第20話 気づき

148日目


 学園に来てもうすぐ5ヶ月が経ちます。

 今日は良い知らせと悪い知らせが1つずつあるのですが、悪い知らせの方から先に書きたいと思います。


 まず、私は「片手撃ち」を習得する事を諦めました。カリス先輩からの熱心なご指導に応えられず、ここ3ヶ月の間であまりにも進展が無いので、私の『チャージショット』はこれからもずっと両手で溜めて撃ち続けます。ついでに溜めながらの移動も無理です。完全に諦めました。


 これまで必死に頑張ってきたのに、そんなにあっさり諦めるなんてタマルはふぬけになったのかとメンターは思われたでしょう。ですが、私をなじる前にまず’良い知らせを聞いてください。


 それは今日の個人訓練中の事でした。いつものようにカリス先輩の前に立ち、左腕の力を抜いて、右手に意識を集中させ、能力を発動。明後日の方向にエネルギー弾が飛んでいくというプロセスを繰り返していた時の事です。


「……タマル、なんかちょっと早くなってない?」


 最初に気づいたのはカリス先輩でした。その時点ではまだ指摘の意味が分からず、私は首を傾げます。


「いや、エネルギーを溜めて発射するまでの間隔が、ほんのちょっとだけ早い気がする」


 『チャージショット』は、エネルギーを溜めなければ連射が可能な能力なのですが、かといって0秒間隔で無限に撃ち込めるという訳ではなく、最低でも0.数秒は溜める時間が必要なのです。もちろん威力を出す為には数秒数十秒単位で溜めなければならないので、コンマの下の数なんて誤差なんですが、カリス先輩からすると「発動してから発射までがほんの少し早い」というのは奇妙な現象だったそうです。


「タマル。両手でいいから連打してみて。私も隣で撃つから、合図したらスタートね」

 私とカリス先輩は横に並び、訓練場の壁に向かってひたすら『チャージショット』を連続で発動しました。


 パン、パン、パン、パン、と最初は完全に一致していたリズムが、

 パパン、パパン、パパン、パンパン、パンパン……とちょっとずつズレていき、

 やがて一周してまた、

 パン、パン、パン……というリズムになって一致しました。


 この現象の意味する所は1つです。

「ほら、若干だけどタマルの『チャージショット』が早い」

 カリス先輩は何かを思いついたように訓練場を出て行き、数分後に戻ってきた時には腕に『ライフゲージ』人形を抱えていました。どうやら担任の先生に許可をもらって、備品室から借りてきたようです。一緒にストップウォッチも持っていました。


「良い? まずは私がジャスト30秒測ってこの人形に『チャージショット』を撃つから、次はタマルが全く同じ事をしてみて」


 私はカリス先輩からストップウォッチを受け取り、カリス先輩の溜め時間を計測しました。30秒溜めた時の威力は、『ライフゲージ』換算で「402」相手が人間なら直撃で仕留められる程度の威力です。


 次は自分の番。カリス先輩が30秒を測り、私が人形に『チャージショット』を撃ち込みます。


 表示された威力は、「563」

 これはカリス先輩の約1.4倍の数字です。ちょうど同じ時間だけ溜めたにも関わらず、結構な差が開いていました。


「先輩、これは一体……」

 投げかけた疑問の答えは、カリス先輩からの抱擁でした。ぎゅっと両腕ごと抱え込まれて、ちょっと苦しかったです。

「信じてた! タマルは絶対出来る子だって信じてたよ!」

 まだいまいち事態が飲み込めていなかったにも関わらず、カリス先輩の言葉に、思わず泣きそうになりました。


「まだ分からないの? タマルは片手撃ちや移動撃ちは出来ないけど、早溜めと早撃ちが出来る。そういう事でしょ!」

 つまりはこれが良い知らせです。人には向き不向きがあると聞きますが、私にとっては『チャージショット』の溜め方がそうだったみたいです。若干早く撃てる、あるいは同じ時間でも高威力になる。地味といえば地味ですが、これは紛れも無く私がしてきた努力の結果です。


 それにしても凄いのは、カリス先輩が気づいた事です。こうして数値にすればはっきり分かりますが、自分でも気づかなかった微妙過ぎる発射速度の差に、カリス先輩は気づいてくれました。私の事をよく見てくれていた証拠です。


 正直な所、成長が実感出来た嬉しさ、というのももちろんあるのですがそれより、カリス先輩の期待に応えられたという事の方が私を嬉しくさせました。毎日毎日、ちょっとも進歩しない私の練習に付き合ってくれたカリス先輩には感謝してもしきれません。


「でもこれから訓練メニューは変えなきゃね。溜めが早いとなると、タマルが認識している威力よりも実際は高い威力が出るって事だから、まずはそれに慣れないと。出来れば『ヒール』持ってる子を呼んで、私に直接撃ち込んで練習してくれると手っ取り早いんだけど……」

 既に先の事を考えてくれているカリス先輩。これ以上ご迷惑をかけるのもあれですし、威力のテストはユウヒを相手にすればそれで十分です。それに、カリス先輩にはカリス先輩で頑張ってもらわなければならない事がありました。


「そんな事よりも先輩。来週から実戦訓練ですよね? 弟子としてはそちらに集中してもらいたいのですが」


 実戦訓練になるとカリス先輩は1週間ほど学園から離れます。正確に言えば、学園の「地下」に行くので離れている訳ではないのですが、会えなくなる事に変わりはありません。

「せっかくタマルの頑張りがこうして形になったんだから、もう少し成長を見ていたい。なんとか実戦訓練の日程をズラしてもらえるように先生に……」

 この後、とんでもない事を大真面目に言うカリス先輩を説得するのはなかなかの大仕事でした。

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