第14話 ペリキュール

90日目


 学園に来てから3ヶ月が経ちました。

 今日は2ヶ月前に行われた「シューティングレース」と似たイベントで「ダメージスコアアタック」という物が開かれました。


 この競技は、学園長が用意した人形に対して30秒間一方的に攻撃を繰り返し、1番高いスコアを出した人が優勝というシンプルなルールです。人形は上限無しの『ライフゲージ』を内臓している特殊なアイテムで、もちろん反撃はしてきません。この訓練は、裏の世界でたまに現れるという超大型のジーズに対していかに効率良くダメージを与えられるかを競う物ですが、「シューティングレース」の時と同様に上位入賞者には賞品が出ます。


 やはり今回も1年生は参加出来ませんでしたが、上級生の挑戦を見学する事は許されていました。


 皆さん色んな方法で凄いダメージを叩き出していました。中でも凄かったのは、『鉄人』+『ピースメーカー』+『ベクトル』の高速鉄拳コンボ。召喚した銃から放たれた銃弾と『ベクトル』によって移動を同期し、自身を鉄の塊にして相手を殴る。超高火力の大砲を断続的に放っているような物ですから、5000越えという凄まじいスコアが出てそのまま優勝しました。


 他にも『ヒートアップ』と『火炎放射』を併用した超高熱を取り扱う先輩もいましたし、『用心棒』と『インフィナイフ』で2人がかりで切り刻むやり方もなかなか高いスコアを出していました。


 能力の組み合わせがバラバラなだけに、皆さん得意なシチュエーションは違っているようで、1対1、複数対複数の模擬戦、タイムアタック、スコアアタック、あるいは筆記テストと様々な尺度で日々私達は競っています。競争が集団を強くする、と本にも書かれていましたし、組織としては正しい方法なんでしょう。


 ですが、私個人の立場に立ってみると、絶え間ない競争はプレッシャーになり、それが最近は恐怖に変わってきています。


 この日記には毎日練習の進捗を書いて るのでご存知かと思われますが、片手撃ちの練習を始めて50日間で、私は1歩も前に進んでいません。カリス先輩が容易く出来る事が、たったの1秒さえ出来ていないのです。

 

 考えられる原因は複数あります。私達の肉体は初期状態においては同じですが、能力を付与された時点でそこに微妙な変化が現れます。『チャージショット』こそ一致しているものの、カリス先輩と私では他の2つの能力がまるっきり違いま から、その違いが影響を与えている可能性。だとすれば、これまでの私の50日間は全くの無駄ですし、こつこつと努力を続けてもこれから先の2年と9ヶ月間も棒に振る事になります。


 あるいは、単純に私の努力が足りていない可能性。どうやらカリス先輩はこちらの可能性が高いと考えているようです。


「タマル、もっと手に意識を集中して」

「しています」

「私の言葉が聞こえているようじゃ、まだまだ集中なんて出来ていない」


 では先輩の言葉を無視しろとでも言うのですか。そんな言葉が喉元まで出かけましたが、何とか堪えました。ですが、カリス先輩の指導は少し感 的で、頭で理解出来ない範囲が多いのです。


「タマルなら必ず出来る。ヤケにならないで、もっと真剣に、ゆっくりでいいから……。違う。本当にイメ ジ出来てる? 能力を身体の一部だと意識するのは大前提。ほら左腕、まだ力が残ってる」


 手取り足取りのカリス先輩の指導もむなしく、私の手から明後日の方に飛んでいくエネ ギー弾。やがて何の進展も無いまま、また1日が終わりました。


 寮に戻る前、カリス先輩に食堂に誘われました。


「今日はちょっと言い過ぎちゃったね。ごめん」

 カリス先輩がそう言ってコップに入った水を持ってきてく ました。喉が渇いていたので、私は受け取ってすぐ一気に飲み干します。

「先輩が謝る事はありません。全て私の不甲斐なさが原因です」

 口ではそう言いましたが、本心ではありませんでした。


 食堂の長イスに2人並んで座り、しばらくの間黙っていました。やがてその沈黙に耐えられなくなったのは私の方です。


「カリス先輩は、何故私なんかを弟子にしたかったのですか?」


 50日前、裏庭の場面を思い出します。最終的には私が申し込みましたが、最初の誘いはカリス 輩からです。練習中、何度も聞く機会はありましたが、いよいよ今日まで私はそれを我慢してきました。

「私なんか、って言い方はあんまり好きじゃないかな」

「先輩の好き嫌いなんて聞いていません」

 反射的に出た言葉。その直後から私の後悔は始まります。


「タマルなら強くなると思った。それじゃ駄目?」

「駄目です。そう思った根拠を教えてもら なければ、そんな期待はただの重荷です」

「……そんな言い方は無いんじゃない?」

「私は……先輩に失望される為に弟子になったのではありません」


 自分の言った を思い出して、こうして書き起こしている間も私の胸は締め付けられています。私は自分が出来な 怒りを、ただ先輩にぶつけているだけでした。分かっていても、止められませ でした。


「お互い、少し冷静になる必要があるみたいね」

 そう言って、カリス先輩は私の前から去りました。


 今日の日記は、書いてる途中で涙がこらえきれず、一部の文字が滲んで消えてしまいました。読み辛くて申し訳ありません。

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