第21話 許可

 今日はメンターに許可してもらいたい事が1つあって日記を書きます。ですがそれを書く前に、何故その許可が必要なのかというのを説明しなければなりません。


 以前、「裏の世界」についての授業が行われた時もノートとは別に日記でその内容を復習しました。今回の私からのお願いも「裏の世界」におけるかなり重要な内容が関わってくるので、補足しつつ書いていきたいと思います。


 「裏の世界」にいる3人の敵覚醒者の目的はメンター達のいる世界への侵攻です。PVDOにいる管理人、案内人、変態学園長という3人の覚醒者はそれを阻止しようとしています。お互いに相打ちは避けたいと思っているらしく、「裏の世界」側はジーズという召喚生物と能力の付与によって部隊を揃え、PVDO側は私達クローンにメンター達を巻き込んで部隊を揃えようとしています。


 そして戦況としては、単純な兵力で言えば「裏の世界」側の方が勝っています。つまり、もし現時点で全ての戦力が真正面からぶつかれば、メンターのいる世界は必然的に滅びるという事です。しかしそうならないのは、「裏の世界」から兵を送り込む為に「研究」と「素材」が必要な為です。


 「研究」の方は、以前にも少し触れましたが、知性を付与されたジーズが「裏の世界」の構成を分析し、2つの世界を繋げる為に必要な情報を揃えている段階だそうですが、ここにおいてどうしても必要な「素材」という物があります。


 それは「次元結晶」と呼ばれる物体です。

 私は以前からその単語は聞いていたのですが、今日初めて授業でその実物が配られ、手に持って見る事が出来ました。


 見た目としては、大きさが500円玉くらいの歪な形のメダルといった所でしょうか。くすんだ銀色をしていますが、照明にかざして角度を変えてみると、僅かに緑色の光沢が見えます。表面に凹凸がありますが、肌触りは滑らかでした。


 端的に言えば、この「次元結晶」を相手が大量に集めてしまうと、「裏の世界」から侵攻の為に十分な大きさのゲートが開いてしまうという事です。


 こんな話を文章上でされても、メンターからすれば納得出来る物ではないだろうなとも思います。ほとんどの人は「裏の世界」で戦いが行われている事自体を知りませんし、そもそもPVDOの事自体も基本的には秘密です。


 しかし滅びというのは突然やってきます。前触れもなく、逃げ場もありません。

 そしてそうならない為に私達がいます。


 この「次元結晶」は、敵が集めた場合には致命的敗北を意味しますが、こちらにとっても必要な「素材」となっています。というのはそもそも、例えば今私がいる学園や試合が行われていた戦闘エリアなどは、PVDOの案内人エルが作った空間ですが「裏の世界」というのはいつ誰が作った物なのか分からない物なのだそうです。支配人ダブルが作った、という説明が1番すっきりするのですが、それには腑に落ちない点がいくつかあり、先生も明言はしませんでした。


 更に言えば、本当に作られた物なのかも分からず、元からあった可能性もあるという事で、その辺いまいち授業でも歯切れの悪かった所なのですが、とにかく今は支配人ダブルが統治している空間なのだそうです。自身の作った物ではない為、案内人エルには「裏の世界」がどこにあるのかというのが分からず、自由な転送が出来ません。


 とはいえPVDOとしては「裏の世界」に私達を送り込まなければ、ジーズは退治される事なく無限に増殖を続け、「次元結晶」を集めきって攻めてきます。それを防ぐ為に必要になるのがこれまた「次元結晶」なのです。この直径3cmほどしかない歪んだ円状の物体の内側には、その物がある「絶対的な座標」という物が記録されており、破壊した一瞬だけ案内人エルの能力によって位置の補足が可能になります。


 つまり、「次元結晶」は敵にとっては世界を滅ぼす為に数を集めなければならないアイテムであり、PVDOにとっては世界を守る為に常に消費していかなければならないアイテムであるという事です。


 メンター、ここまでは理解出来たでしょうか。ただ、長々と説明してきてそれはないだろうと思われるかもしれませんが、正直言うとメンターが理解出来ていてもいなくても全然構いません。「次元結晶」がめっちゃ便利な物なんだな、程度に思ってもらえれば十分なんです。


 さて、そのめっちゃ便利な「次元結晶」ですが、入手方法は今の所2つに限られます。


 1つは、「裏の世界」での採掘。「裏の世界」はメンター達のいる世界のコピーのような物ですが、何故か人が多くいる場所に「次元結晶」は発生するそうです。例えば学校、病院、高層ビル、ライブ会場、競技場、観光スポットなどなど、人口密集地点を探すと見つかるらしいのです。ですから私達の任務の一部として、そういった場所での「次元結晶探索」という物があります。逆にジーズ達が探索しているのを阻止するのもまた1つの任務です。


 もう1つは、学園長の能力による召喚。何の間違いかA-I系能力の覚醒者である職人アイは、物を自由に作り出す事が出来ます。「次元結晶」もその例外ではないらしく、作る事が可能なのだそうです。が、能力にはインターバルという物があります。「次元結晶」は1つ作るとその後1日は作れないらしく、生成出来る数には限りがあります。なんとも役に立たない変態です。


 最後にもう1つだけ習った事を書いて今日の日記は終わります。

 「裏の世界」への滞在は最長で1週間だそうです。それ以上長くいると、支配人ダブルに位置を補足され、大量のジーズあるいはジーかティー本人を送り込まれて我々は全滅します。ですから、そうなる前にPVDOに戻って、ある程度の時間を過ごす必要があります。


 そしてこれは今日知ったのですが、戻ってきた時、どこで滞在するかというのは私達の自由だそうです。PVDO本部に用意された宿舎でもいいですし、許可をもらえればメンターの部屋に戻る事も可能だそうです。


 許可して欲しい事とはつまりこれです。

 メンターは、私がメンターの部屋に住む事を許可してくれますか?

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