第42話 サトラの試験(前編)

 学園長室に備え付けられた長い長いエレベーターに乗って降り立つと、そこは広大な地下空間でした。天井は雲に覆われており、ひび割れた道路と所々崩れた建物が並んでいます。曲がった看板、折れた電灯、色の剥げた壁。私はPVDO出身なので、メンターに仕えた経験は無く、学園以外の場所に行った事もありませんが、教科書で見たり話に聞いた景色とはやはり違っています。おそらくは廃墟という表現が正しいと思われます。


 地名としては「秋葉原」を再現しているそうです。資料によれば、電気街でありオタクの街という事らしいですが、オタクというのがそもそもどういう物なのか分かりません。ただ、写真を見る限り楽しそうな人達だなとは思います。


 しかしそんな平和な街も裏の世界においては激戦区です。大規模な交戦も何度か起きて、今回の実戦試験の設定においてはジーズ側が支配権を握っています。


 今回のミッションは潜入と討伐です。

 現時点において、秋葉原に派遣されているPVDO側の部隊はありません。街では汎用型のジーズが巡回と探索を続けており、その中心部にジーズの再生プラントがあります。


 ジーズの再生と言っても、生成人ジーがそこにいる訳ではありません。付与人ティーによって知性を付与された人型ジーズが複数集まって、他の場所で倒されたジーズの死体を回収して再生している工場なのです。事前の調査で場所は分かっていますので、私達はそこに潜入し、再生を行っているジーズを討伐するのが目標となります。


 ここまで書いてまだ自分が自己紹介をしていないのに気づきました。ついでに、今回実戦試験に挑むメンバーも紹介します。


 私の名前はサトラ。タマルさんと同室の者であり、今回は話の流れでチームのリーダーに就任しました。


―――


少女名 サトラ

メンター PVDO


能力

 H-01-S『空中浮遊』

 30秒間だけ空中に浮かぶ事が出来る。


 A-17-T『ヒール』

 触れた生物の傷を治す。


 C-12-G『劣化分身』

 能力を持たない自身の分身を召喚する。


オプション

 なし


基本戦略

 PVDO出身の汎用型。偵察、治癒、増援が可能な組み合わせで、サポート役に徹する。


―――


 次に今回の実戦試験におけるお目付け役でもある3年生のマイ先輩です。


―――


少女名 マイ

メンター 寺井 渉


能力

 H-05-V『グラヴィジョン』

 視界に捉えた生物や物の重さを倍にする。


 A-11-I『バリア』

 手の平から透明な障壁を召喚する。


 C-21-G『カルキュラット』

 際限なくネズミを召喚する。


オプション

 「意思疎通」コスト:3

 『カルキュラット』に対して複雑な命令を下す事が出来る。


 「耐久度上昇」コスト:5

 『バリア』の耐久度が大幅に上昇する。


 「間隔短縮」コスト:2

 『グラヴィジョン』の発動インターバルを若干短縮する。


基本戦略

 自分からは攻めず、『バリア』を使って守りに徹する事を得意とする。前線に立って前衛をしたり、『グラヴィジョン』を使って敵の弱体化を測る。『カルキュラット』で召喚したネズミに対して「敵の足を狙う」という命令をしてバランスを崩させ、『グラヴィジョン』によって潰すというコンボも可能。


―――


 次に同級生のユウヒ。よく言えばクラスのムードメーカー。悪く言えばトラブルメーカーです。


―――


少女名 ユウヒ

メンター 浅見 鋭二


能力

 H-19-S『アンタッチャブル』

 合計5秒間、触れられない状態になる。


 A-05-T『インプラント』

 触れた部位に植物の種を植え込む。植物は成長する。


 C-01-M『ジャンプ』

 高速で跳躍する。


オプション

 「透過格闘術」コスト:3

 『アンタッチャブル』を活用して近接戦闘を有利にする。


 「発動時間延長」コスト:3

 『アンタッチャブル』の発動可能時間を長くする。


 「弾数増加」コスト:2

 『インプラント』の使用可能回数をコスト分増やす。


基本戦略

 遊撃を得意とする前衛。相手が単体の場合『アンタッチャブル』を使って近接戦闘を挑む。複数の敵が現れた場合は、倒す必要のある敵にのみ『インプラント』を発動させて逃げる。必殺技として『ジャンプ』からの『アンタッチャブル』で相手の身体を通過し、『インプラント』を残して逃げるというヒットアンドアウェイも可能。


―――


 そしてユウヒとは犬猿の仲のミカゲ。


少女名 ミカゲ

メンター 真嶋 忠志


能力

 H-12-F『ニ-ドルヘア』

 頭部から髪の毛を放射する。


 A-18-I『斬波刀』

 衝撃波を飛ばす事の出来る刀を召喚する。


 C-23-M『ベクトル』

 対象の物と同じ方向、同じ速さで移動する。


オプション

 「侍」コスト:3

 『斬波刀』の扱いに慣れている。


 「体術」コスト:3 

 近接戦において身のこなしが上手い。


 「異常な愛情」コスト:1

 同級生タマルへの偏執的な想いがある。


基本戦略

 『ニードルヘア』+『ベクトル』による高速機動で『斬波刀』を操る遊撃型の前衛。相手からの攻撃に対しては回避を第一選択肢とする。基本的に『斬波刀』の衝撃波は空を飛ぶ相手や追撃、様子見の時のみ牽制として使う。

 

―――


 絶対に組まないと言っていた2人が、同じチームになりました。私がPVDO出身であるにも関わらずリーダーを任命された理由も何となく分かってもらえると思います。


 もちろん、2人が組んだのはタマルさんが現在昏睡状態に陥っている為というのが第一にあります。床に伏せるまで、タマルさんは2人に仲良くして欲しいと願っていました。


「あなたと組むなんて絶対にありえないと思っていましたが、やるからには必ず合格しますわよ」

「私達の不仲がタマルさんの負担になっていたのは事実だ。タマルさんが意識を取り戻したら、3年生になってから実戦試験を受ける事になると先生は言っていた。私はそれに必ず同行する。だからここで落ちる訳にはいかない」


 出発前、2人はそう言って私の前で固い握手を交わしました。お互いに若干力がこもり過ぎているような気もしましたが、とにかく以前では考えられない光景です。


 今回、タマルさんの日記を引き継いだ私は、本当はタマルさんが受けるはずだった試験の経過について書きたいと思います。今私に出来る事はそのくらいですし、タマルさんが戻ってきた時に喜んでもらえると思ったからです。

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