第24話 作戦(前編)
―――ヨコハマビブレ―――
「全員揃ってるか?」
ビルの上階、作戦会議室の中にはタムを含めて13名の少女がおり、全員が4人前後のチームを率いるリーダーである。
「……では、最終的な作戦会議を行う」
タムがそう宣言し、各チームリーダー達が静かに頷く。
「知っての通り、今回の作戦は13チーム、約50名を投入する過去最大規模の物になった。PVDOの存在が表の世界で明らかになり、それによって……」
「すいません。タムさん、ちょっと待ってください」
滑らかに話を始めたタムを遮ったのはシャルルだった。偵察任務自体は成功したが、自身の能力である『ペーストフィール』をラルカによって逆に利用され、いつでもあちら側に情報を渡せる存在となっている。
「やはり、私がこの場にいる事は見過ごせないリスクかと思われます」
「どうした? 裏切りたくなったか?」
タムが尋ねると、シャルルは首を横に振った。
「そうではありません。しかし私が重要な作戦会議にこうして出席している事は、皆さんにとって、いえ、今回の作戦において良い影響を与えません。タムさんはともかく、皆さんからしてみれば私は信頼出来ない存在です。ラルカの狙い通りに事が運ぶのは癪ですが、私は作戦が終わるまで本部待機が妥当かと思われます」
シャルルの指摘は的確だった。作戦会議が始まる前もタムに今回の任務からの辞退を申し入れたが、却下された。
タムはぽりぽりと頭をかきながら告げる。
「……この際だからはっきり言っておくが、私はお前に限らずここにいる全員を信頼なんてしていない」
それは間違いなく、統括としては不適切な発言だった。
「信頼関係でなんとか成り立つような脆弱な戦略を私は作戦とは呼ばない。確かに、チームで動くには個々の思考や感情を管理するのが1番手っ取り早いし、内通者の存在はたった例えそれが1人であっても状況をひっくり返す」
「それなら……」と割り込もうとしたシャルルをタムが止める。
「だが私達の持っている能力は、ひっくり返った状況をもっと簡単にもう1度ひっくり返す事が出来る。そうだろ?」
PVDOにおける能力は、物によってはそれ1つで世界を滅ぼす事も出来る。
「だから私は、お前達を信頼していないが、お前達の『能力』を信用している。そしてシャルル、この作戦にはお前の能力が必要だ。裏切るかどうかなんて、そんな瑣末事は気にしている場合じゃない」
タムの割り切った考え方は、シャルルのみならず他の少女にとってみてもなかなか理解しがたい物ではあったが、これまでに数多くの任務を成功させてきたのは紛れも無い事実であり、エフがタムに一任するのもその実績が理由だった。
これから作戦を共にする者に対して「信頼していない」とはっきり述べるタムの性格は、異質ではあるが能力を駆使した攻防においての最適解でもあった。
タムによって立案された作戦の概要はこうだ。
実行は2日後。昼の12時ちょうど。13チーム中12チームが同時に横浜駅に攻め入る。作戦目的は、ラルカを筆頭とした現在明らかになっている背信者達の討伐と、増殖型ジーズに捉えられた少女の救出。少女が討伐ではなく救出なのは、今後同じ手を打たせない為に聴取と分析が必要である為。
13チーム中約半分の6チームはそれぞれ横浜駅の西口、東口、きた西口、きた東口、みなみ南口、JR線のホームから突撃する。多数を相手に戦える少女を中心にチームを編成し、正面突破を目指しつつも敵の大軍を惹きつける事を目的とする。
もう半分の6チームは、横浜駅周辺に散らばった入り口から地下街を通り、更にそこから駅内部に侵入する。いわばこちらが背信者討伐の本隊であり、機動力と対人戦闘力に長けたチーム編成となっている。地上部隊が撹乱し、地下から本命が攻めるという挟み撃ちの形を取る。
「そしてラストの1チームが私ね?」
タムの説明が一区切りついたタイミングで、ずいと前に出た少女がヒメカだった。
先の作戦によってティーと接触、誘拐されて窮地に陥るも、無事に脱出したヒメカには、今回もリーダーとして1つのチームを預けられる事になった。
「……まあそうだが、出来るのか?」
タムが尋ねる。ヒメカはこの作戦への参加を自ら志願した。
「ええ、任せて。相手に『死線』持ちがいる以上1分が限界だけど、私の奥の手である『三上山の永劫百足』は必ずや目覚ましい戦果をあげるよ」
「……期待させてもらうよ」
他にも何か言いたげなタムだったが、ヒメカが漲らせた自信の前にはいかなる反論も無力である事をなんとなく悟った。ヒメカは対人関係において比較的見栄を張るタイプではあったが、今回に関してはメンターが与えてくれた自分の能力が最大限に活かせる根拠があった。
ヒメカの奥の手、それは『融合』と『デザインセクト』を使ったコンボであり、自身を巨大なムカデに変化させる大技だった。準備を整えるまでに若干の時間を要するものの、発動すればその戦力はPVDO内でも1、2位を争う程に強力かつド派手だ。
「ヒメカには地下鉄からのルートを使って駅に突っ込んでもらう。タイミングに関しては戦況を見て私が判断するが、1度突っ込んだらとにかく大暴れしてもらう事になる」
「了解よ」
以前の作戦では助けられる立場にあったヒメカにとって、今回の任務における少女救出という目的は、彼女を張り切らせるのに十分な動機だった。
「ああ、そうだった」
タムが思い出したように言う。
「今ここにはいないが、もう1人、チームではなく個人で参加する予定になっている」
少女達を見渡し、少しだけもったいつけた後に言う。
「奴だ」
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