第31話 オプション(HEAD編)

 同級生にセムジアという子がいて、その子の所持能力の1つが『死線』なのですが、訓練で戦う時に、


 セムジアの発動。

 H-29-V『死線』

 2分間見続けた生物を殺す。


 というのが決まった瞬間に、必ず大声こう叫ぶのです。


「狭き檻からその魂を解き放て! 邪眼『デスパトーレ・アルムサス』!」


 このセムジアの謎の習慣はかなり以前から毎回欠かさずにやっていて、『死線』の性質上能力が発動した瞬間に対戦相手は死んでいるので、戦略的には全く意味はないんですが、どんなに息が切れてても誰が相手でも絶対この宣言だけはするので、最初ざわざわしていた同級生の間でも、今では当たり前の光景になっています。


 そしてこれはオプションの調査記録を始めてから分かった事なのですが、セムジアの『死線』は通常状態より若干発動が「早い」のです。


 『死線』は通常2分間常に相手を見続けなければ発動しない能力です。でもセムジアの『死線』は約1分40秒でその条件を満たします。つまり20秒程早い訳です。発動後に邪眼なんとかかんとか! と叫ぶ事が一体どういう原理で早くする効果を与えているのかは定かではありませんが、発動までが早いというのは十分効果的なオプションと言えるでしょう。


 「邪眼デスパトーレ・アルムサス」コスト:2

 『死線』が発動するまでの時間を少し短縮する。


 それで興味を持ってもっと詳しく話を聞いてみたのですが、衝撃的な事が分かりました。セムジアには師匠がおり、2個上の3年生、つまりもう卒業してしまったのですが、その方も『死線』を持っていたそうなんです。そしてその方のオプションが、


 「魔眼セルファリアス・オームズバイ・コンテキュート」コスト:5

 『死線』が発動するまでの時間を大幅に短縮する。


 という物で、なんと発動まで1分程度しかかからなかったらしいのです。セムジアより更に発動が早い『死線』という事になります。


 邪眼と魔眼の違いって一体何なんだろうとか、こんなにややこしい名前を舌を噛まずに言えるなあとか、色々と個人的に思う所はありますが、『死線』の必要時間が短縮されるのはとにかく良い事です。


 しかもこの2人、メンターが同じなのです。学園に入る前から、「邪眼」は「魔眼」の弟子になるようにメンターから指示されていたらしく、何というかその、これはつまり、メンターの趣味が思いっきり出ているという事なのでしょうか。


 ちなみに、学園に来る前の試合時も『死線』が決まった際は例の邪眼なんとかかんとかを言うように指示されていたのですが、その時は発動までの時間短縮効果は1秒も無かったそうです。やはり、ただ何かを言えばいいという訳ではなく、何ヶ月も訓練して発生する能力固定化の副次的な効果なのでしょう。


 セムジアの『死線』オプションが時間を短縮する一方で、効果時間を伸ばすオプションも存在します。それが、3年生の先輩ライカさんが持っている「容量拡張」です。


 ライカの発動。

 H-22-S『電体』

 最大5秒間帯電する。


 「容量拡張」コスト:3

 『電体』の最大発動時間を増やす。


 本来最大で5秒しかない発動時間を、3秒伸ばして8秒にする事が出来る。これだけでもなかなか便利で凄い事なのですが、更にライカ先輩はもう1つ『電体』に関してのオプションを持っています。


 「自家発電」コスト:5

 二の腕を擦る事によって『電体』の発動時間を回復する。


 実際目の前で見せてもらったんですが、8秒間『電体』を発動させて空っぽになった後でも、5分ほど二の腕をさすさすさすさす上下に手で擦る事によって、発動時間が1秒だけ復活したんです。驚きました。


 ライカ先輩は元々、両腕を組んで擦るのが癖だったらしいのですが、ある日の訓練中にこれが出来る事に気づいたそうです。5分ずっと擦るというのは試合では無理でしょうが、裏の世界での任務中には有効だと思われます。ちなみに私もライカ先輩の二の腕を擦ってみましたが、他人がやっても駄目なようで効果はありませんでした。


 このように、オプションは単純に能力の性能を引き上げる物もあれば、新たな特徴を付加させる物もあります。


 そしておそらく先ほどからメンターも気になっていると思うんですが、オプション名の横にある「コスト」という言葉ですが、これは私が個人的に定義した物です。聞き取り調査をして分かったのは、オプションは「努力の結果身につく物」と「偶然見つかる物」があり、その難易度はオプションによるという事です。

 つまり「1週間程度1つの能力について練習したらちょっとだけ性能が上がった」程度の物であればその習得難易度は非常に低いですし、「普段何気なくしていた動作が能力を開拓するきっかけになった」というのは珍しいケースですから習得難易度は高いです。


 「コスト」とはつまり、習得に必要な努力と運をおおよそ数値化したものです。

もちろん、人の努力なんて正確に数値化出来る物ではないので、あくまでも「大体」です。ちなみに私の場合は、


 「早溜め」コスト:4

 『チャージショット』の溜め時間をかなり短縮する。


 という所です。自分がした努力なので、コスト:100くらいだ、と本当は言いたい所なのですが、客観的に見ないと記録自体の信憑性が得られないので出来る限りそうしました。更に溜め時間を短縮出来れば、コストを5に上げてもいいかもしれませんが、この調査を始めてから訓練時間があまり取れていません。カリス先輩とも2日も会っていませんし、少し寂しく感じます。


 ですが、このオプション調査自体にはやりがいを感じているので、明日の日記ではもう少し他のオプションを紹介する事にします。間違えました。学園の友達を紹介します。

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