第10話 ジョイント&ジャム
2人のするセックスは、快楽を求めるレクリエーションであり、互いを慰めるような陰鬱なニュアンスは一切無く、お互いに感じる所を探りあいながら、溶けて1つに混ざっていく過程だった。
行為中は、よがったりあえいだり、時々とんでもなく野蛮で喜悦に満ちた叫びをあげたり、コミュニケーションの大部分に言葉は伴わず、肌や唇や性器を這う舌と指の動きが、彼女たちの表現技法だった。甘い蜜のようなむっとする程の匂いを辺りに撒き散らしながら、情事に耽り、何度目かの絶頂を迎えた後、片方の少女が息を切らして降参を宣言した。
「ちょ、ちょっと待って。一旦休憩」
片方の少女が枕にようやく頭を下ろして一息つこうとしたが、もう片方が容赦なくその唇を唇で塞いだ。
微妙にあいた空間から漏れる2人の吐息がしばらく続いたが、やがてもう片方もそこそこに満足したのか、仰向けに重なり覆いかぶさったまま脱力した。
「テトラ、今日はいくら何でも激しすぎるよ。僕がいない間に何があったのか、そろそろ教えてよ」
名前を呼ばれたテトラシエンスことティーが、鼻がくっつくような距離で目を背けながら答える。
「……リエがいない間に、奴らが襲ってきた」
リエと呼ばれた少女は眉をひそめ、両手でティーのくしゃくしゃ頭を掴む。
「大丈夫だった? 痛い事された?」
「平気。だけど、見られた。リエからもらった奴」
「そんなのどうって事ないよ。テトラが無事ならそれでいい」
ティーがリエの平らな胸に顔を突っ伏す。紅潮しているのを悟られない為だったが、あまりにも分かりやすすぎた。
リエことグリエンバッハ、通称ジーはC-G系能力の覚醒者であり、ティーとは肉体関係にある。背はティーよりかなり低く、髪はライトグレーのセミロング。どちらかと言えばショートで精悍な顔つきのティーの方が少年っぽい見た目であるが、「僕」を一人称とするのは覚醒者の中でもジーだけだった。
「僕がいない間を正確に狙ってきたって事は、情報がどこかから漏れてるね」
「やっぱり……そう思う?」
「僕がダブルに会いに行っている事を知っている人間はそう多くない」
「全員殺そうか?」
「いや……まだしばらくは泳がしておいていいよ。横浜の計画に支障が出るし、僕のプレゼントを見た後なら攻めて来るのはしばらく先だ」
ティーがジーの髪を触り、さらさらと流す。その眼差しは美しさその物への感嘆か、あるいは思い通りにはいかない現状を憂いているようでもある。
「でも、用心してもう少し子供を増やそうか」
「ええ、そうね」
ジーの言う子供とは、PVDOがジーズと呼称する召喚生物の事だ。覚醒者アイが少女への行為によって新たな召喚物のアイデアを獲得するのと同じように、覚醒者ジーは自身の得た快感を召喚生物に出力する。
触れた物に属性を付与出来るティーは能力的な相性が単純に良いだけではなく、性的なパートナーとしても必要な存在だった。そういう意味においても、もしPVDOのティー討伐作戦が成功していたのなら、この戦いは間違いなく決着していたと言えるだろう。
「ダブルの許可はもらえたよ」
「そう」
ジーが思わず苦笑する。ティーの愛情はたった1人にのみ注がれていた。
「これで計画が進められる。ダブルが味方にいて助かったよ」
分かった上で、ジーがわざと嫉妬心を煽るような事を口にすると、ティーはその狙い通りに動いてしまうのだった。
「2人だけで一緒になれたいいのに」
「そうもいかないさ。僕たちは3人で1つ。1人も欠けては駄目なんだ」
いまいち納得のいかない様子で、ティーがジーを見る。沈黙の後、ジーが言った。
「休憩終わり。さ、後半も頑張るよ」
しばらくして、再び2人の部屋は艶やかな声で満たされた。
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