第19話 本気

 今日は久々に1対1でミカゲと戦闘訓練を行いました。


 ミカゲの発動。

 A-18-I『斬波刀』

 斬撃を飛ばす事の出来る刀を召喚する。


 ミカゲは手に持った刀を振るい、まずは牽制の衝撃波を放ちます。


 タマルの発動。

 C-22-M『スライド』

 一定速度で地面との平行移動が出来る。


 私はそれを見てかわすと同時に、


 タマルの発動。

 A-10-R『チャージショット』

 手の中でエネルギー弾を溜め、放出する。


 エネルギー弾を両手で溜め始めます。

 片手撃ちはまだまだ全然実用段階ではありませんし、『スライド』での移動が問題なく出来ている限りはその必要性もありません。ただやはり、片手で撃てるに越した事はなく、例えばこの状況でも相手の一撃を左腕で受け、至近距離から片手撃ちで仕留めるといった選択肢が増えますから、早く習得したいです。


 私の回避を見て、ミカゲは戦略を変えます。衝撃波を放ちつつ私を戦闘エリアの端に追いやり、続けて2つの能力を発動。


 ミカゲの発動。

 H-12-F『ニ-ドルヘア』

 頭部から髪の毛を放射する。


 ミカゲの発動。

 C-23-M『ベクトル』

 対象の物と同じ方向、同じ速さで移動する。


 髪の毛の一部がぶわっと逆立ち、四方八方に飛び出しました。その内の1本と『ベクトル』を同期させ、瞬間的に高速での移動を可能にします。『ニードルヘア』が目眩しにもなっていて、加速によって『斬波刀』の攻撃力も上がるという高機動かつ高攻撃力の組み合わせです。これはいわばミカゲの必殺技で、「タマルさん、この技に何か名前をつけてくださいませんか?」と依頼されているのですが、良いのが思いつかず保留中です。


 非常に有効な組み合わせですが、その軌道は飛び出した髪の毛に依存する為、常に真っ直ぐで変更は効きませんし減速もします。私はその出だしを読み、『スライド』で回避を試みました。ミカゲの切っ先は私の肩を僅かに掠めました。


 ここまでの流れは、以前ミカゲと戦った時と全く同じです。私はこの後、すれ違ったミカゲが振り返り、一撃を繰り出す所を『フリーズ』で止め、溜めた『チャージショット』を撃ち込む事で勝利出来ます。


 タマルの発動。

 H-14-V『フリ-ズ』

 視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。


 ですがここで問題が起こりました。振り返った時、私があらかじめ想定していた位置にミカゲの『斬波刀』が重なっていたのです。そのまま撃てば刀自体は弾き飛ばせそうですが、溜めも中途半端なので決着にはなりません。では撃つ位置を変えるべきです。どこに撃ち込むべきか。

 そんな一瞬の躊躇が命取りです。私が『チャージショット』を放つ前に『フリーズ』は解除され、私は慌てて撃ち、軌道は相手の『斬波刀』のある場所に向かっていったのです。完全なる失策です。


 負けた。そう思いましたが、『フリーズ』の解けたミカゲは『斬波刀』の位置を僅かにずらして、私の一撃を自身の身体で受けました。ミカゲは大きく吹っ飛び、それで決着です。

 クラスメイト達はミカゲの取った行動に気づいていないようでした。目の前で見ていて私だけが、ミカゲがわざと負けた事に気づいてたのです。


 その日の訓練は終わり、夜になって私はミカゲの部屋に行きました。


「夜に私の所に来てくださるなんて珍しいですね。タマルさん、どうされました?」

 私が部屋を訪れると、ミカゲは嬉しそうに微笑みました。幸い、ミカゲと同室の子は外しているようですし、回りくどいのは苦手なので私は単刀直入に尋ねます。

「どうして今日の訓練で手加減したの?」


 ミカゲは少し困ったような顔になり、首を横に振りました。

「手加減なんてしていません。タマルさんがお強いのです。以前も同じように負けてしまいましたし、今日だって……」

「今日私は『フリーズ』のタイミングを誤った。その上『チャージショット』の狙いも外した。ミカゲは最後の一撃を避ける事も防御する事も出来たはず。違う?」


 私の追求に、ミカゲは優しい目をしたまま黙りました。

「答えて。どうしてわざと負けたの?」


 ミカゲがぐっと私に近寄ります。現時点ではミカゲの方が若干背が高く、私の視線は少しだけ見上げる形になります。

「タマルさんは強くて優しくて、何より自分に厳しい。この話は、それで良いじゃないですか」


 そんな事で誤魔化される訳にはいきません。訓練とはいえ、勝負は勝負として真剣にやらなければお互いの為になりません。

「いいから理由を……」


 言いかけた時、ミカゲの同室の子が戻ってきました。どうやら風呂上がりのようで、髪の毛が濡れています。私とミカゲのただならぬ雰囲気を見て、気まずそうに「えっと……お邪魔でしたか?」と言いました。


 私は出かけた言葉を飲み込んで、ミカゲの部屋を出て行きます。

「次に手を抜いたら許さない」

 去り際、結局我慢できずに私はミカゲにそう言いました。



120日目


「そんなの、タマルの事が好きだからに決まってるんじゃありません?」

 昨日のことについて、ユウヒに相談した私が馬鹿でした。

「『憧れのタマルさんに黒星をつける事なんて畏れ多くて出来ません!』なんて、あの子なら凄く言いそうですわ」

 ユウヒによる似てないミカゲモノマネには悪意がこもっていましたが、あながち否定出来ないのが問題です。


「でもそんな、好きって言ったって、私達は……」

「5%」

「え?」

「集団の中から同性愛者が発生しうる確率だそうですわ。ちなみにこれは、学園の外でも中でも同じですのよ」


 汚い笑顔のユウヒが、困っている私を見てにやにやしていました。

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