第11話 変更(前編)
ティー討伐任務の失敗から2週間が経ち、PVDOに所属する少女達は主に3つのグループに分かれて活動していた。
1つ目は、東京23区内において、ティーとジーが潜伏している新たな拠点を探すグループ。次元結晶が発生する地点を中心に、街を徘徊するジーズを倒しつつ各チームが探索を行なっている。以前はこのグループが数で言えば最も多かったが、今はジーズ自体が以前より減った事と、裏切り者のほとんどが東京を離れた事によって人数をそう多く割かなくても良くなった。
2つ目は、横浜の新拠点の攻略組である。増殖型ジーズの調査と、討伐作戦の策定の為に周辺を探索しつつ、次元結晶も回収し、日々増え続けるジーズを殲滅している。裏切り者がこちらに移動してきている事も大きく、今最も忙しいグループと言える。現場での統括はタムが嫌々ながら担当している。
3つ目は、他地域への遠征組である。東京から横浜に拠点を増やしたように、別の人口密集都市、例えば大阪名古屋福岡神戸などにも新たな拠点が築かれていないかを調査するグループであり、日本中を飛び回っている。サポート役が中心のグループで、リーダーとなる人物はいない。そもそも、C-L系能力の覚醒者であるエルが味方にいる以上、どこか別の場所でジーズが次元結晶の探索を行おうとしても、数の有利を築けるのはPVDO側である。場所さえ特定出来ればそこに直接送りこむのが可能なので、ティーやジー側としても東京から離れれば離れる程次元結晶横取りのリスクが大きすぎる。それでも、自己増殖型の存在が発覚した事により、早期発見出来なければ横浜の二の舞になる事が分かっている以上、PVDO側としてはある程度の人数は割かなければならない。
いずれにせよ、現状最優先で解決しなければならないのは、2つ目の横浜の新拠点である。ここにおける結末が今後のPVDO、ひいては人類の運命を左右すると言っても過言ではない。
―――ヨコハマビブレ―――
「……だってさ。そんなの知るかって感じだな」
横浜の攻略に関する進捗具合の確認と、檄を飛ばす内容のエフからの手紙を読んで、タムはそれを無気力な態度で机の上に投げた。
「ですが、必要な事ではあります。ここでもし我々が自己増殖型ジーズの物量に敗北を喫すれば、状況は傾きますよ。悪い方に」
指揮の補佐をするシャルルがいまいちやる気の無いタムに苦言を呈する。
現在、PVDOの拠点であるヨコハマビブレ内には最低でも3チームの少女達が常駐している。ファクトの仕事によって固められた壁はちょっとやそっとの事ではビクともせず、少女達は安心して休息や食事を取る事が出来る。
裏の世界においては、時間の概念その物はあれど天候による昼夜はない。常に空は雲がかかり、光は一定。4、5日に1回の頻度で雨が降るが、気象が一体どうやって循環しているのかは覚醒者ダブルのみが知る所であり、どんな変化をもたらすかもダブルの胸三寸となっている。とはいえ雨水に毒性は無く、少女達も生活用水として普通に利用している。
「さて、そろそろ美味くない飯でも食うか」
横浜組を統括する立場にあるタムは、裏の世界で期限の1週間を過ごした後、一旦本部に戻り、報告を終えるとすぐにまたこの拠点に戻ってくる。その間に休みは一切無く、拠点では四六時中外を巡回する少女からの報告が入り、指揮を執らなければならない。よって1歩も外に出る事は許されず、寝ていても緊急連絡で起こされる夜の方が多い。不満が溜まるのは必然だった。
栄養価の高いペースト状のレーション。それを前にするとタムはますます不機嫌になりながら口に運んでいく。
「奴らは今日も来るんですかね」
シャルルが時計を見る。タムは自分を憂鬱にさせる事がもう1つあったのを思い出してそのくしゃくしゃの頭を抱えた。
ここ1週間、毎日15時ちょうどに、100体のジーズが拠点に攻め込んでくる。時間にズレは無く、数も一定であり、武器も能力も持っていない。当然、その程度の戦力ならばいくら1階の壁を素手で叩こうとビクともするはずがなく、上から『ファイアーボール』や『雹弾』などのA-R系能力を乱射する事によってほとんど被害無く一掃する事が出来る。
ジーズからしてみれば、ただ数を減らすだけの愚かな行軍。中には自分から攻めて来たのに逃げ出す者もおり、何の為に来たのかがさっぱり分からない。が、タムはその狙いに気づいていた。
「来たようです。ご指示は?」
「昨日の通り殲滅。なるべく手の内は見せるなと伝えておけ」
以前、この拠点の整備を担当したミカゲとビュティヘアによれば、増殖型ジーズは全くと言って良い程統制が取れておらず、個々の戦力も低いレベルながらバラつきがある。これまでのジーズには無かった、意思があり、成長するタイプだという推測が成り立つが、それがどの程度のスピードで、どの程度の限界があるのかは分からない。ただ、無謀な突撃において何がしたいかは分かっていた。
「淘汰、ですか」
「おそらくはだがな」
「厳選すればより部隊が強靭になるという理屈は分かりますが、果たして有効な手段と言えるでしょうか。増殖が出来るというのなら、その有利を生かして数を揃え、一気に攻め込んだ方が得策かと思うのですが」
シャルルの発想は正しい。いくら強固な砦と言えど、無限に攻められ続ければいつかは崩れる。散発的な100匹ずつの攻めはいくら練度を高める為といえど、下策のように映った。
「さあな。奴らに直接聞いてみたらいい」
タムがそう言いながら味だけは濃いペーストを口に放り込む。
「ん……ありだな」
「え? あんなにまずいまずいと仰ってたじゃないですか」
「いや、そうじゃなくて」
タムが立ち上がり、スプーンを握りしめたままにやりと笑った。
「聞いてみようじゃないか。奴らに直接」
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