第2話 クリアとルルアナ
「……さっき、置き手紙を書いたときに思い出したんだけど」
妖精界へ続く光の道を歩みながら、紅里亜はチュララに話しかける。
「私を育てるはずだった人間の夫婦は、私を叔父夫婦の更科家に預けて姿を消したそうよ。『この子を育てる自信がありません』って、置き手紙をして」
〈あ。その話は知ってる。──生まれてすぐ、何か異常な力を発現してしまって、人間夫婦をびっくりさせてしまったのが原因なんでしょ?〉
「え?」
慣れない相手に会話をつなぐつもりで始めたことだったが、どうもそれは今後の貴重な出会いにもつながっている話のようだ。
〈でもそれ、実はルルアナ様のことなのよ〉
「ルルアナ、様?」
〈えっと、人間の言い方だと〝チェンジリング〟だったかな。……わかる?〉
「あ、ええ。妖精と人間の子どもが、何らかの理由で交換される〈取り替え子〉……よね」
確か、ヨーロッパの伝承だったと記憶している。
〈チェンジリングの原因となった力を発現したのは、もともと人間界にいたルルアナ様のほうなの。妖精界で生まれたクリア様の事情もあったそうだけど、お二人が取り替えられたのは、その直後だから〉
「私の事情?」
〈その辺のことは、当事者であるルルアナ様やフォース様が説明してくださると思うよ。……あ、ほら。そろそろ着くよ〉
チュララに促されて前方を見れば。
「いらっしゃい、クリア」
「!」
光の道の向こうから、近づく人影があったのだ。
「私が、あなたとチェンジリングされた人間……ルルアナよ」
声の主が自己紹介とともに姿をあらわす──そこに、鏡ではないかと思うくらい自分とよく似た同年代の少女が、笑顔とともに待っていたのである。
†
光の道を抜けると、そこは大きな城と思われる建物の前だった。
「ま、わかりやすく言うと。本来は、私が
「あ……そうよね」
「でも今さらだし。私がルルアナで、あなたがクリアでいいわよね?」
「え、ええ。そうしてもらえると」
よく見れば、自分とは違う髪と目の色を持つルルアナは、とても明るい性格のようだ。初対面のクリアにニコニコと話しかけ、笑顔を絶やさない。
「あの、ルルアナ? あなたは人間なのよね?」
城の中へと案内されながら、クリアは問う。
「うん、そうよ。──ま、ちょっと個性が行き過ぎて、人間界には向かない体質だから、あっちに戻る気は全然ないんだけどね~」
「えっと、それは……?」
聞いても大丈夫な範囲でいいから、と付け加えつつ。思い浮かぶままの疑問をぶつけてみることにする。
「私ね、いわゆる『超能力者』ってやつなの」
そう言いながら、クリアの腕時計に目を移し、そのベルトを触らずにするする外したと思うと、自分の手に
「あっ」
「今みたいに、念力とテレポート、得意なのは火を起こすパイロキネシスとか……大概のことは出来るんだけど」
その腕時計をクリアに返しながら、あははと笑い。
「この力が生まれた瞬間から強すぎてコントロールできないせいで、生みの親である人間夫婦を驚かせちゃったみたいなのよ」
「……それで、私とのチェンジリングに?」
「そう。あのままだと人間界を破壊しかねないって、妖精王の判断で」
──当時。
ルルアナと時を同じくして生まれたクリアは、とても弱い体の持ち主だったという。
「体の弱い妖精の子は、チェンジリングされて人間界で数年を過ごすことで体質改善が図れるのね。……ところがクリアは、極度の虚弱体質だったそうよ」
「それが十六年、私が向こうにいた理由」
「うん。……ただ、行方くらませた両親のこととか、更科の叔父さん夫婦に邪険にされるしは、さすがに想定外。かといって、体質のことを考えたら連れ戻せないし」
肩をすくめてため息をつくルルアナに、クリアは何とも言いがたい苦笑を返すしかないものの、自分の出生にまつわる重大な話に耳を傾けずにはいられない。
「結局、クリアにだいぶ苦労させてしまったことには、妖精王も心を痛めてらっしゃるの。許してあげてね」
「妖精王……?」
「あなたのお父様──」
改めて前方を見たルルアナにつられて、視線を送った先に、とてつもない光が溢れ出す。
「わっ……?」
眩しい。これを〝光輪〟というのだろうかと思った。
だが、目を閉じる必要はないほどに不思議とあたたかく、やわらかな光で。
「おかえり。我が妖精王の娘、クリアよ」
その光の先に捉えた姿は、自分への愛しさを隠さない微笑みを向けた『妖精王』がいたのだった。
[つづく]
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