第18話 新たな力
今日は学園長からの呼び出しで体育館に行きました。
2日連続で人生最悪の日が続くのかと思いきや、呼び出されたのは私だけではなく今日は全生徒が対象でした。体育館1階の最も広い訓練場は、戦闘エリアの周囲をガラスの壁が覆っており、どの方向からでも見る事が出来ます。私達は2列になって囲み、その中心には学園長ともう1人の子がいました。今日はどうやら見学だけのようです。
「全員揃った? じゃあそろそろ始めようか」
私は学園長の事を見る周囲の表情を見ていましたが、私同様に嫌悪感を抱いている子もいれば、ただ無心で見ている子もいました。3年生の方には笑いながら学園長に向かって手を振っている方もいましたので、評価は人それぞれのようです。
「レジー、腕を出して」
学園長がそう言って、隣にいた少女が言われた通りにしました。レジー。もちろん聞いた事が無い名前ですので、少なくとも同級生ではありません。見た目はベーシックな私達をそのまま純粋に成長させたような、他の個性ある方々に比べれば特徴の無い感じです。
やがて学園長は手に持った注射器をレジー先輩の腕に刺して中の液体を注入しました。
「どう? いけそう?」
「はい」
学園長が人形を召喚しました。ダメージスコアアタックの時に使う、『ライフゲージ』が付与された例の人形です。それをレジー先輩の前に置くと、距離を取りました。そしてレジー先輩が瞼を閉じます。
レジーの発動。
Cー37-B『ナイトライダー』
視界を失っている間だけ肉体を強化する。
人形に向かって凄まじい勢いで格闘攻撃を繰り出すレジー先輩。目をつぶっているという事は前は見えていないはずですが、相手が人形なので逃げられる事はありません。右、右、左、右、ハイキック。その機敏な動きとダメージ表示から、肉体が強化されているのは明白でした。傍目で見る限り、『アミニット』あるいは『代償強化』程度の強化具合でしょうか。
「能力名『ナイトライダー』。CーB系ね。なかなか良い感じじゃない」
30秒ほどでデモンストレーションは終わり、学園長の合図でレジー先輩は攻撃をやめて目を開けました。
「2、3年生は当然知ってると思うけど、1年生は一部しか知らないから説明するわね。能力を付与するこの注射は、全て私の能力によって召喚している。能力自体は元々あなた達の身体に秘められている物だけど、それを引き出すコードとしてこれが必要な訳。掘り起こすからマイニングとも表現出来るけど、まその辺は好きに解釈してもらっていいわ」
身体に能力が内蔵されているという話自体が初耳でした。ですが、そこまで違和感はありません。私達は自分が使ったことのない能力でもスムーズに発動できますが、元々身体の一部であったのなら自然な事です。
「で、そのコードを発見するのに必要なのがあなた達の『微妙に変化した』遺伝子情報。つまり、成長しつつあるあなた達の唾液って訳。今回発見された『ナイトライダー』は、昨日ある1年生の口の中から発見した物よ」
昨日。1年生。ひょっとして。
「ね?」
学園長が私の方を見てウインクしました。私はスッと目を逸らします。
「照れ屋さんなんだからもう」
新しい能力を発見する為に遺伝子を入手する必要があった。そして遺伝子を入手する為に口内細胞を採取する必要があった。まあ、ここまでは分かります。だとしてもキスする必要は無かったのではないでしょうか。ましてや乳首をつつかれる必要は全くありません。
というか、先に新能力の発見の為だと言葉で説明してくれたのなら、嫌ですが、大人しく協力したはずです。嫌ですが。そうしたら私が反撃を行う事もなく、罰を受ける事も無かった。そうじゃないですか。
昨日に増して怒りが深化した私と違って、他の子達はまばらな拍手で学園長を讃えていました。確かに、新能力はイコール新戦力であり、PVDOにとって喜ばしい事です。
「という訳でこれからもちゅっちゅさせてね。じゃあ解散! 午後の訓練頑張ってね〜」
こうして、学園長とレジー先輩はさっさと帰ってしまいました。
「凄かったですわね! 『ナイトライダー』能力名も何だかカッコいいですし、リスクはありますけど見た感じかなり強そうですわ」
やたらとハイテンションで早口なユウヒ。
「まず真っ先に思い浮かぶのが『ブラックアウト』で相手の視界も失わせる組み合わせですが、『裏の世界』においてはHーW系は発動不可ですものね。となると接触してからの『融合』もいいですけど、それだと相手も強化されてしまいますわ。何とか相手を追い詰めてから近接格闘に持ち込むのが無難なのかしらね」
自分が使える訳でもないのに、既に考察を始めています。私はちょっと引き気味でしたが、その内容自体は正しいと思いました。
新しい能力。メンターが知ったら喜びそうな話だな、とは思いましたが、今の私には自分の能力を扱うだけでも手一杯です。
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