第六話 国王
国王と王妃は玉座の間で捕縛の魔法によって捕らえられていた。先ほど、転送魔法を張り巡らせた時に、この二人だけはこの場に留めておくために別の魔法を施しておいたのだ。
「……私になんの要件だ?」
王座の前に座り込んで此方を見上げている初老の国王は、深く刻まれた皺に厳格さを醸しながら、何処か穏やかな面持ちをしている。それが今は険しさを写して歪んでいる。
「オレは郊外に住む火の民、名をロジェと言う。国王陛下、貴方に問いたい事があって手荒な真似に至らせてもらった。貴方の出方次第では、危害を加えるつもりはない」
「ならば先に私の質問にも答えたまえ。何故書状を送り、正規の手続きを持ってこの場に現れなかった?」
「どの口がその言葉を効くか!」
瞬間的だった。一瞬で頭に血が上り、殺意が口から反射的に飛び出した。シラを切るな。今すぐ、殺してやろうか!強烈な怒りの感情が脳天を突いた。
「待って、兄さん」
肩に乗せたままだった弟モーリスがペシリとオレの頭を叩いた。
「獣の意識に引き摺られないで」
憑き物が落ちる、とはこの事かと言うほどさっと冷静になれた。今のが獣による侵食か。これ程までに強く意識に介入するのかと、己の中に取り込んだ力の強大さにヒヤリと肝が冷えた。強く自分を保たなければ、獣はすぐさまこの身体を我が物にしようと侵食するのだ。
此方が冷静になった一方で、威嚇してしまった国王と王妃は萎縮してしまい、特に王妃はガタガタと身体を震わせている。高い女の扱いはこれだから困るのだ。同じ火の民の女なら、此方にビンタの一つもくれてやろうと吠えるものだが、民の違いは気性の違いだ。
「君、どうやら私たちの見解に決定的な齟齬があるようだ。誤解を招きかねない。申し訳ないが、彼女をまずは何処か安全な所へ移してやってくれないか?それから、キチンと君の話を聞こう」
萎縮したと思った国王の眼光は、萎縮するどころかより強い光を湛えて此方を見据えていた。先ほど、門前で出会った少年騎士を思い起こさせる瞳に、オレは一つ息を吐いた。この国王にして、あの少年騎士ありと言うところか。
指先に光る魔法陣を呼び起こし、それを頭の上の耳元へやる。
「オレだ。手筈よりも早いが、王妃の世話係を寄越せ。国王の寝室だ。オレも一度移動する。そうだ、茶の用意もさせろ」
通信の魔法で仲間に伝達を送る。了承の言葉の後に、仲間があの、と切り出した。
『ロジェさん、正門の前に警備の騎士のやつらが集まってます。どうしますか?』
やはり、場外にも騎士団の者が残っていたか。城下町でも何事かが起こっていると憶測が飛び交う頃合だろう。ならば、明確にしてやろう。
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