第27話 オフ会(前編)
PVDO史上初めての「オフ会」が開かれたのは、以前に田が記者会見を行った都内にある某ホテルだった。
組織が公になり、少女の存在とそれを指導するメンターという協力者が明らかになると、サロンという狭いコミュニティを形成してきた意味も失われる事になった。もちろん、相変わらず少女同士の対戦は毎日行われており、能力の組み合わせや相性などを研究して情報という利を得るには有用であったが、PVDOやメンターとしてのあり方を論じたり共有したりするにはより広く繋がる必要があった。
現在ランキング4位に位置する神谷という男が発起人となり、意見交換会という形でホールを貸し切って参加者を募集した所、合計28名が参加する事になった。その中には田と、同じサロンに所属する浅見の姿があった。
「まさか罠って事はねえよな?」
会場に向かうタクシーの中で、浅見が田に尋ねる。
「どうなんですかね、メンター以外にも警察とマスコミが同席するらしいですけど、いきなり逮捕されたり撃たれたりは無いんじゃないですか。……僕以外は」
一応、PVDOの首領という立場である田は、この日も例のスーツとサングラス姿で出席する事をエフから強制されていた。
「つーか意見交換も何も、俺ら所詮バイトみたいなもんじゃねえか。PVDOには逆らえねえし、ジーズがいつこっち来るかも分かんねえし、来ても何も出来ねえし」
浅見の言い方はふてくされているようではあるが事実ではあった。世間が思うほどメンターに裁量は与えられていない。
「まあ正直発起人の神谷さんが有名になりたいだけなんじゃないんですか。SNSで真っ先にPVDOの情報拡散してたのもあの人でしたし」
「……なんか腹立ってきたな。帰るか」
「いやついて来てくださいよ。僕人見知りですから」
2人が到着した時には既に、ホテルの内外でカメラを持ったマスコミ関係者でごった返していた。会見の時とは違い、長い机を横に並べ、メンターが座る席と取材と警察で区分けされていた。マイクの備え付けられた壇も用意されており、そこでは高級スーツを着た神谷が中心となって既に取材を受けている。会場に入って来た田にマスコミが気付くと、一斉にフラッシュが焚かれた。今回はPVDOからの正式な会見という訳では無いので、田は個人として席に座った。何かを質問されてもエフの指示通りに無視を決め込む。
メンターが揃い、神谷が簡単な挨拶を済ませるとこう話し始めた。
「個人的には、PVDOの持っている技術や能力は日本国民全員で共有されるべき物だと思っています。例えば少女が持つ能力の『四次元口』なんかは不定形物を際限なく収納出来るんです。これ1つでも有効に活用出来れば、技術開発において革命的な事が出来ますよね」
一拍おいてマスコミからは賛辞の拍手が起きた。「早稲田出身のイケメンメンターという紹介文で新聞に載っただけの事はあるな」と浅見が毒づく。
「もちろん、PVDOの主目的はお台場での一件のようにジーズによる襲撃からの防衛であり、それは重要な事ですが、それと並行して技術の共有も行なっていく必要があるというのが私の考えです。その辺、どうお考えですか? 田さん」
急に話を振られた田は、手を組んで意味ありげに沈黙したが、内心では「そう言われても……」だった。
「PVDOは秘密の多い組織ですから、そのボスが寡黙な事も当たり前といえば当たり前ですが、もう少し内部事情を公開しても良いのではないでしょうか。そうすれば自衛隊との協力や公共機関との情報共有が出来ますし、諸外国に無駄な緊張感を与える事もありません」
神谷の言葉にマスコミ達は無意識に頷いていた。少なくとも今この場所においては、常識と知恵を持った正義の味方が、隠し事が多くて信用出来ない悪の首謀者を暴力ではなく理性で問い詰めているという図式だ。それは一定の視聴率が見込めたし、お台場での少女達の活躍を一旦忘れさせた。
「私から……」大悪党の田が口を開いた。「私から言える事は何もない」
それは、エフから口にするのを許された唯一の台詞だった。それだけ言って帰って来いという指示が田には与えられていた。同時にその命令は、この不毛なオフ会に行ってこいという事も意味する。
浅見を除く他メンター、及びマスコミ、ホテルの従業員に至る同席者全員から、一斉に怪訝な視線を向けられる田。もしも全員が『ヒートアップ』を持っていたら一瞬で田の肉体は蒸発した事だろう。
こうなる事は分かっていた。だから田はこの場に来たくは無かった。だが来ざるを得なかった。悪魔との契約は自由意志によってなされ、行動を強制される。
その後、神谷が知る限りでのPVDOの情報が提供された。SNSで既に公開されていた物も含まれていたが、マスコミからの質問に対して真摯かつ丁寧に答える神谷の好感度はこれでまた上がった事だろう。
いたたまれない空気の中で、一体エフは、何の為に自分をここに寄越したのか、田がそんな事を考え始めた時、答えは向こうからやってきた。
「ん? 地震か?」
誰かがそう呟いた数秒後、揺れと共に大量のジーズが会場内になだれ込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます