第33話 オプション(CORE編)

 今日は学園上空をドラゴンに乗って飛びました。もちろんドラゴンといえば『ドラゴンエッグ』が孵化する事によって召喚される生物であり、学園に来る前にも戦った事があります。ですが私が今日乗ったのはあの時に戦った物とは大きく違っていました。


 両手両足が退化したように小さく、翼もありません。代わりに長い髭が生え、羽ばたかなくても常に宙に浮かんでいます。その身体は蛇のように長く、しかし蛇よりも明らかに巨大で太く、本来トカゲや鳥や近い顔部分の造形も、マズルの長い犬やワニに近くなっています。全身が鱗に覆われているのは同じなのですが、鱗の1枚1枚も比較的大きく、ついでに鹿のように枝分かれした角まで生えています。


 普段『ドラゴンエッグ』で召喚するのが西洋風の「ドラゴン」であるならば、今日私が乗ったのは和風の「龍」だった訳です。


 テンカの発動。

 C-28-G『ドラゴンエッグ』

 1分間で孵化するドラゴンの卵を召喚する。


 「龍」コスト:3

 『ドラゴンエッグ』で召喚されるドラゴンが和風になる。


「風が心地よい」

「ええ、そうですね。でもわざわざ乗って飛ばなくても、見せてもらえばそれで良かったのですが……」


 テンカ先輩は乗り慣れているようで、この不安定な龍の背で余裕で立っていました。私は全身べったりうつぶせに張り付いて、両手でしっかり角を握ります。決して高い所が怖いという訳ではありませんが、いかんせん空を蛇行しながら飛ぶ感覚は平衡感覚を脅かします。


「あの、テンカ先輩。そろそろ地上に降りませんか?」

「龍の心は空と共にある」

「あ、いや、このオプションを習得したきっかけや通常の能力との差異についてもう少し詳しく聞きたいので、落ち着いて話せる所へ移動したいのですが」

「縛りから放たれる。そこが私の居場所」


 は、話が通じない……。テンカ先輩はかなりの実力者なのですが、ちょっと不思議な所があり、会いに来る前にカリス先輩に聞いた時も「独特の世界観を持っている」という証言を頂きました。

 私の使命はあくまでもオプションの調査と記録。郷に入ってはの精神で挑むしかありません。


「龍の始まり、求めるは解答」

「それは無から生まれ、私に語りかけた」

「人と龍、通じ合う事は可能なのだろうか」

「肝要なのは繰り返す事。殻の内側においても私の呼びかけに答える」

「ほう、それは興味深い」


 謎の頭痛を堪えつつその後もやりとりを行って分かったのは、C-G系能力で召喚される生物に変化が現れるのは割と突然である事。しかし変化が現れる前から何となく頭の中にイメージがあった事。また、このオプションは自動で誘発する為、テンカ先輩はもう元のドラゴンを召喚する事が出来ない事などです。


 CーG系能力で召喚される生物の「亜種」については口伝で色々な物があります。『番犬』で召喚される犬種が違うなんてのはザラで、本当かどうか分かりませんが、ものすごく凶暴なトイプードルを召喚した先輩がかつていたとか、『用心棒』で召喚した人間が何故かアメコミ風のぴっちりしたスーツを着ていたとか、それに一体何の意味があるんだろうと思うような差異はとにかく枚挙に暇が無いようです。


 これはあくまで私の仮説ですが、同じ召喚を何度も何度も繰り返す事によって、発動者のイメージが段々と元の能力から剥離していき、やがてそれが臨界点を超えると能力に作用されるのではないか、と考えられます。実際、C-G系能力で亜種を召喚出来るようになった人は同時に元の生物を召喚出来なくなるらしく、それはそれとして亜種に対しての不満は無いらしいのです。


 言い換えると、時間をかければ発動者の望む形に変わるという事であり、興味深い事象です。


 次にCーB系能力についての調査を行いました。


 「筋力増強」コスト:3

 『アミニット』の肉体強化効果を上昇させる。


 まずこれが基本です。『アミニット』の部分はどのC-B系能力でも同じで、身体を鍛えた結果、同一能力の基礎的な上昇値よりも身体能力が上がったというのは分かりやすい変化でしょう。私はC-B系ではありませんのが、基礎トレーニング自体は一応行なっています。しかしC-B系能力を持った人に比べるとその上昇は微々たる物です。


 コストはイコール強化度合いの強さであり、1と5では大きな差があります。自身で鍛えた肉体は裏切らない、といった所でしょうか。


 「脚力特化」コスト:3

 『エアアーツ』による身体能力の強化を脚部に特化する。


 こういった部位特化も存在します。これまた『エアアーツ』の部分は何でもよく、脚部でなくても腕力や握力やスタミナやバランス感覚などそれぞれ得意な、あるいは他能力との組み合わせにおいて必要な身体能力を特化して上昇させる事も出来るようです。


 分かりやすい例として、同級生にハスラという子がいます。その子は『代償強化』を持っているのですが、練習試合でHEAD能力とARMS能力を使っている所を見た事がありません。戦闘が始まると同時に2つとも『代償強化』で封印して、真っ直ぐ殴りかかるんです。しかも先述のオプションで全体を強化した上、腕力にも特化しているので、とにかく一撃が重く、無傷で近づかれたら負けという認識が同級生の間では出来ています。


 その代わり能力を使わないので搦め手に弱く、ユウヒなどは『アンタッチャブル』を生かしてこれでもかというくらい煽りながら逃げまくります。「触られなければそんな筋肉意味ありませんわ! おほほほほほ!」と叫びながら戦うのですから、なるほど嫌われる訳です。


 それでも多分、3年間みっちり鍛え上げたハスラは、裏の世界での戦いにおいてかなり頼りになる存在になる事でしょう。臨機応変に様々な能力を使うのも素晴らしい事ですが、一貫した戦略を頑なに守るというのも強さであると思います。


 という訳で、ここまで3日間かけてHEAD、ARMS、COREのオプションについてざっくりと紹介しました。最初に述べた通り、これが全てではありませんし、かつてこの学園を卒業した先輩にはもっと奇想天外なオプションを持った人もおそらくいた事でしょう。これから学園に入学してくる子も同じで、それぞれ別々の道を歩みながら自分だけの技能を身につけるはずです。


 私はこれからも、いつか役に立つ事があると信じてオプションの調査記録を続けます。と、格好いい事を言って今日の日記を締めたい所なのですが、1つ悲しいお知らせがあります。


 私は明日死ぬかもしれません。

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