第2話 親切心
香港を除けば最大規模を誇る上海浦東国際空港(シャンハイプードン)のターミナルで、私は路頭に迷っていた。FBIになった際の研修で身につけた多国の言語のうちに中国語は入っている。だがしかし、こうして現地へと出向くと緊張で言葉が容易に出てこない。誰かに道を尋ねたくても、しどろもどろな喋りだと正確には聞き出せなさそうだ。だとしても聞かなければ話は進まないのだから、私は近くにいる人を見定める。異国の人間の相手をしてくれそうな人はいないかと見渡す。すると10数メートル先にグランドスタッフがいた。後ろ姿しか確認出来ないが、彼女はきっと私に対しても当たり障りのない対応をするだろう。そうと決まれば行動しないわけには行かない。私は彼女が何処かへ行ってしまわないように多少大声で呼びかける。
「你好少し宜しいですか」
「?」
「ここから天津市へはどう行けば良いのですか」
「......」
彼女は黙ったままだった。もしかして人見知りなのかと思ったが、空港で働く人間にとってそれは最大の弱点。採用条件に必ず提示される事で、もし該当に当てはまっていたならばその時点で不採用だ。彼女に何か他の魅力でもあるというのか。
「あの、」
困り果てた顔をしていた彼女が口を開く。
「私はグランドスタッフではありませんよ」
彼女はそう言って微笑む。
私は瞬時に顔を赤面させ、彼女に謝罪する。
「す、すみません。服装が周りのスタッフと似ていたもので、これは大変失礼しました」
「いえいえ大丈夫ですよ。あの、天津市へ行かれるのですか?私もこれからそちらへ向かおうと思っていたのです。良ければ案内しましょうか?」
「本当ですか!それは有難い。ぜひお願いします」
こんなふうに誰かに簡単に付いていくのはFBIとして危機感がなさすぎるが、異国での親切心に甘えて私は彼女へ付いていった。
綿毛が散ったら 美希たま @dob
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