第26話 なかよし

185日目


 カリス先輩から日記が戻ってきました。

 実戦試験、私が受ける事になるのはまだ先ですが、もの凄く大変そうだという事だけは文章からひしひしと伝わってきます。過去の作戦に関しての授業は3年生になってから行われるので、事前知識の無い状態で応用力を見る為の試験なのでしょう。


 正直、現時点では全く自信がありません。あのカリス先輩でさえ90点。実戦で最悪の結果が出ている難題を与えられたにも関わらず、学園長には詰めが甘いと言われているのを見ると、私なんかが合格出来る気がしないのですが、まだ時間もありますのでひたすら修行しかなさそうです。


 ユウヒとミカゲが、カリス先輩の書いた実戦試験の日記を読みたいというのですが、悩んでます。この日記ごと貸すと私の恥ずかしい日記についても読まれてしまいます。カリス先輩が相手なら良いですが、2人はちょっと……。でも、実戦試験の様子を知る事は、これからの成長についてとても有意義にも思えます。特にミカゲには今の所師匠がいないので、少しでも役に立つのなら助けてあげたいです。


 なので明日、カリス先輩に許可をもらい、実戦試験について書いた部分だけをコピーして、2人に渡そうと思います。


186日目


 珍しくカリス先輩も恥ずかしがってましたが、後輩の為という事で何とか説得しました。コピーしたものを2人に渡しました。……ちょっと心配です。


187日目


「ごきげんようタマルさん、2年生になったら必ず私とチームを組んで実戦試験に挑みましょうね」

 案の定、カリス先輩の実戦試験を読んだユウヒがそう提案してきました。作戦や能力の組み合わせの事もあるし、今断言するのはどうかなと思って答えに窮していると、後ろにミカゲが立っていました。


「タマルさん、私には『斬波刀』があるので、前衛を勤める事が出来ます。タマルさんは後衛ですし、よろしければ一緒に試験を受けて頂けると助かります」


 私の心配が当たりました。


「そうかしら。前衛と言ってもマイ先輩みたいな防御能力は無いのではなくて?」

 と、ユウヒが噛みつき、

「『ベクトル』の機動力で敵を撹乱出来る。そんな事も分からないのか?」

 と、ミカゲが反撃。

「それなら私の『アンタッチャブル』で十分ですわ。私にはフィレス先輩直伝の格闘術もありますし、ミカゲの出番は無さそうですわね」

「武器があった方が良いに決まっているだろう。それに断言するが、お前はいざとなったらタマルさんを見捨てる」

「ちょっと。お前、ですって?」

「お前をお前と呼んで何が悪い」


 険悪。本当に相性の悪い2人で、すぐに喧嘩になります。訓練でも何かと張り合っていますし、担任の先生はもう諦めているみたいで特に注意もしてくれません。毎回間に立たされる私はたまったもんじゃないです。


「まだ先の事だし、今からそんな真剣に考えなくても……」

 と宥めましたが、逆効果でした。


「まだ先と言ったって、毎日訓練していたらあっという間ですわ。実戦試験に同行出来るのは4人ですけど、1人は3年生の先輩で決定していますし、1人はサポート役が必要ですから、タマルさんと一緒に行けるのは1人までですのよ。分かってますの?」

 分かってますわ。


「私はタマルさんを決して裏切りませんし、タマルさんの合格の為なら私自身が不合格になったって構いません。どうか、私を一緒に連れて行って下さい。必ずお役に立ちます。必ずタマルさんをお守りします」

 ちょっと怖いですわ。


 その後もああでもないこうでもない、こうなったら私が有利だ、こうなったらお前の能力は腐るといった議論は白熱し、私はうつぶせになって嵐が過ぎ去るのを待ちました。どうしてこんな事になってしまったのか。私が何か悪い事をしたのでしょうか。



200日目


 今日は「シューティングレース」が開催されました。

 以前、ミカゲが私に3位以内に入ってカチューシャをプレゼントすると約束してくれたイベントです。

 今回から1年生の参加も許可されたので、1年生から30人くらいがエントリーしました。その代わり2年生、3年生は減って、10人ずつくらいです。やっぱり競技に適した能力でない人は参加しにくいですし、前回3位以内に入った方は自主的に参加しないみたいです。実際、カリス先輩もベルム先輩も参加していません。別に参加してはいけない決まりは無いのですが、暗黙の了解という物なのでしょうか。


 私はもちろん参加しました。『チャージショット』+『スライド』はこの競技に向いていると思っていましたし、今は早溜めもありますから、自分の実力を試すという意味でもやって損はないと思いました。が、問題はやはりあの2人です。


「経験豊富な上級生の皆様を相手にして、本当に3位以内なんて入れるのかしらね」

「黙れ。参加すらしていないお前にとやかく言われる筋合いはない」


 まだ競技が始まってもいないのに、今にも殺し合いを始めそうな2人。口論するならせめて私を間に挟まずにやって欲しいのですが、しかし私がここにいないと本当に取っ組み合いになるので仕方ありません。


「タマルさん。見ていて下さい。私はあなたの為に必ず3位以内に入り、カチューシャをプレゼントします」

「今から真面目に勉強して、私に順位を譲ってもらえるように頭を下げた方が現実的だと思いますわ」


 今日も今日とてバチバチです。

 ストレスで死にそうな中、やがて競技が始まりました。


 結果、1位は3年生の先輩。前回カリス先輩とベルム先輩に押し出されて4位になった方が順当に1位になりました。2位も3年生の先輩で、やはり経験値の差はすごいなと思いました。そして3位なんですが……。


「はぁい、ざぁんねぇんでしたぁ! だから言ったでしょう! あははははは!」

 ユウヒがお嬢様キャラをかなぐり捨ててユウヒを煽っています。

「……上級生には勝てないというお前の発言は間違いだっただろ!」

「あら、そんな事言いましたっけ?」

「言った。聞いてましたよね? タマルさん」

「でもあなたが勝った訳じゃないんだから、偉そうにしないでくださる?」

「……くそっ。次回は……次回こそは……」


 同級生2人は全く祝ってくれません。今回の「シューティングレース」、1年生で3位に入賞したのは他ならぬ私だと言うのに。


「……おめでとうございます」

 私が泣きそうになっていると、背後からぼそりと声をかけられました。同室のサトラです。


 実戦試験に同行する1人が決まりました。

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