第7話

前回のまとめ

黒い骸骨との戦いは終わり、次の朝マリーは目を覚まし全員無事なことに安心する、布団の中で昨日の夜の戦いを思い出す、戦いが始まると魔力がどんどん失われて気を失いそうになる、その中で空中を幾つも漂う小さな氷の粒を見て、ニーナと出会った時のことを思い出す、雪の降る中マリーは見たこともない少女を助けるため夜まで走り続け、村に忍び込み少女を村から連れ出す、黒い犬が大軍でおしよせるなか、マリー魔法で時間を稼ぎ、ニーナの白い炎で黒い犬をすべて焼き尽くした、しかしニーナの白い炎は暴走してマリーも焼こうとする、マリーは自分に防御の魔法をかけて白い炎に飛び込み、偶然にもマリーがつけていた右腕の籠手で救われる。


七話

朝は太陽の陽で暖かく、鳥の声が響き気持ちの良い日が始まるかのように思えたが

昼前あたりから雲がだんだんと空を覆い隠し、あたりは薄暗くなっていく

ついに空から雨粒が落ちてくる、風は少しづつ吹き荒れ雨も激しさを増す

セフィは、家の外を見ながら「ねーちゃん、雨すごく降ってきたぞ」

ニーナ「そうね、ご飯、家の中にあるものだけで済ませないとね、セフィはなんでもいいよね」

セフィは、振り向きニーナの方を見て「えー、おれおいしい肉ならなんでもいいよ」

ニーナは、考えながら「うーん、干し肉ならあるけど・・・あとは味噌ずけの肉ぐらいかな」

セフィ「おー、味噌ずけの肉がいい、あれやわらくて美味しんだよな」

ニーナすこし困ったような顔で「味噌ずけね・・・まーいいか」

セフィ「やったー!」と喜び回る

スラン囲炉裏の前に座ってニーナの方を見て「いいのかニーナ、その肉、祝いとかで食べるやつだろう」

ニーナ「大丈夫だよ、みんな生き残っておめでたいし、かーさんも怒らないよ」

スラン「なら、いいか」

布団の中でマリーが、ゴソゴソと動き出し布団から顔を出し

「味噌ずけの肉ってなんですの?」

セフィはマリーに近づき覗き込むようにして

「うまいんだぞ、柔らかくて」

マリー「おいしいのは、わかりましたが、表現が単純で説明になってませんわ」

近いセフィの顔を手で押し退ける

スラン「おい、マリーお前に聞きたいことが、いくつかある」

マリーは布団の中で背伸びをして起き上がる

「はいはい、わかる範囲でお答えしますわ」

スラン「お前、どこから来たんだ」

マリーは面倒臭そうに指差し「あっちよ」

スランはすこし怒りながら「もう少し詳しく話せよ、それじゃセフィと同じだ」

マリーはムッとして「あーら、失礼しました、セフィと同じだなんて傷つきますわ」

セフィ「おー、マリーもおれと同じか、傷は男の勲章だぜ、やったなマリー」

セフィは親指を立てマリーに向かってみやりと笑う

スランは笑いだし

ニーナは苦笑い

マリーは悔しがっている

「バカは、放っておいてわたしが、どこから来たかお話ししますわ」ため息をつき

「ここから、ずーと北にいき、海を渡りさらに北に行ったところにある国ですわ」

スラン「へー、どんな国なんだ?」

マリー「わたしと、同じ魔法を使うものが何人もいて、みなそれぞれ研究をして日々精進してますわ、魔法の使えないものは剣や弓の腕を鍛え、みなその国の王に忠誠を誓ってますわ」

ニーナがお茶をマリーに手渡し、マリーはお茶を一口飲むとまた喋り出す

「もちろん、商人や平民もいて、みな豊かではないけど幸せに暮らしてますわ」

スラン「なるほど、お前は国の王に仕える魔法使いといったとこをか」

マリー「まーそのようなものですわ」

スラン「で、その魔法使いがなんで、こんな村に来た?」

マリー「それを、話すととても長くなるので簡単に説明しますわ」

マリーは布団の上で丸くなって寝ている白い狐を撫でながら

「このかた、イナリ様の導きで、あなた達三人を助けるために来ました」

スラン「おいおい、冗談はやめろよ、ただの白い狐だろ」

布団の上で丸まっていた、白い狐は目を開きスランを見る、その目は金色に怪しく光る

イナリ様は、立ち上がり四つの足で歩き囲炉裏を挟んで、スランの向かいに座り喋り出す

「我は、この世界の監視者、この世界は他の世界の者達が見る夢、もしくは死してなお未練を残した者のが住む世界、いまこの世界は大きな歪みにより、他の世界との調和を崩そうとしている・・・世界の調和を保つためお前達の力が必要となる、お前達は大きな歪みによって生み出された小さな歪み、その小さな歪みでこの世界の大きな歪みをなくす」

スラン「はーぁ?」

マリー「毒を以て毒を制するってことですわ」

セフィ「なんかわからんが、かっこいいぜ」

スラン「そんな面倒くさいことおれには関係ないぞ」

マリー「あなた達には、拒否権はありませんわ、拒否すれば歪みとして消されるだけですわ」

スラン「くっ」不機嫌そうなにして、イナリ様を睨む

マリー「やめといた方がいいですわよ、一瞬で消されますわよ、おーほっほー」と笑う

スランはふてくされゴロンとイナリ様に背を向けて横になる

『これが運命ってやつか?おれは・・・このまま、流されていくしかないのか・・・』

雨は激しさを増し、風は轟々と強くなり嵐の予感をおもわせる

鳥は鳴くのをやめ、雨と風の音だけが響く


夜は更け、外では雨の降る音と、風のゴーという音が絶えず

暗い闇の中響き渡る

家の中では、味噌の焦げる匂いと、滴る油で炎が上がり煙が混じり合い

なんともいえないおいしそうな匂いが家の中に充満する

セフィは串に刺し囲炉裏の上で焼ける肉に、目を輝かせ唾を何度も飲み込みながら

肉が焼けるのを待つ

「もう焼けたかな、食べてもいいかなー」

セフィは、楽しそうに体を左右に揺らす

ニーナ「よく焼いてから食べないと、お腹壊すよ」

マリー「いい匂いですわね、でもこの肉はなんの肉ですの?」

ニーナ「これは、シシの肉ですよ」

セフィ「そうだぜ、いきなり突進して来て、何かにぶつかるまで止まらないやつだ」

マリー「おっほほ、まるでセフィみたいですね」

セフィ「な、なんだと、おれは、ぶつかる前にちゃんと避けるぞ」

マリー「何も考えず、突っ込んでいくところは否定しないんですね、おっほほ」

セフィは悔しそうに「な、何言ってるんだ、ちゃんと考えてるぞ、くそ」

スランは、焼けた肉を頬張りながら「なに、からかってんだ、もう肉焼けてるぞ」

セフィは肉を食っているスランを見て「あっ」と言うと、素早く串を取り焼けてる肉を口に入れもぐもぐ食べる

マリーは、スランを見て呟く「いつも冷静なことですわね」

スラン「ん?」マリーをちらりと見る

ニーナはそんな様子を見て、また喧嘩になるのではないかと心配になり、焼けた肉が刺さっている串を取りそれを

「マリー焼けてるよ、美味しいから食べて」とマリーに手渡す

マリーはニーナから手渡された肉を一口頬張る

肉は柔らかくて簡単にかみちぎれ、口の中には味噌と肉の香ばしい香りが広がり、噛めば噛むほど肉の脂と塩味で喉の奥まで勝手に流れて

勝手に次の肉に噛みついてしまう、

マリーは笑顔になり無言で、食べ続ける

ニーナは嬉しそうに食べているマリーを見てホッとして胸をなで下ろす

そして、ニーナも肉を頬張る、


どれくらい、肉を焼いたのだろうか、肉から滴り落ちる脂が囲炉裏の炎で燃えて煙を出し、家の中は煙ですこし霞んでいる

4人と1匹は、そんなことはあまり気にする様子もなく、ただお腹いっぱいに食べてはしゃぎ夜は更けていった


次の朝、空は晴れわたり昨日の雨で、屋根から地面にポタポタと水が滴りキラキラと太陽の光を反射する

風は穏やかですこし暖かく湿り、夏が来るのを思わせる、そして、鳥のさえずりがあたりに響く

家の扉が開き、セフィがすこし青ざめた様子でお腹を手でおさえて家の裏の方に消えていった

数分後、スランもセフィを追いかけるように家の裏に歩いていく

家の裏からすこし離れたところにポツンと小さな小屋が建っている

その小屋の前に立ち、スランは手を伸ばし小屋の扉をあけようとする、

しかし、扉は鍵がかかっているようで開かない、

ドンドン、スランは扉を叩く

扉の奥から「入ってます」とセフィの声が聞こえて来る

「早く出ろ」

「さっき入ったばかりで無理」

「いいから出ろ」

「ちょっと離れたところに、もう一つあるだろうそっち行けよ」

爽やかな鳥の鳴き声があたりに響く

スランは誰かがの視線を感じ振り向く

「あん、マリーなんかようか?」

「え、マリー」

マリーはすこし恥ずかしそうに

「あ、うん、なんでもない」と来た方に戻っていった

スランは扉をドンドン叩く

「まだかよ、早く出ろよ」

扉の奥からセフィが「当分出ないから、向こういけよスラン」

「ちっ」

スランは諦めてすこし離れたトイレに向かってふらふらと歩いて行った

今にも出そうなのを我慢して、スランは歩き隣のトイレの前に立ち

トイレの扉を開けようとしたが、鍵が掛かっていて開かない

「くっ」

スランはまた扉をドンドン叩く

トイレの中からは返事は無い

「おい、だれも入ってなかったら、扉のぶっ壊してでも入るぞ」と扉をドンドン叩く

「きゃー、入ってるからやめてー」とマリーの声が聞こえて来た

スランは不機嫌になり大きな声で

「なんだ、マリー入ってるなら返事しろよ」

「ちょっと、声が大きい、それにどっか行ってよ」

「あー、もう我慢できないんだよ、だからすぐ出ろ」

「む、無理よあたしも今、入ったばかりで今にも・・・だからどっか行ってー」

「わかった、すこしだけ待ってやる、だから早く済ませろ」

「いやー、とりあえず100メートルぐらい離れてー」

「アホか、そんなに離れたら隣のトイレまで、行ってしまうじゃないか」

「いやー、どっか行ってもう・・・」

誰かが近ずいて来る足音をスランは気がついた、スランは足音の方を見てみると

爽やかな笑顔で立っているセフィがいた

セフィは片手を上げスランに向かって「よっ」と挨拶した

「くそ」

スランは捨て台詞をのこして、最初に使おうとしてたトイレの方に歩いて行った

マリーはスランが離れていく足音を聴きながら、すこしホッとした、

でも、まだ近くに誰かがいるような気配をマリーは感じていた

震えるような声で「ま、まだ近くにだれかいますの?」

返事は返ってこない

マリーは我慢の限界をこえつつあった、ところに

「セフィそんなところで何してるの?」ニーナの叫びごえが近ずいて来る

『も、もしかしてセフィが近くにいる?』

マリーはトイレから出て周りを確認することは、出来ないぐらい限界にきている

セフィが近くにいるとかもしれないと考えると、どうしても我慢してしまう、

「セフィ何もしてないんだったら、水汲みしてきて」

ニーナの声がすぐ近くで聞こえる

「ニーナ、そこにセフィいますの?」

「マリートイレなの?」

「う、うん」

ニーナは、ハッとしてセフィの腕を掴んで

「セフィ行くわよ、こっちに来なさい」とセフィを引っ張る

「やだよー、おれマリーに聞かれたから、マリーのも聞くんだー!」

マリーが叫ぶ「きゃー、ニーナお願い早く連れて行ってーそのバカを!」

ニーナはセフィの頭にげんこついれて、ひこずって連れて行った

そして、あたりは静けさを取り戻す

鳥の鳴き声があたりに響く

マリーは至福の表情で喜びに包まれる

「ふっ」

「え、だれ?」マリーはどきりとする

マリーは慌てて服装を整えてトイレから出て、見渡すが人の姿は見えない

『き、気のせい・・・よね・・・それより、セフィあいつだけは』

マリーは怒りがこみ上げて来て叫ぶ

「セフィ覚悟しなさいよ」


セフィが水桶を片手に一つ両手に持って家の方に歩いて来る

その姿をマリーは両腕を胸の前で組んで、セフィが目の前を通り過ぎるのを無言で見ている

セフィが水桶から水瓶に移し終わるのをみると

「ちょっと、セフィ」

マリーをちらりとみて、頭を描きながら

「なんだよ、マリー」

セフィを睨みながら

「ちょっと、こっちに来なさい」

セフィは嫌そうにして

「用ならここで聞くよ」

「ついて来なさい、良いもの見せてあげるわ」

いやいやセフィはマリーについて行った

「こっちよ」

セフィは仕方なくマリーの方に歩いて行くと、

突然、足がズボズボと地面にめり込んで行った

「な、なんだこりゃ足が地面にすいこまれる」

セフィは慌てめり込んだ足をあげると、反対の足がさらにめり込んで行く、

踏ん張ることもできずフラフラしていると、あっという間に首のあたりまで地面に吸い込まれていった

マリーが腕を斜めに振り「解除」と唱える

泥のようにセフィを吸い込んだ地面は元の硬さに戻りセフィは首まで地面に埋められてしまった

「う、動けない、マリーなにすんだよ」

マリーは右手を口に当て「おーほっほーー」と笑う

「笑ってないで、だしてよー」

「何言ってますの、わたしに恥ずかしい思いをさして、タダで済むと思ってますの?」

「なんだよ、恥ずかしい思いって?なんなのかちゃんと言ってよ」

マリーは恥ずかしそうに「わたしの、あの時のアレの・・・お・・・との・・・」

「なんだよ、あれってなんだよ、はっきり言えよ」

「あれはあれよ・・・」

「あれは、あれよって、なんの音だよ」

マリーは顔を真っ赤にして「あ、あなた、わかってて言わそうとしてますわね!」

「おれ、聞いてないよ、トイレの時の音なんかー」

「あー、やっぱり、そこで埋まって、畑の肥やしになれ」マリーはセフィの頭を踏みつける

「痛い痛い、毛が抜ける」

その時、遠くの方から「おーいー!」

叫んでいるのをマリーが気がつき、遠くの方を見る

「だれだろう?」

人影は、いくつもあり近ずいて来る

「おーいー、マリーちゃん何してるんだー」

「あー、みんなおかえりー」とマリーは大きく腕を振る

腕を振るマリーを見て、子供達が走り寄って来る

「マリーただいま」

子供達は土に埋まっているセフィに気がつく

「な、生首?」子供達はびっくりする

驚いている子供達に

「びよーろんー、首いてーよー体どこだびょーん」と変な声出してふざける

子供達はさらに驚き、マリーに抱きつく

マリーは怒り、「なにやってんのよ」とセフィの頭を蹴飛ばす

「痛い痛い、冗談だっって」

子供達はホッとして

「な、なんだセフィにーちゃんか、なにしてんの?」

とセフィに近づいていく

「おまえら近づくんじゃ無い」

「もしかして動けない?」ニヤニヤしながらセフィに近づく

「く、来るな」

子供達は笑いながら、セフィの頭を指で突っつく

「やめろー」

村の大人たちが「セフィ、悪さばかりするから埋められたんだな、すこし反省してろ」と笑っている

「そうそう、これを見ろ」と村の大人達が見せびらかす

そこには、ピクリとも動かない大きなシシがいる

「どうだ、でかいだろう、ここに来る途中にな、大岩に突進して動かなくなったのを捕まえたんだ、すごいだろう」

違う村の大人が「それにな、世話になってた村の人たちからな、帰るときにこれ持って帰れと酒いっぱいもらって来たぞ、今夜はシシと酒でぱーとみんなでやるか」

子供達は両手を上げ喜び、セフィは目をきらめかせ地面に埋まったまま喜ぶ

「え・・・」マリーはあまり嬉しく無いようだ

「マリーちゃんも、遠慮せんといっぱい食べや」

「は、はい、いただきますわ、おっほっー」

日は暮れ、夜になりあたりは美味しそうな匂いと賑やかな騒ぎごえが響く

そして朝になり、またトイレの取り合いが始まる。





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次元を超えて 山本 シン @kaku4522

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