第53話 タマルの試験(中編)

 実戦試験、開始。


 秋葉原の地図と輸送部隊の通過予想地点は作戦会議の段階で覚えていたので、私達3人は迷いなくスタートしました。


 私は手で『チャージショット』を溜めつつ『スライド』を発動して移動し、それにミカゲが『ベクトル』で同期する形で進みます。その10mほど後方にイツカが続きます。


「タマル先輩の『スライド』ちょっと遅くないですか? 時々止まらないと追いついちゃうんですけど」

 インカムから聞こえる後輩の詰りに唇を噛み締めて耐え、私は任務をクリアして試験に合格する事だけを考えました。


「無駄口を叩くな『タイムボム』はちゃんと用意したのか?」

 ミカゲがイツカに尋ねます。

「1分設定をもう用意しましたよ。というかミカゲ先輩、あなたは今回お目付役なんですからチームメイトに指示しちゃ駄目ですよ。そういうの確認するのはタマル先輩の役です」


 言い方はきついですがイツカの言っている事は正論でした。本来なら作戦の確認は私がすべき事です。

「……すみません」

 ミカゲがぼそっと私に向かって謝りました。

「分かればいいんですよ」

 それにイツカが反応します。「お前には言ってない」とミカゲが言った時、ついに敵が見えました。


「ちょっと待った!」

 PVDOの物ではない戦闘用スーツに身を包んだ2人の少女が、私達の前に立ち塞がりました。


 黒縁メガネの少女が言います。

「ここを通りたければ、我々『最強ド貧乳コンビ』を倒しなさい!」

 その隣にいた少女がやや焦った様子で言います。

「私はあるよ?」

「貴様らのように戦闘力が胸に集まったような奴らに私達が負ける訳がない!」

「私はあるからね?」

 自分の体型について開き直っているのか、あるいはやけくそになっているのかは分かりませんがとにかくノリノリで敵役を演じているようでした。


 そして何だかよく分からないまま戦闘に入り、先手を取ったのは私。


 タマルの発動。

 A-10-R『チャージショット』

 手の中でエネルギー弾を溜め、放出する。


 ここまで20秒程度、移動しつつ溜めてきたエネルギーをミルトに向かってぶっ放します。例え勝負として呆気無くても、決まってしまえばこっちの物です。

 ですが現実はそんなに甘くありません。


 ミルトの発動。

 A-19-R『ファイア-ボ-ル』

 手の平から火炎を纏ったエネルギ-弾を発射する。


 以前日記にも書きましたが、ミルトの『ファイアーボール』は特別です。両手の平から発射された2つの火炎弾が空中で曲がり、私の『チャージショット』の軌道を塞ぎます。相殺される、かと思いきや、私の『チャージショット』の威力は私が思っていたよりも高く、ミルトのファイアーボールをかき消しました。


「……聞いてたオプションと違うわね」

 私自身が驚いたのですから、ミルトからすればやってられないという感じだったと思います。思ったよりも高威力だった『チャージショット』はミルトに命中しましたが、ダメージは与えられませんでした。


 ミルトの発動。

 H-03-S『鉄人』

 最大1分間、全身が鉄の塊になる。


 一方、少し離れた所でミカゲ対ユウヒも始まっていました。先手必勝で例の必殺技が出る可能性も考慮していたのですが、意外にもユウヒ側が防戦一方でした。


 ミカゲの発動。

 A-18-I『斬波刀』

 衝撃波を飛ばす事の出来る刀を召喚する。


 ユウヒの発動

 H-19-S『アンタッチャブル』

 合計5秒間、触れられない状態になる。


 ミカゲの目にも留まらぬ斬撃をユウヒは距離を取りつつ躱していました。『ベクトル』を混ぜての攻撃には『アンタッチャブル』で回避します。ですがユウヒの俊敏な動きは、ミカゲの動きを完全に読みきった上の物であり、2人が何度も試合を重ねてきた事を示していました。


「何をしている! 戦え!」

 ミカゲが本気で叫び、頭に血が上れば上るほど、ユウヒには御しやすい相手になっているようでした。

「やなこったですわ! あははは!」

 のらりくらりと逃げに徹する相手を捉えるのはミカゲといえど難しいらしく、かなり手こずっています。しかし、通り道を開けるのには成功しました。


「イツカ、行って!」

 私が指示を出すのとほぼ同時にイツカが動き始めていました。イツカの本気『スライド』は私の2倍くらいスピードが速く、それを見て一瞬「うっ」となりましたが、状況は展開していきます。


「もらいましたわ!」

 その時でした。ユウヒがミカゲの身体を透過し、一気に距離を詰めてきます。


 ユウヒの発動。

 C-01-M『ジャンプ』

 高速で跳躍する。


 1年半ぶりに見たユウヒの必殺技は、以前より更に洗練されていました。そのスピードも射程距離も大きく増しており、交戦する4人の間を通り抜けようとしたイツカに向かって一直線に進みました。


 ユウヒは最初からミカゲの相手などする気はなく、輸送部隊を狙って爆破しにくるイツカを仕留めるつもりだったのです。しかしそれは私もあらかじめ読んでいました。


 イツカの発動。

 H-19-S『アンタッチャブル』

 合計5秒間、触れられない状態になる。


 ユウヒがイツカの身体を素通りします。「タマル先輩の予想通りですね」とイツカは言いました。しかし、ユウヒにはまだ策があるようです。


「雑魚にかまってる暇はありませんわ」


 ユウヒの第二の狙い、それは私でした。気づいた時にはユウヒの手が私の胸に触れていました。ユウヒの『ジャンプ』の軌道は僅かに曲がっており、いつの間にか私の知らないオプションを体得しているようでした。


「萎んじゃえ!」


 ユウヒの発動。

 A-05-T『インプラント』

 触れた部位に植物の種を植え込む。植物は成長する。


 私の身体にユウヒが種を植え付けました。これで私の命はあと1分に限られます。その時が来るまでに任務を成功させなければなりません。

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