第40話 暗転
442日目
いよいよ1週間後から実戦試験が始まります。カリス先輩に書いてもらった日記のおかげで、その雰囲気や流れは理解していますが、それでも自分が参加するとなるとやはり緊張するものです。不合格なら追試、留年もあり得るという先生の説明を聞きながら、試験より前に解決しなければならない問題に私は直面していました。
「約束しましたわよね? 私と組んで実戦試験に挑むと」
「聡明なタマルさんがそんな約束するはずがないだろう」
また例の2人です。1年生の頃からずっと、一緒に実戦試験に参加するしないで揉めてきましたが、ついに決着をつけなければならない時が来たようです。まずは私本人が1人、そしてサポートのサトラが1人、3年生の先輩から選ばれたお目付役が1人。そして残るはあと1人。この枠を取り合っているのがユウヒとミカゲの2人です。
「どう考えたって私の方が強い」
「どう考えたって私の方が頭が良いですわ」
「誰よりタマルさんの事を大切に思ってる」
「私とタマルさんは親友。相性が良いんですの」
実戦試験自体は1週間後から始まり、そこから1週間ごとに1チームずつ地下の試験場に行きます。試験を受ける順番はクジで決まりますから、後半の方の番号を引けば実際に試験を受けるのはまだまだ先になるのですが、チーム決めだけは今週中に終わらせなければなりません。もちろん後から変更は効きませんし、チームを5人に増やすというのも無理です。必然、どちらかを選ばなければなりません。
「ねえタマルさん。私、イツカちゃんの事はあなたにお譲りしましたわね? その代わりに今度くらいは私の要望を聞いて頂いても良いのではなくて?」
「譲っただと? お前はただ厄介払いがしたかっただけだろ。面倒な後輩を押し付けただけだ。その事からもタマルさんの事を全く気遣ってないのが分かる」
終わらない言い争いに、私はサトラに助けを求めましたが無駄でした。ならミルト、ハスラ、誰でもいいです。誰でもいいから助けてください、と周囲を探しましたが、みんな一様に首を横に振るのみでした。打つ手なし。その2人はタマルが何とかしておいて、という視線を先生からも感じます。
駄目元で私は尋ねてみます。
「ミカゲ。ベルム先輩からの教えを忘れたの?」
そう、ベルム先輩が卒業する直前、ミカゲのユウヒに対する態度を良くないと思った先輩が、ありがたい言葉を残して行きました。バカの相手をする奴もバカ、みたいな感じの発言でした。
ミカゲは一瞬黙って、私とユウヒを交互に見た後、私の机に両手を置いて訴えかけてきました。
「で、ですが! 今回ばかりはタマルさんの進退にも関わる事です! こんな人間を一緒に連れて行っては、せっかく合格出来るものも出来なくなります。それでもいいのですか!?」
まあ確かに、ミカゲの言う事も一理あります。ユウヒの性格はこの日記に書いてきた通りですので、もし自分か私のどちらかが不合格にならざるを得ない選択肢が出されたら、間違いなくユウヒは私を蹴落とす事でしょう。私は気になっている事を聞いてみます。
「ユウヒ、イツカちゃんの事を私に押し付けたってミカゲは言ってるけど、そうなの?」
「あら、それは誤解ですわ。イツカちゃんはあまりにも個性的ですし、ちょっと私の手には追えないかなと思って。でもタマルさんなら気が合いそうだし、きっと正しい方向に導けるでしょう」
やっぱりただの押し付けではないか。とこの時点で思いましたが、その後ボソっと「下級生の弟子になるタマルさんも見てみたいですし」と付け加えていたのを私は聞き逃しませんでした。
私は腕を組んで考えました。2人とも別方向で実力はありますし、私を慕ってくれているのも分かります。ただ、ミカゲは過剰すぎて怖いですし、ユウヒはそもそもの性格が悪すぎる。甲乙つけがたい2人。私は試しにこう言ってみました。
「もう2人で組んでくれない? 私は別のチームに入れてもらうから」
「「それは絶対にありえない」」
2人が声を揃えて同時に言いました。仲が良くて結構な事です。
結局チーム決めは保留になり、3日後までに余る1人を決める事になりました。他のチームは全て決まって、残ったチームが余った1人を受け入れます。その余ったチームのリーダーはミルトです。揉める私達の様子を見かねて、サポートだけ確保してあと1人を待ってくれているんです。自分だって引く手数多なのに。どれだけ良い人なのですか。私はミルトと組みたい。偽らざる本音です。
今日はチーム決めで疲れたからか、ちょっと熱が出ました。先ほどまで横になっていて、大分楽になったので日記を書きました。
443日目
下級生からの呼び出しがやっと収まったかと思ったら、今日は学園長からの呼び出しでした。また訳の分からない事を言われるか、性欲の捌け口にされるのか、いずれにせよロクな事は起きないという心構えで行きましたが、私を待っていたのはレジー先輩でした。
「今日呼び出したのは私じゃない。レジーが会いたがってると思ってね」
学園長がそう言って、私は疑問に思いました。
「会いたがってるとは……レジー先輩は話せないんですよね?」
「まあね。でも付き合い長いから、何となく分かる」
そう言われてしまえば、そんなものかなあとしか言えなくなるのですが、レジー先輩は私を見ても無反応でした。
どうしたものか、と頭を抱えます。今日も昨日に続いて体調が悪く、耳鳴りと言うのでしょうか、何か遠くで女の子の泣き声みたいなのがたまに聞こえます。学園長に相談すれば良かったのですが、治療と称していかがわしい事をされる可能性を考慮して黙っていました。英断だったと思います。
どうしていいか分からず立ち尽くす私に対して、レジー先輩の透き通る瞳が何かを語りかけてきました。もちろんそれが何かというのは付き合いの短い私には分かりません。
しばらく向かい合って立っていると、レジー先輩の右目だけから、ツーっと一筋の涙が溢れました。私はそれを見て、いても立ってもいられなくなりました。
「学園長、ひとつ申し上げておきたい事があります」
「ん、なあに? 愛の告白?」
「レジー先輩がこのような状態であるのを良い事に、その身体に好き勝手するのは最低な行為です。即刻やめて下さい」
私は学園長の能力を警戒しながらもはっきり言い放ちました。
「あ、じゃあタマルちゃんが代わりを勤めてくれるの?」
「そんな事は言っていません。ただ我慢して下さい」
「それは難しいなあ。ま、考えておくよ」
結局、その後レジー先輩に変化はなく、涙もその1回だけでした。目にゴミが入ったのか、あるいは私が学園長を非難した事は満足してくれたのかは定かではありませんが、結局やめさせられなかったのですから私は無力です。
444日目
すいません。今日はちょっと体調が悪すぎて、日記をお休みします。身体がダルくて熱も上がって、耳鳴り、というか幻聴もはっきり聞こえるようになりました。でもきっと、今日1日寝ていれば明日には良くなっていると思います。必ず。明日は日記を書きます。
445日目
ごめんなさい。日記書けません。苦しいです。メンターは
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