第60話 宿題

 与えられた3日間の休日中にメンターはメンターで宿題を1つこなさなければならない。ならないと言っても決して強制されている訳ではなく、おそらく真嶋あたりは多分1回もやった事が無いだろうし、俺も正直どこから手をつけていいか悩む所ではあった。


 自宅にいても埒があかないし、タマルも結構暇そうだったのでサロンに場所を移した。浅見先輩も似たような考えになったらしく、ノートPCを持って来てその前で唸っていた。


「埋まりました?」

「少女名、メンター名、能力の項目まではな」

「ほぼ出来てないっすね」

「うるせえよ」


 浅見先輩以外に雨宮先輩も来ていて、1ヶ月前とは見た目も雰囲気も大きく変わったタマルとユウヒを見てテンションをぶち上げていた。雨宮先輩は先日無事にランク10に上がり、ルカちゃんがつい昨日、本人の志望によって学園に行った。


「きゃわわわいい〜〜! 2人ともちょっとこれかわいすぎるんじゃないの~?」

 2人を並べて写真を撮りまくっている。ルカちゃんを学園に送り出すのはかなり残念だったようで軽く落ち込んでいたが、元気を取り戻してくれたみたいで何よりだ。タマルは困惑してるが少しだけ我慢してもらおう。


「『外見』って所は別に箇条書きでもいいんだよな?」

「いや、そこは浅見先輩の圧倒的文学センスを発揮して頂ければ良いんじゃないですか」

「国語2舐めんな。殺すぞ」

「国語以外は1じゃないですか」


 2ヶ月もほとんど毎日一緒にいれば、どんな相手でも多少は打ち解けられる。浅見先輩は普通に生活していたら接点のない人種だが、メンターという共通項があるだけで全然違う。


「この『オプション』ってのも俺らが書くのか?」

「いや、そこは本人に書いてもらった方が良いんじゃないかと思いますね。ていうかタマルが考えたらしいですよ、その項目。ちょっと優秀すぎて怖いですよね」

「アホか。うちのユウヒの成績見ただろ」

「最後の筆記試験で全教科50点って所なら見ましたよ」


 戻ってくる時に持っていた内申書に、各試験の成績や生活態度、交友関係に至るまで詳らかに記載されていた。3年分まとめてあるので小冊子くらいの量があるが、それを元に宿題をやる事になっているのでこの情報は正直助かる。


「『関係性』も本人に書かせていいんだよな?」

「あるいは内申書にあるのをそのまま写すとか」

「となると問題は『性格』か」

「『性格』ですねえ」


 俺と浅見先輩は同時に2人の方を見た。


「……やっぱ正直に書かないと駄目か?」

「これを参考にチームを作るって書いてありますし、全然違うような事を書くと任務に支障をきたす可能性はありますよね」

「つってもな……」

「ねー」


 PVDOから出された宿題とは、タマルのプロフィールを書くという作業だった。これを持って兵員として登録され、「裏の世界」での任務につく事になる。任務が決まれば基本的に拒否権はなく、無事に帰ってこれるかは実力次第という所だ。


 改まってタマルの性格を書けと言われてもなかなか難しいものがある。だがそれでも、これは何よりタマルの為だ。任務への配属は管理人エフが担当しているが、エフだってみすみすこちらの人数を減らしたくは無い訳で、その点利害は一致している。少し大げさかもしれないが、このプロフィール登録はタマルの命を助ける為でもある。


 それから2時間ほどかけて書き終えたタマルのプロフィールがこれだ。


―――


少女名 タマル

メンター 田 秀作


能力

 H-14-V『フリ-ズ』

 視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。

 A-10-R『チャージショット』

 手の中でエネルギー弾を溜め、放出する。

 C-22-M『スライド』

 一定速度で地面との平行移動が出来る。


オプション

 「早溜め」コスト:5

 『チャージショット』の溜まる速度が大幅に早くなる。

 「加速」コスト:2

 『スライド』発動時、移動速度が若干上昇する。

 「インプロージョンレンズ」コスト:5+α

 現象その物を『フリーズ』の対象として捉え、増幅する事が出来る。


基本戦略

 『チャージショット』を溜めながら『スライド』で移動と回避。トドメを刺せる時に『フリーズ』で固めて確実に当てに行く。『スライド』や『チャージショット』に対して「インプロージョンレンズ」を使う事により移動や攻撃をブーストし遠距離に徹する。


外見

 身長165cm、体重52kg。真っ白な髪のストレートロングに黒いカチューシャをつけている。両目とも虹彩が鮮やかに赤く、基準より少し釣り目でクールな印象。巨乳。


性格

 基本は冷静で友人思いの良い子だが甘いものに目が無く、糖分への欲求が閾値を越えると暴走状態に入る。苦手な食べ物は甘くない物全般。特に文句は言わないが、明らかにテンションが下がる。緊急時の判断力もあるが、どうにもならない時は直感を信じる。メンターを信頼している。


「では聞き方を変えます。どちらの私が好きですか?」

「こんな場所が、こんな行為が、存在して良い物なのでしょうか」

「私にとって、甘いものが無い生活なんて、水素の無い宇宙です」


関係性

 カリス 師匠 人格から能力全てを尊敬している。

 ユウヒ 友人 実力だけは認めている。

 ミカゲ 友人 嫌いではないが時々怖い。

 サトラ 友人 心の支え。

 イツカ 弟子 怖い。


―――


 これで大体書き終えた。「メンターを信頼している」という一文は俺が書いたのではなく、タマルがどうしても書き加えるように言ったので後から足した。逆に「巨乳」は俺が後からこっそり書いておいた。事実はちゃんと書き残さなければならない。


 タマルは明日、最初の任務に向かう。帰ってきてすぐまたお別れというのは寂しい物があるが、俺はとにかくタマルの無事を祈る。いつか戦いが終わり、どこか平和な場所で暮らせるように。



 第2部 完



―――


 次のページからは追加能力の解説です。

 飛ばして第3部を読む方はこちらのURLからどうぞ。


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054882777589/episodes/1177354054886192299

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る