第38話 横浜作戦 その8
ポップコーンの発動
C-20-L『岩石地帯』
戦闘エリアを岩石の多く置かれた荒野に変更する。
C―L系能力の発動により、場面は壁に囲まれた駅の構内から一転、広々とした荒野へと移った。能力の対象となったジンクスは分断された事にすぐ気づき、ここから脱出して戦場に戻るには、自分と相手のどちらかが死ななければならない事も理解した。
先手を取ったのは当然この状況に引き入れた張本人であるポップコーン。近くにあった石を掴み、それをジンクスに向かって投げつける。投擲は単純ではあるがリスクが少なく、『岩石地帯』においては非常に有効な攻撃方法と言えた。
ジンクスがそれを回避しようと動いた瞬間、追撃は思わぬ方向からやってきた。
ポップコーンの発動。
A-02-O『ドロー』
手元まで対象の物体を引き寄せる。
引き寄せる対象はジンクスの背後にあった岩石。ポップコーンが投げつけた石は囮であり、死角からの攻撃の布石だった。この奇襲に対して回避は不可能であり、ポップコーンとほぼ同じ重さの岩石が時速130kmでジンクスの背中に命中する。しかし、
ジンクスの発動。
C-23-M『ベクトル』
対象の物と同じ方向、同じ速さで移動する。
命中した瞬間、ジンクスは岩を対象にこの能力を発動する。それによって命中後のダメージを和らげると同時に、ポップコーンの『ドロー』による引き寄せ効果を逆に利用して接近を試みる。
そして、『岩石地帯』を有効に活用出来るのはポップコーンだけではない。
ジンクスの発動。
A-02-O『ドロー』
手元まで対象の物体を引き寄せる。
偶然にも同じ能力を持っていたジンクスはポップコーンの使った戦術をそっくりそのまま真似する事が出来た。囮は自分自身であり、ポップコーンの背後にも岩石はある。『ドロー』2つによる挟み撃ち。
次の瞬間、ジンクスの視界に奇妙な物が映った。ポップコーンの足元にあった石が、何に触れるでもなくふわりと浮かび上がったのだ。だが足元の石だけではない。周囲の、いやこの場所にある全ての石と岩が、磁石が反発するように浮き、互いが互いを弾き始めた。
ポップコーンの発動。
H-30-W『斥界』
全ての物が反発し合う。
この能力により、砂と石、石と岩、岩と地面、そして人と人。全ての物が反発し合うまさしくカオスな空間が生まれた。それはさながらポップコーンの内面を表しているようでもあり、先の事は誰にも予想出来ない。本人以外は。
「ポップコーンパーティー!」
弾けあった石が、ジンクスに命中する。数が多すぎて防御のしようがなく、先ほどまで最善の返しだった『ドロー』+『ベクトル』が裏目に出た。弾かれた石は頭部に命中し、ジンクスの『ドロー』による攻撃がポップコーンに命中する前に意識は失われた。
ポップコーンの勝利。
―――横浜駅―――
「ティーが現れただと!?」
ミカゲの率いるチーム4が地下街を無事に脱出し、駅構内に足を踏み入れた時、その緊急連絡が無線で届いた。ミカゲとビュティヘアが顔を見合わせ、最高レベルの緊張感を共有する。覚醒者の出現は、それだけ「まずい」事態だった。
無線からはタムが冷静に命令を続ける。
「各チーム予定は変更せず目的地へ急げ。だが決してティーに近づくな。距離を保って取り囲み、指示を待て」
タムが下した判断は撤退ではなく交戦だった。現時点で横浜駅内にいいるジーズのおよそ7割ほどを殲滅し、13チーム中9チームがまだ戦闘可能な状態にある。相手のH―W戦法を封じられた部分が大きく、状況は悪くない。
「……司令、覚醒者と戦うには準備が足りません」
ミカゲがそう指摘した。全てのチームが共有している交信で司令官であるタムに意見するのはそれなりに勇気が必要な事であったが、誰かが言わねばならない事だった。事前に準備をして、最適なチームを構成し、奇襲を仕掛けてそれでも負けて貴重な戦力を失ったのが以前の覚醒者との戦いだ。
「戦闘はするが勝てとは言っていない」
タムは一呼吸置いてから続ける。
「今から『奴』を投入する」
13チームとは別に用意された切り札。それは言うなればジョーカーだった。
「準備は良いか? タマル」
無線の向こうから今まで沈黙を守っていたタマルが声を出す。
「……いつでも行けます」
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