第三話 決起する者たち

 程なく季節は乾季に移り、集落の若者の大半が鉱山へと入り仕事をする時期。オレは国への不満・疑心を抱く同士を集め、国への訴えを起こす事、【契約】の事を話した。集落の多くの若者たちは、自分たちの時代をより良く作り上げる為、国王に話がしたいと賛同の声を上げた。年老いた集落の者たちも反対はしなかった。


 ただ一人、浮かない顔をしていたのは、弟のモーリスだった。そんな風に力を手に入れなくても、と嘆く弟の指先や手に、見知った紋章が刻まれているのをオレは知っている。


 弟の持っていた魔動書から【契約】のくだりを見つけたのだから。


 病弱な弟が家族に隠れて何をしていたのか、察しは着く。けれど弟のモーリスはオレを責めるでもなく、城の襲撃に関していくつもの案と意見を出した。


「……兄さんに死んでもらっては困るから」


 そう笑う弟の顔は悲しげだった。しかし、もう後戻りなど出来ないのだ。力を手に入れてしまった代償に、オレは進む以外の道を捨ててしまったのだから。


 事を仕損じた時、オレは密かに集落の人間を全て別の土地へと旅立たせた上で、一人で罰を受けようと考えていた。強大な魔力は巨大な転送魔法すらも可能にした。罪なき集落の民に罪の十字架を背負わせる訳にはいかなかった。全てが上手くいくなどとは微塵も考えていない。成功は万に一つ。ただただオレたちは死地に赴くだけだった。


 その日は良く晴れ、空にはうっすらと雲の膜がかかっていた。青い空はぼんやりとその色を薄め、吹く風は少しだけひんやりと乾季の風そのものだった。


 早朝、オレと仲間たちは郊外の森の奥で転送魔法の準備をしていた。膝丈まで生い茂った草を掻き分け、総勢三十人弱の同士全てに城への転送魔法を施し、それをホールドさせた状態で、オレ一人だけを城下町へと転送した。


 予め城下町の裏路地に転送先を設置しておいた。転送時のねじられる様な感覚の後、遠くに人々の喧騒が聞こえてきた。この幸せな声の向こうで、オレたち郊外の人間がどれだけ無下にされてきたか。それを知らずに暮らしている星の民にも怒りを覚えた。


 それが、【契約】によって増幅された感情だと、その時は知るよしも無かった。


 裏路地から出てきた先の城下町は、昼時と言う事もあり多くの人々で賑わいを見せていた。他の民たちの姿も所々で目にし、この国は以外と大きく発展していた事を知る。しかし、その発展は我々原住の民が在ってこそなのだと、己の闇が深く、そして己の内のガーディアンがその闇に歓喜するのが分かった。


 一般開放されている場内へ入る前に、城の周りの遊歩道を一周し、巨大転送魔法の下準備をする。【契約】によって得た強大な魔力は、下準備の方陣を隠す技術すらも与えてくれた。周回している警備兵も気付く事はあるまい。


 準備は整った。相変わらず薄い青の空を眺め、乾いた風に深呼吸し、オレは開放されている場内へと足を進めた。

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