第四話 契約の発動

「止まれ。この先は許可無き者を通すわけにはいかない」


 城内の奥を目指すと、案の定ではあるが門番の兵士に行く手を止められた。


「幾度か書状を送っていた者だ。一向に返答が無い故、此方から出向かせてもらった。王に謁見したい」


 門番の男は深く溜息を吐いて、困った客が来たものだと言うあからさまな顔をした。通例どおりに行かない困った客人も多いのだろう。とは言え、オレをそこらの珍客と同じに見てもらっては困るのだ。


「ならば、力ずくで押し通るまで!」


 すうっと吸った息で、頭の中に浮かぶ獣の言葉を、人の言葉にして吐き出す。


「我が契約せし白き獣、その名をフィエーロ。竜神の意志に触れる契約の力、今此処に我が得し超越の力を顕現されたし【ガーディアン・キー】!」


 詠唱を終えると同時に、腕に刻まれた【契約の印】が光を放ち、高密度の魔素の粒子となって鍵の形に変化した。同時にオレの腹に光を湛える鍵穴と扉が出現し、鍵が鍵穴に吸い込まれて扉が開いた。周囲一帯に魔力の波が広がり、腹の中から獣の咆哮が轟く。開いた扉からぬっと白い獣が顔を覗かせ、程なくその大きな翼を広げた。その翼に包まれるようにオレは獣と融合した。


 体が膨張するような、体中の細胞が活性化するような、神経の隅々に意識が行き渡るような感覚の後、澄み渡る思考の中でオレは宣言した。


「王よ!オレの声が聞こえるか?この歪み切った国の制裁に来たぞ!さあ観念しろ!」


 それは脅しであり、煽り文句であり、挑発の言葉だ。巡回中であったり、持ち場に就いていた騎士たちが一斉にオレに注意を向ける。中には【契約】の魔力に中てられて動けない者や、単に何が起こっているのか理解出来ずに立ち尽くす者も多い。そんな中で、凛とした声が響き渡った。


「門を閉めろ!男を押さえろ!逆賊だ!」


 まだ幼さを残した顔の少年騎士だ。それがこの状況下で勇敢にもいっぱしの騎士並に声を上げて周囲へ警鐘を飛ばしている。中々見上げたものだ。


 しかし、それに周りが付いて行かない。王国騎士団などと、聞いて呆れる。平和ボケにも程があるぞ。


 とは言え、少年騎士の声に反応した者もいた。長いローブをはためかせて門前に姿を現したのは、魔法使いたちによる魔道騎士の集団だ。オレの姿に一瞬怯みつつも、各々手に杖を構える。


「魔道騎士団!守りの方陣を展開させろ!あの男には捕縛方陣だ!白銀騎士団!剣を持ち、方陣完成までの時間を稼げ!」


 少年騎士が叫ぶと同時に、帯刀していた小剣二振りを構え、中々の速度で此方に切り掛かって来た。その一撃を鋭い爪の生えた手で払い、続けざまに放たれた二撃目も体を捻って避ける。


「なるほど、この国にもいまだ勇気ある者が居るようだ」


「何を言うか!逆賊め!」


 逆賊、とオレを罵り、睨む眼光の強さに感心した。なるほど、この国には僅かながら騎士と呼べる者がいるようだ。なるべく無駄な殺生はしないでくれと弟に乞われて立てた計画が功を奏しそうだ。このような若者を殺してしまっては、今後の国の再建に関わる。

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