綿毛が散ったら

美希たま

第1話 報復

景気が良い近頃の日本、正子にも関わらず大勢の人々は、この煌びやかな夜を大切な人達と過ごしていた。看板照明が人々を照らし、ひと時の主人公にする。愛する人との過ごす時間、それはとても素晴らしくかけがえのないもの。人々はこの幸せな時間がずっと続くものだと思っている。無論彼らの時間を壊す権利は誰にもない。しかし悲劇は起きた。トランプのタワーのように築き上げたものが、一瞬にして崩れる。


夜が明けた頃日本は消滅した。




ファーストクラスはやはり居心地が良い、そんな事を考えていると機内カートを運びながら客に対応しているキャビンアテンダントに声を掛けられる。

「お飲み物は何に致しますか」

「シャンパーニュ サロンをくれないか」

「かしこまりました」

キャビンアテンダントはワインボトルを取り出し、グラスに注ぐ。芳醇な香りがして、流石ファーストクラスだと思う。FBIとはいえ今は経費節減の時代なのも理解できるが、もしもエコノミーなんて下直なもので済ませようなんて事があるのなら、私はきっと上司に盾突くだろう。機内を出る頃には背中や腰、肩や首のあちこちが悲鳴を上げる、そんな事は耐えられない。何が悲しくてエリート捜査官がエコノミーなんていう使用価値が低い所で我慢しなければならないんだ。ジェンガの様に積み重ねてきた修得が意味をなさないものとなる。それだけ私は苦労してきたのだ。

「どうぞ」

「ありがとう」

「何かご要望がございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

「ああ」

丁寧な言葉遣いだなんて思いながら、今回私が任命された事件について回顧する。

時代を揺るがす大事件、「日本列島消滅大事件」はつい5ヶ月程前に起きた真新しい出来事だ。アジ化鉛(Ⅱ)を爆薬として使用したと思われているそれは、日本列島に壊滅的被害をもたらした。日本列島が位置する部分に半径178km程のクレーターを作った。10パーセントの土地を失いそして死者、4892人にのぼる。一夜にして落日を迎えた事件に連日ニュースになっている。テロ攻撃だと推定してもあまりにも規模が大き過ぎる為テロリストの行為だとは断定出来なかった。しかし何らかの組織が関わっているとみた連邦操作局は世界各地にエージェントを派遣して捜査させた。すると事件の手がかりとなる証拠が見つかった。中華人民共和国にその組織は潜伏している、というものだった。そして今現在私はその事件に任命されている。闇夜の提灯と言っていい事の展開に私はほくそ笑む。必ず犯人を見つけ出してこの手で必ず報復してやると心に誓った。

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