第41話 横浜作戦 その11
まさしく混沌の様相を呈する戦場にて、タマルは宙を舞っていた。地上では、ティーを中心として、巨大ジーズがその触手で次々と少女を捕獲し、ティーの元まで運んでいる。そうなれば接触する前に次元結晶による脱出をせねばならず、PVDO側の戦力は刻一刻と減っていく。更に外周からは大量のジーズ達が押し寄せ、挟み撃ちの形を取られている。
「タマル、ジーズを吹き飛ばすにはどれくらい溜める必要がある?」
無線越しにタムが質問する。
「完全に破壊するには『フリーズ』込みでも1分くらいです。一時的に動きを止めるだけなら、その半分もあれば」
1分、それは現状を考えると途方もなく長い時間に思えた。しかもここでタマルの『フリーズ』を切れば、ティーへの対抗手段が無くなる。
「分かった。ひとまず溜めたまま待機だ」
タムは考える。
任務目標はあくまでも増殖型の破壊と少女の救出。
近距離では覚醒者ティーによる接触。
中距離では触手型ジーズによる捕縛。
遠距離では汎用型ジーズによる包囲。
少女達に安全地帯などなく、どこにいても脅威に晒されている。各個人の能力を使って耐えていても、いつかは限界が来る。
この時点でタムが思いついた策は4つ。
1つは、何とか触手型とティーの攻撃を掻い潜り、捉えられた少女を殺害する事。成功した場合、任務目標の半分は達成されるが、半分は失敗となる。そもそも成功率が低く、ティーに近づく必要がある為多くの犠牲を伴う。
1つは、このままタマルの『チャージショット』が準備出来るのを凌ぎつつ待ち、触手型を破壊した後でティーと交戦という流れ。上手くいけば少女の確保が可能ではあるが、1分後に十分な戦力が残っている可能性は低い。
1つは、2種類のジーズを完全に無視してティーに向かう突撃案。不利な状況を踏まえた上でティーの討伐を優先する。大きな犠牲を伴い、今回の任務も達成が困難にはなるが、ティーさえ討ち取れば戦いその物に決着がつけられる。
1つは、完全撤退。任務は失敗するが犠牲は出ない。これを選択した場合、現実世界に大きな被害が出る事を意味する。
いずれの策にも問題があり、失敗もある。選択を誤れば最悪の結果が待っているかもしれない。いや、正しい選択など最初から無く、既に詰んでいる可能性もある。流石のタムといえど予想以上にハードな状況に躊躇する。目を瞑ったまま、ありとあらゆる可能性を考え、最適な選択を探す。
その時、無線からシャルルの声が聞こえた。
「タムさん、1つ良いですか?」
「……何だ?」
「触手型ジーズは、私達だけを的確に捕縛しています。目のような器官があるのか、ティーが操作しているのかは不明ですが、上手くティーの気を逸らす事が出来れば……」
そこまで言った時、タムが新たな選択肢に気づく。同時、判断を下す。
「全員でラルカを狙え! 奴がジーズの指揮をとっている。触手型とティーは無視して、邪魔する汎用型だけを倒してラルカとの距離を詰めろ」
それは少女達にとって意外な指示だった。この場面でラルカを倒す事に何の意味があるのか。確かに、汎用型の統率を取っているラルカを倒せば包囲は解けるかもしれない。だが結局撤退するならばバラバラに逃げた方が狙いが散る分だけ得策に思えた。もちろん背信者の討伐はPVDOの利益ではあるが、今回の任務を放棄してでも行うべきなのかどうか。中には、私怨による策ではないかと疑う者もいた。そんな空気を無線越しに察したのか、シャルルが発言する。
「私はタムさんを信じます」
タムがそれに答えるように告げる、
「詳しい作戦を説明している時間がない。今回の任務における最後の命令を伝える、ラルカの討伐が完了次第、全員撤退。以上」
そして無線が切れる。
最初に動き出したのはミカゲとビュティヘアだった。ラルカへの距離が近いというのもあるが、それ以上に先ほど失ったばかりのチームメンバーが頭を過ぎった。彼女たちを無駄死にさせる訳にはいかない。その為に、命令には最後まで従う。
「私達に続け!」
ミカゲが叫び、その後に何人かの少女が追従した、
「おや? やけに諦めが良いな。君達の指揮官はせめて一矢ってタイプじゃないと思っていたが、見誤ったかな?」
方向を変える少女達を見てティーがそう呟いた。同時にラルカも矛先が自分に向かっている事に気づいた。
「よってたかって弱い者いじめって訳ね。あいつらしいわ」
そして声を張り上げる。
「あんた達目的見失ってんじゃないわよ! あいつの指示に従っても良い事なんてないわよお!」
減らされたとはいえ、残りの少女は30人あまり。流石にこの数に囲まれればラルカとて無事では済まない。
「ちっ。めんどくさ」
ラルカは近くにいる汎用型ジーズに足止めを命令し、逃げ出した。一方、ティーは投擲攻撃を再開して少女達を追撃するが、触手型ジーズは動かない。動かせないのか動かさないのかは定かではないが、形状からして見ても何かを追うのには向いていないようだ。指揮を失った後方のジーズ達が右往左往していた。
作戦は、いよいよ大詰めを迎えていた。
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