてた山と違うみたいなんだ」
白い馬みたいなやつは、くんくんと鼻を動かし、きょろきょろとあたりを見渡した。
「お前の暮らしてた山と、匂いも風景も違うのか?」
「うん。ぜんぜん違う。ここの空気は汚れてるし、木の数も少ないんだ」
「汚れてるだって? めちゃくちゃ綺麗じゃないか。木だって向こうが見えないぐらい、ぎっしり生えてるし」
ぴゅうぴゅうと冷たい風が吹く山は、空気が澄んでいた。今の時期だと枯れ葉が多いから、足元がふかふかしている。人里に近づくと、“じどーしゃ”とかいう鉄の塊が臭い息を吐くから、空気も景色も汚くなるけどな。
「あくまで僕の暮らしてたところに比べたらだよ。とにかくここは、僕の山じゃない。僕は、みんなのところへ帰りたい。帰りたいよぉ……」
白い馬みたいなやつは、小雨みたいにしとしと泣き始めてしまった。
かわいそうに。群れからはぐれてしまった不安はよくわかるんだ。
おいらも子供のころにかーちゃんの背中から落ちちゃって、群れからはぐれたんだよ。どんどんあたりは暗くなっていくし、お腹は空くしで、心細くなって、わんわん泣いてたら、群れのボスが助けにきてくれたんだ。
あんときのボスは、めちゃくちゃかっこよかった。いつかはおいらも子サルを助けられるような大人になろうって誓ったもんさ。
そう、おいらは大人になったんだ。迷子の馬みたいなやつを助けてやろうじゃないか。
「なぁお前、魚は好きか?」
「うん。好きだよ。迷子になる前も川原で魚を食べてたんだ」
「よし、ならおいらがごちそうしてやるから、泣くのをやめろよな」
白い馬みたいなやつを連れて近くの川に移動すると、自慢の尻尾を川に垂らした。まるで毛虫が泳ぐみたいにゆらゆら動かすのがコツだ。
ちょっと前に“にとうしょきかん”って呼ばれる“ぐれーたーでーもん”に尻尾で魚を釣る方法を教えてもらったんだ。
ちなみに、にとうしょきかん、ぐれーたーでーもん、がなにを意味するのかよくわかってない。わかってることは、角も尻尾も翼も力がみなぎっていて、一緒に猿団子すると日差しみたいにあったかいやつだったことだけさ。
――自慢の尻尾の先に吸いつく感触。きた、獲物だ。
えいやっと尻尾を川から引っこ抜くと、水滴を散らして魚が空で踊った。
「おサルさん、魚釣りが上手だね!」
白い馬みたいなやつは、たかたかと蹄で川原を叩いて喜んだ。すっかり泣き止んだな。うんうん、泣いていると元気もなくなるからな。笑顔のほうがいいぜ。
「うっきっきー! おいら、もっとすごいことが出来るんだぜ。ちょっとそこで見てな」
川原に打ち上げられた流木から、乾いたやつを選んで一ヶ所に集めた。それから尖った枝を発見して、両手で挟んだ。尖った先端を、乾いた流木にこすり付けていく。
焦げ臭くなってくると、ぽっと小さな火種が生まれた。そいつを枯れ葉で包むと、ぱちぱちと燃えて焚き火になった。
「ぺりぺりぃ!? 動物なのに火が怖くないの!?」
白い馬みたいなやつが、びょっと舌を出すほどにびっくり仰天した。
「ふふーん、おいらだけの特技だぜ。“ぐれーたーでーもん”ってやつがやってたのをモノマネしたら、できるようになったんだ。ただし山の中で使っちゃダメだぞ。火事になる」
「そんな器用なことできないよ。僕は蹄だし」
「それもそうか。馬だもんな」
「馬じゃないよ、アルパカだよ」
白い馬みたいなやつはアルパカという動物らしい。たしかに馬はこんなにモコモコしていない。
「しかしアルパカか。聞いたことない動物だな。どこからきたんだ?」
「わかんない。群れから少し離れた川で魚を食べてたら、ふわっと落ちるような感覚があって、気づいたらここにいたんだ」
またアルパカはめそめそした。どうやら泣き虫らしい。
「めそめそするなって。いま、魚を焼くから、元気だせよ」
「焼いたらおいしいの?」
「生で食うよりうまいぞ」
釣った魚を細木に通して、焚き火にくべた。ぱちぱちと香ばしく焼きあがっていくと、おいらとアルパカはぐーっとお腹を鳴らした。
この我慢する時間がたまらないぜ。
ぱりっと魚が焼きあがると、アルパカはむしゃむしゃと夢中で食べた。
「おいしー! おサルさんすごいね! こんな特技があるんだ!」
「だろう? みんなおいらに魚焼いてくれって頼むようになったからな。さて腹もくちくなったし、お前、これからどうする?」
「仲間のところへ帰りたいよ」
「そりゃそーだ。長老のところいくか。物知りだからな」
群れの最古参である長老が住む洞窟へ向かった。ボスと違って喧嘩は得意じゃないけど知恵者なんだ。サルの群れは賢いやつも尊敬されるのさ。
「おーい長老。アルパカってやつが迷子なんだ。どこに群れがいるかわかるか?」
ゆっくりした動きで長老が洞窟から出てきた。よぼよぼのサルだ。昔はもうちょっと機敏に動いていたけど、最近は木の枝を杖にして歩いていた。もうおじいちゃんだからしょうがないな。
「たしかアルパカは標高の高い山に住む動物で、うちの山みたいな平凡な高度で生息していないはずじゃ」
「んなこといわれても、気づいたらうちの山にいたらしいんだよ。もしかして台風で吹っ飛ばされてきたのかな?」
「んなわけあるかい。風で飛ばされるほど転がったら、あちこち大怪我しておる」
「なぞなぞは苦手だぜ。頭痛くなってくる」
おいらが頭を抱えてうんうんいっていたら、群れのボスがやってきた。
「おいウキ助。その白い馬みたいなやつはなんだ?」
身体のでっかいサルだ。めちゃくちゃ喧嘩が強くて勇敢だ。他のサルの群れと争いになったら、真っ先に突っこんでいくんだ。子供のころのおいらを助けてくれた恩人でもあるからな。ボスには頭があがらないぜ。
「アルパカだってさボス。群れからはぐれた迷子なんだ。なんか知らないか?」
「アルパカ…………そういえば、昔、山の外で見たことがあるなぁ。たしかあれは人里の近くだった気がするぞ」
「人間の近くかぁ……あいつらサルが近づくと攻撃してくるからなぁ……」
「それよりもアルパカが問題だ。いきなり知らない種族が入ってくると山の秩序が混乱する。うちの群れは好奇心が優先されるが、よそ者嫌いのイノシシとクマが興奮してるんだ。早く手を打たないと群れ同士の喧嘩になってしまう」
イノシシとクマは、近くを通りかかっただけで突撃してくるからなぁ。あいつら身体はデカいくせに心が狭いんだよ。
「僕のせいで喧嘩になりそうなんだね。ごめんなさい。今すぐ出ていくよ」
アルパカは、か細い声で謝ると、とぼとぼ歩いて山を出ていく。
なんて悲しげな後ろ姿だろうか。尻尾は股のあいだにぴったり挟んでしまって、わずかに震えていた。顔のあたりからぽとぽと雫が垂れているんだけど、あいつ泣き虫だからまた泣いてるんだろうな。
あんな弱気なやつが、たった一匹で自分の群れを探せるのか?
イノシシやクマみたいな怒りっぽい動物も怖いけど、一番怖いのは人間だぜ。
めちゃくちゃ心配だな。ふーむ。よし決めたぞ。
「ボス、おいらアルパカの群れを探してやろうと思うんだ。しばらく留守にするぜ」
「ほぉ。いい度胸だな。他の動物のために旅をするとは」
「ボスだって若いうちは山の外を旅をして自分を鍛えたんだろ? ならおいらにだってできるはずさ」
「やれるもんならやってみろ。でもちゃんと帰ってこいよ。人間には気をつけてな」
ボスに許可をもらったから、おいらはアルパカの背中に飛び乗った。
「うっきっきー! ようアルパカ! おいらが一緒に群れを探してやるぜ!」
「ぺりぺりぃー!? ほんとに!? ありがとう!」
「ところでお前の名前はなんだ?」
「ペリペリだよ。ぺりぺりぃーって鳴くからペリペリなんだ!」
「おいらはウキ助さ。浮雲みたいに自由なサルだ。よろしくな」
こうして、おいらとペリペリの冒険がはじまった。
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