第七話 王の器

「一言恫喝してやる。門前に来る者は手筈通り追い返せ」


『了解です』


 通信の魔法を閉じると、国王が何処か不思議そうな顔で此方を見ていた。その顔には僅かに安堵のようなものが垣間見えた。対話の余地がある、ただ虐殺を望む反逆者ではない事を察したのだろう。


「君はとても誠実そうだ。それがこの様な手段を取るに至ったのなら、相応の理由もあろう。私は、君の話を聞かねばならぬようだな」


 申し訳なさそうに、けれどそれが自らに課せられた責務であると理解した国王は、少しだけ余裕のある顔で勇ましく微笑んだ。


「物分かりが良くて助かるぞ、国王陛下」


 その後、城に張り巡らせた結界の魔法陣を拡声器代わりにして、城下町中に響き渡る程度に城を制圧した事、国王と王妃を人質にした事、無駄な抵抗や発起はせぬようにと警告を告げた。


 それで引くとは思っていなかったが、やはり決起した警備隊が門前に押し寄せた。張り巡らせた結界の情報が脳裏に過ぎる。国王と王妃を移動させる傍ら、結界の陣を通して仲間と警備隊のやり取りを見る。


『此処を開けてくれと言って、譲るはずはないと分かっているが、何故こんな事をするのだね!首謀者は何処だい?』


『貴様ら騎士団に話すことはない。立ち去れ!』


『城を制圧して、両陛下を人質にして、何を望むのだね。何が目的だね?』


『我々は会話の場を持つだけだ。無駄な抵抗は状況悪化を招くだけだぞ』


 強力な結界を前に、警備隊は渋い顔をして撤退していった。賢明な判断だ。


 王妃を寝室へ移動させたところで仲間の女たちと合流した。仲間は皆顔を隠させている。無用な前科を課すわけにはいかない。


「無駄な抵抗はするな。逃げようなどと思わぬ事だ。星の民と火の民、女であろうと体力腕力の差がある事は明白。怪我はさせたくない」


「私の姫君、この彼と共に行ってくるが、案ずる事はない。私の剣の腕は承知の上だろう?君は少し、休んで」


 王妃の手を取り口付けを落とした王は、厳格な雰囲気を纏ってオレに相対した。


「無駄な抵抗はしない。君は会話の場をと言った。ならば私はそれに応じる覚悟がある。君を、その瞳の力強さを信じよう。そして、聡明な弟君も」


 微笑んだ国王の顔には老人特有の威厳さと余裕さが見れた。この国王が不正や格差を許すようには思えない。王すらも知らぬ闇がある。疑心暗鬼だった不信の核心が見え始めた気がした。


「国王陛下、誠に勝手ながら、仲間に会計士たちの纏めた帳簿を探らせている。現場に立ち会って頂けるか?」


「分かった。行こう」


 ハッキリとした返答と共に、オレたち兄弟と国王は税務部の書庫へと移動をした。

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