第13話 日々
今日はカリス先輩と一緒にベルム先輩に謝りに行きました。2年生の教室に行った時の私と同様、カリス先輩も3年生の教室を訪れるのはかなり緊張するらしく、道中で何度か深呼吸していました。
「ベルム先輩は優しい人だからありえないと思うけど、万が一キレたらあなただけでも逃げるのよ。私が食い止めて説得するから」
階段を登って3年生のフロアについた時、カリス先輩が私にそう言いましたが、目の前に本人がいるのに気づかなかったのは私達2人両方の失点です。
「そんな風に思われていたなんて、ちょっとショックね」
「ち、違うんです先輩。もしも万が一という事であってですね」
あのカリス先輩が狼狽えています。私は妙におかしくなってしまいました。
「タマルさん、カリスを選んだあなたの選択を尊重するわ。あなたはきっと強くなる。この前のあなたへの褒め言葉は、そのまま受け取ってもらっていいのよ」
落ち着き払うベルム先輩の態度に、これまで積んできた経験値の違いを感じました。
「師弟じゃなくてもアドバイスはしてあげられるから、何かあったら気軽に来なさいね。能力の応用から師弟関係の解消の仕方まで何でも教えてあげるから」
物腰の柔らかさに対しての発言内容の鋭さに、カリス先輩が若干引きつっていました。
「なんてね。冗談よ。タマルさんを頼んだわよカリス。シューティングレースの時はタマルさんに良い所を見せようと少しムキになってしまったけど、あなたならすぐに私の記録を超えられる。頑張ってね」
そうして、ベルム先輩は私達2人の前から去って行きました。
「なんだか底知れない人ですね」
私が感想を述べると、カリス先輩も同意して、「心から味方で良かったと思うわ」と付け加えました。
今日の訓練はそれぞれのメニューを行う個人訓練だったので、カリス先輩と一緒に行いました。もちろんテーマは『チャージショット』の片手撃ち。カリス先輩から手取り足取り教えてもらいます。
身体を使った訓練で得たコツを言葉にするのはなかなか難しいのですが、カリス先輩いわく能力の応用は「イメージが出来ているかどうか」にかかっているらしいです。
片手撃ちにおいて必要なイメージとは、エネルギーを片手に留める事。本来なら両手で空間を覆って、ただ能力の発動を念じるだけですが、片手撃ちの場合はそれに加えて存在しない3本目の手を正確にイメージする必要があります。
第1段階として、左腕から完全に力を抜き、エネルギーを溜める方の右手にのみ意識を集中させます。そして左腕を全く動かさないまま、架空の手で右手の上を覆い、能力を発動させて、数を数えます。
いー……。
エネルギーが飛んで行きました。これが今の私の実力です。1秒にも満たないチャージ時間での威力は、ほんとに軽く頬を叩くくらいの物ですから、何の役にも立ちません。
「そんなに落ち込まないでタマル。私も最初はそうだった。少しずつ少しずつ伸ばしていけばいい」
「本当ですか?」
「ええ、そんなもんよ。基本能力と違って、応用能力の取得が難しいのは当たり前の事。固定化に必要な3年は、外の世界では長すぎるけど私達にとっては短すぎる」
「1つ聞いてもいいですか?」
「遠慮なくどうぞ」
「3年間努力しても報われない事ってあるんですか?」
カリス先輩は私の顔を見たまま、にこっと笑って黙ってしまいました。どうやらあり得るようです。
そんな風に会話をしながらでも、延々と片手でチャージするカリス先輩を見ていると、どんどん自信が無くなっていきます。いや、こんなネガティブになったって仕方のない事は頭で分かっているんです。諦める訳にはいきませんし、努力をしない理由にもなりません。だけどここは私の日記ですから、少しくらいは弱音を吐かせて下さい。
結局、今日は何の進展も無いまま訓練は終わってしまいました。
お風呂では相変わらずユウヒが私の身体を狙っているので、毎回ミカゲが私とユウヒの間に座ってくれるようになりました。
……。
……。
60日目
この前の筆記テストの結果が出ました。
現国、地理、化学、能力応用、状況判断の5教科で、500点満点中462点でした。順位で言うと、1年生40人中で10位です。私としては良い方だと思うんですが、ユウヒが1位を取ってドヤ顔しているのと見るとやはりくやしい気持ちになります。
ここ数日日記にも書いている通り、個人訓練のある時はカリス先輩につきっきりで指導してもらっているんですが、やはり成長はありません。
自分の不甲斐なさに言い訳する訳ではありませんが、そもそもカリス先輩の片手撃ちと移動溜め自体がやはり凄い事なんです。聞けば、3年生にも『チャージショット』を使える人はいるらしいですが、出来ない方が普通との事です。だから私は悪くありません。
……なんて開き直っても状況は良くなりませんよね。頑張ります。
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