第54話 タマルの試験(後編)
「ミカゲ! 輸送部隊の方に行って!」
戦況を見て私はすかさず指示を飛ばしました。敵のユウヒが2人をすり抜けてこちらにきたという事は、必然ミカゲがフリーになります。そして先ほどの戦いを見る限り、このまま2対2を続けるよりは私が囮となってミカゲとイツカの2人体制で確実に輸送コンテナを破壊しに行く方が、任務の成功率は高まると予想しました。
ですが、私達のその動きを見てミルトも瞬時に的確な判断を下しました。私の相手をやめてミカゲの方に行ったのです。
こうして、私とユウヒが交戦、ミカゲとミルトが交戦となり、単純に対戦相手が入れ替わる形になりました。しかし私には既に『インプラント』が埋め込まれており、ミルトの遠距離攻撃にミカゲは相性が悪いです。頼みの綱はイツカの単独行動となりました。
「任せて下さい。これで私が任務成功の決め手になったら、文句なしでタマル先輩は私の弟子ですからね」
ただでさえ大忙しなのに別の問題を持ち込まないでくれと言いたくなりましたが、今の所この状態を何とか出来るのがイツカだけなのもまた揺るぎない事実です。
ユウヒと対峙する私。既に『チャージショット』の次弾は溜め始めていますが、仮に十分な威力を溜めた所でユウヒを倒すのは難しいでしょう。ユウヒには『アンタッチャブル』があり、おそらくはまだ使用可能時間を残しています。自信満々な表情からそれが分かりました。
「タマルさん、かわいそうだけれど手加減は無しですわ。私達も学園長からのご褒美アイテムがかかっていますので」
「あと3ヶ月で戻るのに何をリクエストするの?」
「……パッド」
ユウヒのくだらないプライドに負ける訳にはいきません。
一方、ミカゲの方はミルトの対処に苦戦しているようでした。牽制に『斬波刀』で衝撃波を放ちますが、何せ相手は遠距離攻撃のスペシャリスト。そう簡単に当たるはずはなく、距離を詰めようとすればそこを狙い撃たれるのが分かっていたので動けません。
しかし肝心のイツカは見事に戦闘の隙間を通り抜けてコンテナへと迫っていました。これならクリア出来る、一瞬そんな油断が脳裏を過った時、ミルトが動きました。
『ファイアーボール』を壁に向かって2発同時に発動させ、それを『鉄人』化した自分の身体で受けます。そして衝撃を受けると同時に『鉄人』を解除し自分の身体を吹っ飛ばして、イツカに向かって飛んで行ったのです。
擬似的な『ジャンプ』のように動いてイツカを止めに行きました。しかしそこは流石にイツカと言うべきか、きっちり『アンタッチャブル』を発動させて見事にミルトの攻撃を避けました。
「優等生の割には爪が甘いですね。……って、わ!?」
イツカが『アンタッチャブル』でミルト本体を回避した直後、2つの『ファイアーボール』の内1つがイツカを直撃しました。ミルトが自身の移動に使った弾が、跳ね返ってイツカに戻ってきたのです。偶然ではありません。ミルトはあの短時間で反射の計算を済ませていたのです。
完全に油断していた事もあり、イツカは腕に負傷を負いました。『スライド』の移動自体には問題ありませんが、手放してしまった『タイムボム』を拾い上げ、再度コンテナを狙うのは時間的に難しそうです。目の前にはミルトもいます。
「……タマル先輩すみません。……失敗しました」
イツカが心の底からくやしそうに言いましたが、私はまだ諦めてはいませんでした。
こうなれば、コンテナを破壊出来るのは私の『チャージショット』しかない。
コンテナまでの距離は50mほど。イツカが道から外れた事により射線は通っています。私の目の前にはユウヒが立ち塞がっていますが、私が『チャージショット』を放てば『アンタッチャブル』を使うはずなので、破壊出来る可能性はまだあります。威力は先程の自分のを見る限りそこそこ溜まっています。
私は呼吸を整え、『チャージショット』を放ちました。
しかし予想外な事は続きます。
「させませんわー!!」
ユウヒは『アンタッチャブル』を使わず、両手でガードを固めて私の『チャージショット』を自身の身体で受けたのです。命中と同時に破壊が発生し、ユウヒの身体は弾け飛びました。もちろんこの地下も訓練場や戦闘エリアと同様に、死んでも意識を保ったまま再生が出来ます。それを分かった上でユウヒはそうしたのです。裏の世界であれば即死する行動なんて取れるはずがありません。
どれだけ自身の身体的コンプレックスを隠す事に情熱を注いでいるのか。なんとも呆れるばかりですが、今回ばかりはユウヒの執念が勝ったという所でしょうか。
同時にイツカの『タイムボム』が爆発し、近くにいたミルトを巻き込んで倒しました。イツカ自体は『アンタッチャブル』で無事のようですが、武器を失ってはコンテナの破壊は不可能です。その隙にミカゲはコンテナまで辿りついていましたが、周りのジーズを処理するのがやっとで肝心のコンテナを破壊するまでには至りません。このままでは逃げられてしまいます。
そして私はといえば、あと7、8秒ほどで『インプラント』が成長を終えます。
終わった。
そう思いましたが、私の身体は勝手に動き始めていました。
『スライド』で急加速。同時に『チャージショット』を手の中に溜め、煙の隙間からコンテナを捉えます。そして5秒だけ溜めた『チャージショット』を真っ直ぐ放ちます。それは正真正銘私にとって最後の攻撃でしたが、たったの5秒ではコンテナを破壊する事は難しいでしょう。
それでも私がその行動に出たのは、言葉に出来ない何らかの確信があったからに他なりません。
私の『チャージショット』がコンテナに着弾した瞬間、私はほとんど無意識に最後の能力を発動させていました。
タマルの発動。
H-14-V『フリ-ズ』
視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。
『チャージショット』は性質上、着弾した瞬間に溜めた時間に応じた破壊が発生します。それが破壊先の耐久度を大きく上回っていた場合は貫通しますが、下回っていた場合はそこで止まります。
私が『フリーズ』によって動きを止めたのは、何かの生物ではなく私の『チャージショット』自体でした。「破壊」という現象その物を着弾した瞬間に2秒固定したのです。一瞬、自分でも何が起きたのか分かりませんでしたが、それが私の奥義である事はすぐに理解出来ました。
覚醒者エスと接した事で目覚めた新たなオプションなのでしょうか。エスの瞳を覗き込んだ時の、あの吸い込まれるような感覚がふと蘇りました。
2秒後、固定された破壊が解放され、木っ端微塵に破壊されるコンテナ。
そして、試験が終了しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます