第44話 サトラの試験(後編)
ミカゲの発動。
C-23-M『ベクトル』
対象の物と同じ方向、同じ速さで移動する。
『斬波刀』を構え、群がるジーズを次々に斬っていくミカゲ。『ベクトル』は通常『ニードルヘア』と同期させて使うのがミカゲの基本戦略ですが、四方を囲まれた状況においては、迫って来る敵と同期して反対方向にいる敵を狙う事が出来ますので、常時高速機動が可能になります。
今回、リーダーという役目を半ば押し付けられるような形になった私は、ユウヒとミカゲ2人の発案に対し、最終的にユウヒの作戦を優先する事にしました。ジーズの死体の中に入って侵入し、地下にいる巨大ジーズを討伐するという物です。しかし同時に、ミカゲをただの囮として単独で動かすよりは、同時に知能型のジーズを討伐出来ればその方がベストだとも思いました。実戦試験の課題としては、どちらかが達成されて再生プラントの機能が停止すれば良い訳ですが、これが現実のミッションならば少しでも戦果は上げた方が良いはずです。
二兎を追う者になる心配もありましたがミカゲの立ち回りを見る限りでは判断は正しかったと思われます。
鋭い刃は無駄のない足運びによって導かれ、流れるように敵を刻んでいきます。私はやや離れた場所に立ち、インカムでミカゲをサポートします。『空中浮遊』で全体を見渡し、負傷した場合はいち早く『ヒール』で治す為、私はミカゲの方についてきました。
地下へのルートは、電気が無いのでエレベーターも停止しており、実質階段しかありません。よって、階段の近くでミカゲが大立ち回りを演じている限り、地下への増援は無いはずでした。ですが、作戦開始から2分が経過した頃、ユウヒから報告が入りました。
「上から敵が流れてきていますわ! しかも戦闘型。一体上はどうなってますの!?」
そこでようやく私は気付きました。囮を使っているのは私達だけではないという事に。
敵は破砕作業用の汎用型ジーズをミカゲに向かわせて、肝心の戦闘型でエレベーターに穴を開けて地下に送り込んでいたのです。
「サトラ。このままだと地下は持ちそうにないよ。どうする?」
マイ先輩が私に尋ねてきました。私は……私には、判断が出来ませんでした。しかし黙っていても時間は進み、事態は悪化します。
「サトラ、『空中浮遊』と『ベクトル』で敵を振り切って、相手の知能型を倒してくださいませんか? 統率さえ崩せばこの程度の数、何とか耐えきってみせますわ」
ユウヒの言葉に、ミカゲも答えました。
「サトラ、私もユウヒの案に同意する」
次の瞬間には私の身体は動いていました。囲まれたミカゲと一緒に飛び、離れた場所で見ていた知能型のジーズ目掛けて一直線に向かいます。元がアミューズメント施設だけあって1階の天井が高く自由に動けた事が幸いでした。
「ミカゲ、私はあなたの実力を買っているからこそ大事な役割を任せましたのよ」
「……突然何だ」
「タマルさんがここにいたら、そんな事を言うと思って」
ミカゲは黙っていましたが、表情を見るとほんの少し笑っているようでした。
知能型ジーズの外見の特徴は、事前にユウヒの偵察によって知っていました。人間と同じ形とサイズで、目が3つあるタイプです。戦況を直接見ながら命令を下していましたが、私達が空中を滑って近づいてくるのに気づき、慌てた様子で下がりました。
「逃がすか!」
ミカゲの発動。
H-12-F『ニ-ドルヘア』
頭部から髪の毛を放射する。
私との同期を解除した『ベクトル』で、一気に距離を詰めます。警備が前に立ちふさがりましたが、それを得意の体術でいなし、次に一閃。知能型ジーズに戦闘力はほとんど無いようで、いとも容易く胴から首が離れました。
「やったぞ。そっちはどうだ?」
「動きが鈍くなりましたわ。混乱しているようです」
「一応そっちへ向かうか?」
「いいえ。その必要はありませんわ。こちらは任せて下さい」
「……分かった、信じるよ」
「あら? なんだかミカゲらしくない台詞ですわね」
「タ、タマルさんがいたらそう言っていたって意味だ。勘違いするな」
その後、私達は1階に留まり、脅威となりうる戦闘型ジーズを出来る限り倒しました。地下ではユウヒが敵をかわしつつ『インプラント』を植え付け、マイ先輩が守りきってくれました。そして2分後、巨大ジーズが完全に死亡した事を確認すると、私達は持っていた「次元結晶」を破壊し、脱出。つまり、任務完了です。
全てのジーズが機能停止し、どこからともなく3年生の担任であるトモ先生が現れました。
「ご苦労だったな、サトラチーム。戦果報告といこう」
今回の任務は潜入と討伐。目標はジーズ再生プラントの機能停止。私達は3日間の潜伏の後、必要な情報を入手して作戦を立て、まずは潜入に成功。再生の要である巨大ジーズを破壊し、統率を担当していた知能型ジーズの1匹を討伐。チーム内からの死亡者、背信者ともにゼロ。
「ま、80点って所か」
「な!? マイナス20点の原因は何ですの?」と、ユウヒ。
「あん? そりゃお前、リスクを取りすぎてる所だろ。地下の奴か知能型かどっちか倒せばいいのに両方追いやがって。もしどっちも駄目だったら不合格だったぞ」
トモ先生の意見は非常に正しかったです。私は1歩前に出て頭を下げます。
「リーダーを任された私の判断ミスです」
「そんな事はない」と、ミカゲ。
「ああ、もちろんそんな事はねえよ。そもそもサポートにリーダーやらせるのが間違ってんだからな。まあお前らにしたら試験中に喧嘩を始めなかっただけマシだ。とにかく合格は合格。おつかれ。上に戻るぞ」
こうして実戦試験は終わり、私達4人はまたエレベーターで学園に戻りました。微妙に納得のいかない様子の2人でしたが、とにかく追試も留年もせずに済みそうです。
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