第43話 サトラの試験(中編)
秋葉原に到着し、私達はまず地下に潜りました。崩れた壁の影に細い階段が隠されており、その下にある書店は拠点としてうってつけでした。任務の期間は最長で1週間ありますから、その間に目標を達成する為の準備も行わなければなりません。
まずすべき事は偵察です。事前に与えられた情報では、現在秋葉原に存在するジーズは全部で100体前後。その内70体程が再生プラントの内部で警戒や再生作業にあたっており、残りの30体程が街を巡回しているとの事。再生プラントは5階建てのビルで、表の世界ではゲームセンターやボーリング場等の入ったアミューズメント施設だったそうです。建物自体が比較的無傷で残っており、以前はPVDO側が拠点に使っていた事もあります。
「偵察なら私が1人で行ってきますわ。『アンタッチャブル』なら壁抜けが出来ますし、仮に巡回中のジーズに見つかっても『インプラント』で対処が可能ですもの」
ユウヒの提案に私とマイ先輩は同意しましたが、ミカゲは異議を唱えました。
「『アンタッチャブル』には使用制限があるだろう。もし偵察中に捕まったら、こっちの戦力がダウンする。今回の任務は討伐でもあるのだからそれは避けたい。マイ先輩の『カルキュラット』とサトラの『劣化分身』を使っての偵察の方がノーリスクだと思うが」
確かに、ミカゲの言う事も一理ありました。
「分かっていませんわね。『劣化分身』と『カルキュラット』を使って偵察を行うという事は、同時に相手にこちらが偵察している事をバラすという事を意味します。今回の任務概要はきちんとお読みになりました? 知性を付与されたジーズが相手にいるのですから、そんな事をすれば警戒を強めて増援が来るに決まっています。私なら、バレずに偵察が可能です」
「もし見つかったら『インプラント』処分するとさっき言っていたじゃないか」
「ええ、もちろん。肝要なのは相手のリーダー格のジーズに気づかれない事。雑魚はその都度処分していけばいいのです」
「……相手がその雑魚の死体を見つけたら?」
「分かっていませんわね、その2。これから向かうのは再生プラントですわよ。ジーズの死体などいくらでも隠し場所があります。その辺の情報も確実に入手する為に私が直接向かうべきなのです」
これには流石にミカゲも黙ってしまいました。多少怒っているような雰囲気ですが、ひとまず納得はしたようです。ユウヒの言い方は相当鼻につきますが、でも理屈は間違っていませんし、任務に対しての理解度はやはり優等生を感じさせました。
「分かった。偵察はお前に任す。私達はここで待機でいいか?」
「ええ。巡回中のジーズも出来るだけ狩らない方が良いと思われます。今回の任務はあくまでも討伐。殲滅ではありませんから。では、早速行って参ります」
ユウヒは拠点から出て行きました。これでも以前に比べれば2人の関係はマシになった方です。
それから3日間かけてユウヒが偵察を行なった結果、多くの事が分かりました。
まずは内部の見取り図。これはユウヒの情報を元に拠点で私達が描きました。建物自体は5階建てですが、地下に2階分の空間があり、再生自体はそちらで行われているようです。ユウヒによると、白くて巨大なマシュマロのような形をしたジーズがいて、それに細かく砕いたジーズを投入する事によって再生が行なわれるようです。
「その細かく砕くという作業はどこでしていた?」
「2階ですわ。1階に輸送型ジーズが死体を運んできて、それを知性のあるジーズが仕分けします。更にそれを2階に運び、細かく砕き、地下に運ばれるという流れになっていましたわ。もちろん各階には警備をしている戦闘用ジーズもいます」
死体を運び込む輸送型ジーズ、破砕作業をする汎用型ジーズ、それらを統率する知性型ジーズ、襲撃を警戒する戦闘用ジーズ、そして地下の再生機能を持った巨大再生用ジーズ。これだけの種類が複合して、再生プラントは成立している事が分かりました。そこに侵入して討伐し、機能を停止させるというのはかなり困難な任務のように思えます。規模と性質から言ってその全てを正面から倒していくというのはいかにも無謀です。
実戦試験4日目。ユウヒとミカゲからそれぞれ別の作戦が立案されました。
「まずは正面から侵入し、警備を全て倒す。そして2階3階と上がって行き、統率を担当する知性を持ったジーズを全て討伐する。そのまま戦闘用ジーズを各個撃破しながら屋上まで上がり、次元結晶で脱出する。知性型ジーズさえちゃんと倒しきれば再生プラントとしての機能は停止する。私達の売りは機動力だ。ジーズの増援が来る前に決着をつけられる」
ミカゲの作戦は、5種類のジーズの内、知性型と戦闘型だけを倒して逃げるという物でした。一方、ユウヒの提案した作戦は、
「まずは外を巡回する比較的大型のジーズを仕留めます。そして中をくり抜いて私達がそこに入り、死体回収の輸送型ジーズに運ばれて侵入します。そこから出来るだけ警備に見つからないように地下に降り、再生用の巨大ジーズを討伐します。巨大ではありますが、私の『インプラント』を5発全部打ち込めば倒せるはずです。その間、ミカゲさんには単独で暴れて敵を引きつけてもらい、マイ先輩には私を守ってもらいます」
巨大ジーズを最優先で倒し、他はミカゲの立ち回りとマイ先輩の防御に任せるという作戦です。ミカゲの作戦とは実に対照的でした。
どちらの作戦も一長一短あります。ミカゲの方は遊撃が2人というチームの構成を生かして、スピーディーに決着をつけますが、肝心の巨大ジーズは無傷のまま残ります。ユウヒの方は巨大ジーズを確実に叩く事が出来ますが、守りきれるかどうか、ミカゲがどの程度敵を引きつけられるかが個人の技能にかかっています。
普段から対立している2人ですが、こんな時でもはっきり分かれるあたり、もはや宿命なのだろうという気がしました。2人は黙ったままお互いを見ています。おそらく相手の作戦の利点も分かっているがゆえに、自分の意見を通す事に躊躇いを抱いているのでしょう。
「サトラ、あなたの意見は?」
ここまでずっと黙っていたマイ先輩が私に質問してきました。お目付役として、普段のお喋りを封印していましたが、重苦しい作戦会議の空気に耐えきれなくなったようです
「私は……」
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