愛された男
北海ハル
男は常に秘密を抱く
女は、その男を愛していた。
どこに行くにも女はその男を連れ回し、買い物や食事の会計の時は必ず彼が払う。
彼がいないと、彼女は何もできない。
炊事、洗濯、掃除……。
それらは全て、彼がいるからこそできる事なのだ。
男は時に女のもとを離れる。
その度に女は嘆き、悲しんだ。
明日からの生活を考えると、地獄のようだった。
たが、たとえ男がどんな他の女と一緒にいても、女がそれに口出しする事はできなかった。
男にとって、これが普通だからである。
男を振り回す女と、女を悲しませる男。
こんな悲しき関係でも、二人が別れることはできなかった。
ある時、女が誤って男を海へ追いやり、そのまま男は沖へと流され帰らぬ人となった。
女はまた嘆き、喚き、近くの人の支えでようやく立ち上がる事ができた。
男を失った────それは女にとって、絶望を意味するものだったのである。
浜辺で、女が喚いていた。
夏のビーチの暑さと相まって、そのうるささは尋常ではない。
他の客にも迷惑だろうと、近くで海の家を営む主人が女のもとへ駆け付けた。
ひどく肌の荒れた女だった。そのくせ格好や持ち物は派手で、金遣いの荒さが目に見えて分かった。
改めて海の家の主人が聞く。
「ちょっと、一体どうしたんですか」
すると女は涙を拭い、今度は怒りの表情で主人の方を見た。
「どうしたもこうしたもないわよ!財布から一万円を取り出して何か買おうと思ったら突然風が吹いて飛んで行っちゃったのよ!」
「飛んで行っちゃったって……その……諭吉?」
「そうよ!来週の給料日までの最後の一枚!あの諭吉がいなくなったら、私明日からどうすればいいのよ!!」
愛された男 北海ハル @hata
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