第五話 希望の星

 しかし、力強く真っ直ぐ過ぎるその視線に、少しばかり悪戯心が芽生えた。


「オレの行いを謀反と言うならば、お前の正義とは何だ?」


 少し煽ってやろうと継げた言葉に、恐ろしいほど真っ直ぐな声色が返って来た。


「戯言を!国王に仕える身、国王に仇なす者は私が切り捨てる!」


 何と言った。国王に仇なす者は切り捨てると言ったぞ。恐ろしいほど真っ直ぐで、純粋で、何も知らない少年騎士だ。己が仕える王国の裏で闇が渦巻いているなど、夢にも思わないだろう。なんと愚かで、なんと立派な騎士だろうか。


「ガッハハハ!お前のような真っ直ぐな男は面白い!だが、もう少し世界を知るが良い!」


 お前の様な男を殺さず、国の改正を行わなければならない。この国に本当に必要なのは、このように勇敢で真摯な騎士だ。


 感心しているのも束の間、魔道騎士たちによる捕縛魔法の魔法陣がオレの足元に組み上がっていた。構えようとした腕も、一歩を踏み出そうとした足も異様に重い。


「観念しろ!」


 さあこれで決着が着くと思ったのだろう。少年騎士が勇ましくも両手に剣を構えてオレに相対する。外部からの魔力による拘束術だが、【契約】の力を得たオレに、この程度の魔力で動きを封じようというのが間違っているのだ。【契約】の力を持ってすれば、ヒト数人分の魔力も児戯に等しい。


「この程度の魔力を持ってして王家直属の騎士団とは、片腹痛いわ!」

「何だと?」


 演出的に唸り声を上げ、両腕と腹に力を篭めれば、足元や周囲に展開していた魔法陣にヒビが入り、恫喝と共に振り払った腕の先で方陣が硝子のように粉々に砕け散った。法陣を造り上げていた魔力が術者に跳ね返り、一個小隊であろう集団が膝を着き、中には昏倒する者まで居た。貧弱よなあ。月の民とは言え、この偏狭の地で偉大なる大魔導を目指すには、知識も経験も足りないようだ。


「何て力だ!」


 【契約】の力に恐れ戦くかと思いきや、例の少年騎士は今だ強い眼光でオレを見据えていた。その瞳が本来の国を写してくれる事を切に願おう。


「残念だがこれで終いだ!」


 これ以上の干渉は無粋だ。


 城内にある生体反応を全て探し出し、ひとつひとつに的を繋げる。一人に一つの魔法陣を設えるその工程も、本来ならひとつずつ行うものだが、【契約】の力はそれを一括で行える程に強大だった。


 両腕を広げて、城内のヒトに取り付けた魔法陣の導火線を集約させる。単純な転送用魔法だが、規模と速度が明らかに違う。魔法陣は城を覆い尽くし、周囲に居た騎士達にも繋げていく。


「消えてしまえ!」


 咆哮と同時に魔法陣を起動させ、周囲に居た騎士達や門番達、更には城内に居た使用人達も一斉に魔法で転送を行なった。


 彼らが消えた後、そこにはオレの反旗に賛同した集落の仲間達が召喚されて居た。


「流石です、ロジェさん」


 召喚され、背に弟のモーリスを背負って来た青年がオレの横に並び、賞賛の眼差しと声を掛けてきた。弟がにこりと笑ってお疲れ様、と呟き、仲間の背から降りた。


「国王と王妃を押える。お前達は手筈通り会計帳簿や書簡を探せ。万が一取り零した使用人がいたら確保しろ。手荒な真似はしたくない。抵抗するならこれを使え」


 仲間の一人に呪符を何枚か渡す。弟モーリス手製の捕縛呪符だ。身体のどこかに貼れば動きを封じられる。


「【ガーディアン・キー】、クローズ」


 詠唱と共に腹の扉が開き、オレと分離したフィエーロが扉の中に姿を消し、閉じた扉から鍵が浮き上がると、それは光を落としながらオレの右腕に戻った。


「国王へ謁見と行こう」


 幼い弟を肩へ乗せ、オレたちは城の中へと足を進めた。

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