第34話 横浜作戦 その4
群れをなす人型ジーズ。同じ顔をした少女達。ぶつかり合う2つの集団。少女達の手には鋭利なナイフ。ジーズ側は武器を持たないが、数による圧力がある。斬られても追い縋り、掴んで離さない。命令通りに動く人形のように、1人を複数で囲んで制圧しようとする。一方で少女達は連携し、四肢の全てを使ってジーズを処理していく。乱戦、乱闘、そこはまさしく戦場だった。
―――横浜映 西口―――
出入り口としては最も広く、それだけにジーズの量も多いのが西口のバスターミナル周辺だった。地下とは違って天井による制限もなく、多少の障害物があるものの空間的には開けている。隠れる場所や裏道も無い為、ジーズとの交戦は避けて通れず、施設を包囲するにはネックになる箇所だった。放置すれば敵が自由に通れる出入り口として利用され、かといって封鎖するにはかなりの戦力を割かねばならない。
今回、その難しいポイントを引き受けたのが、PVDOにおいて最も多くの任務に参加し、そして生き残って来た少女、ケリーだった。
タムやノキと同じく1期生であり、楚々とした見た目に違わずその性格は冷静沈着。他の少女からの信頼も厚い。指揮官であるタムも、ケリーに関しては「任せるから良い感じにしてくれ」というざっくりとした命令しか下さない程だった。
今回の西口における任務においては、点と点ではなく面と面で当たる必要があり、その意味においてもケリーの能力は適任と言えた。ケリーの率いるチーム2はケリー以外の3人が全員サポートという構成であり、それには理由があった。
ケリーの発動。
C-12-G『劣化分身』
能力を持たない自身の分身を召喚する。
数だけを揃えるならば『カルキュラット』『番犬』、個体の質を高めるならば『用心棒』『猛獣使い』といったC-G系能力があるが、『劣化分身』の利点は召喚した分身が自発的に思考し、道具を使う所にある。
ケリーの発動。
A-12-I『インフィナイフ』
ナイフを召喚する。
自身の召喚した分身、更にサポート少女の召喚した分身それぞれに武器を持たせる事が可能で、しかもケリーの『劣化分身』はオプションにより武器術と近接格闘を習熟している。能力を持たないジーズが相手ならば3、4体を同時に相手出来る。
ケリーの発動。
H-18-F『ヴァンパリズム』
生物の血を飲み、自身のCORE系能力を強化する。
そしてこの能力によって『劣化分身』の召喚速度を速め、失った兵をその場で即補充するという徹底ぶり。ここにサポートの『ヒール』による回復と『空中浮遊』による空からの援護が加わり、たった4人ながら「軍勢」と呼んで差し支えない程の戦力を出力するのがケリーの率いるチーム2の強みだった。
分身達に指示を飛ばしつつ、自身も戦闘に加わるケリー。次々にジーズの死体が積み上がり、戦線は徐々にPVDOが押しつつあったが、人型ジーズの数にも終わりが見えない。
「こちらチームA。ケリー様、そちらの調子はいかがですか?」
無線の先、声の主はチームAのリーダーであるユウヒだった。今回の任務では、駅を挟んでちょうど反対側にある東口を担当している。
「抑えてはいますが、突破はまず不可能ですね」
「……ふふふ」と、ユウヒがいやらしく笑う。「こちらは既に制圧完了ですわ! これから駅内部に突入します。流石はPVDOナンバーワンの才女が率いるチーム。エースも伊達じゃありませんわね」
怒涛の如き自画自賛を浴びせるユウヒに、ケリーは交戦しつつも落ち着き払った様子で返す。
「それは重畳です。内部での戦闘はユウヒさんにお任せ致します」
「ええ、もちろん! ケリー様はそちらをしっかりと抑えていて下さいませませ!」
誰の目から見ても、ユウヒはケリーに対抗意識を燃やしているのが明らかだった。理由は単純、ケリーはユウヒの持っていない物を持っていたからだ。下の者からの人望、上の者からの信頼、チームメイトからの賞賛。チーム名を振り分けられる時も、最初はケリーのチームがAだったのをユウヒが駄々をこねて譲ってもらったという経緯がある。もちろん、これらのやりとりは全て他の少女達に筒抜けである為、ユウヒが先にあげた物をなかなか手に入れられない一因になっているのだが、当の本人だけが気づいていない。
「……楽しい子ね」
無線を切ったケリーが誰にでもなくそう呟く。ユウヒにとってケリーはライバルだが、ケリーにとってはかわいい妹のような物であり、その時点で既に格付けは完了していた。
―――横浜駅 東口―――
「さて、我が宿命のライバルにしっかり勝利宣言した所で、本格的に参りましょうか」
一連のやりとりを隣で聞いていたユイナ他2名のチームメイトがため息をつく。若干の侮蔑がこもった視線も、ユウヒには少しのダメージも与えられていないようだった。
「このまま一気に目標地点まで行きますわよ!」
高らかに宣言するユウヒの前に、1人の少女が立ちはだかる。
「あらあら、随分と楽しそうね」
ジーズで出来た義眼。PVDOの物ではない戦闘用スーツ。
「……ラルカ」
「ねえ、私も混ぜて?」
毒性の息を吐きながら、背信者は妖しく微笑む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます