現れた悪魔
毎日が同じように続くこの世界に飽き飽きしながら、虚樹 丙(うろき ひのえ)は今日も電車に揺られている。
他人の肌と肌が密着している、この不自然な空間に、息苦しさを感じながら。汚れきった川を流されていく落ちた紅葉(もみじ)の様に、ただ流れに身を任せている。
現在の日本で、超能力を使える人口は全体の70%を超えている。
丙(ひのえ)は幼い頃から超能力を使うことを夢に見てきたが、本来なら5歳までに見られる能力の兆候が現在に至るまで見られていない。つまり未能力者だということだ。
後天的に能力を使えるようになるという話を聞いて、都会の超能力技術学校に進学をしたが、入学早々彼の期待は軽石の様に砕かれた。
後天的に能力が使えるようになった前例はないのだと、どの教員からも同じ答えが返ってきた。
あの話はデマだったのだと知り、この学校に通う意味が無くなったにもかかわらず、彼は今日も満員電車に揺られている。
きっと期待をしているからだろう。都会という非日常に身を置くことで、ひょっとしたら何か起きるのではと。
丙(ひのえ)が通っている学校は超能力を磨くための専門学校だが、二年次からの専攻で対超能力犯罪学科や超能力研究学科があることで、未能力者も一般試験さえ受かれば入学することが出来る。
今年の一年生では丙だけが未能力者だが、
それは当然だろう、未能力者が能力者ばかりのところに入ればどんな扱いを受けるのか、大体予想がつくはずだ。
彼の場合は、いじめられこそしていないが入学してから半年、友達と呼べる人は一人もできていなかった。
第二学園都市前駅に電車が停車すると、多くの学生がドアから流れでて行く。
(押しあわず、前の人に続いてお降りください)
アナウンスなど聞こえていないかのように、後ろから押されて電車を降りる。
駅を北口から出ると目の前には大きな建物が立ち並んでいる。
これらはすべて教育機関だ。駅を中心に半径3キロ、いや、もっとあったかも知れないが、こんな風景がずっと続いている。
丙;俺の通う学校は駅から徒歩15分、まっすぐ伸びたこの道を歩くと右にある。
駅の地下から学校までは繋がっているが、晴れの日は太陽の光を浴びながら学校へ向かう。
俺と同時に駅を出てきた学生は多い、
俺には友達と呼べるやつなんか一人もいない、けどそれでいいと思ってる、そんなものはこちらから願い下げだ。この学校には友達にしたいやつなんか一人もいない。
どいつもこいつも自分を一番だと思ってやがる。自分より力の弱いと分かったやつをバカにしだす。
そのうち、俺みてえな未能力者は叩いても何も出ないと分かると、眼中にも入れなくなる。
四年間をやり過ごすには今の扱いの方が気が楽でいい。
丙が校門の近くまで来たときに、どこからともなく声が聞こえた。
「本当にそれでいいのですかな?」
友達と話ながら校門を通り抜ける女子生徒、自転車を押しながら歩く男子学生
あたりにいる人間は丙(ひのえ)の存在を気にすることなく動いている。
丙:誰か俺に話かけたか?
「話しかけているではないですか」
丙:心を読んでる?
「ダダ漏れですなあ」
丙の目の前にひょろりとした背の高い男が現れた。
円筒形の帽子を被っていて、鼻を赤く染めたらまるで道化師(ピエロ)だ。
足は地面から離れていて、見えない腰掛に寄りかかっているような体勢でいる。
丙:横を素通りする人たちはこいつに気付いていないのか? 宙を浮くようなやつを見て驚かないのか?
「彼らには見えていませんよ。お初にお目にかかります、わたくし、そうですねえ.....hate love、わたくしのことはヘイブとでも呼んで下さい」
「ヘイトラブ、愛を憎む?」
丙:ネーミングセンスのかけらもねえが、道具もなしで宙を浮く奇妙な魔法
「お前、悪魔だな」
「よくおわかりで」
j丙:愛を憎む物、光を愛せざる者。
「メフィストフェレス」
「そんな呼ばれ方もしていましたかねえ。まあ、どう呼ぼうとあなたの勝手ですが、本来、私達に名などありゃしませんからね」
「何をしに来たんだ」
「やはり面白い、私の正体を知っても恐れないとはね。まあ予想はしていましたよ、あなたは非日常を求めているのでしょう。こんな世界には飽き飽きしているはずだ。だから、私が救いに来たのですよ」
「お前に何が分かる」
「前例がないからといって希望を捨てるというのはどうしようもない奴がすることでは?」
こいつに何が分かるってんだ。
「俺がここにいんのは希望を捨てられねえからだ。希望を持てっつうなら、俺はなにをすりゃあいい」
メフィストはニヤリと笑った
「私と契約なさればいいのです」
視線に気づき周りを見ると、学校へ向かう学生たちが皆、丙を見ている。
「ずいぶん変な目で見られていますねえ。そりゃ、あの方々には私が見えていないのですから当然ですが」
丙:目の前の変なやつは症状を変えることなく、ニヤリと俺を見てる。
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