第3話 くやしい
24日目
今日は初めて2対2での模擬戦が行われました。
先生が決めた私の相手はユウヒでした。仲が良いからといって手を抜いたら罰を与え、勝った方にはご褒美があると言われたので本気で戦いました。
私がコンビを組んだのは同室のサトラです。ユウヒがコンビを組んでいるのも同室の子で、持っている能力はサトラと同じ『空中浮遊』+『ヒール』+『劣化分身』です。チームとしての継戦能力を維持する為に偵察と回復と増援は必要不可欠な要素だそうで、この3つの能力はいくらあっても無駄にならないらしいです。
模擬戦が始まり、先に仕掛けてきたのはユウヒの方でした。
ユウヒの発動。
C-01-M『ジャンプ』
高速で跳躍する。
ユウヒの発動
A-05-T『インプラント』
触れた部位に植物の種を植え込む。植物は成長する。
ユウヒの発動
H-19-S『アンタッチャブル』
合計5秒間、触れられない状態になる。
この3つの組み合わせは、ユウヒが名付けた「エイジサマ・スペシャル」という必殺技で、前に1対1で戦った時も私はこの技に負けました。その仕組みをメンターの為に説明します。
まず最初に発動した『ジャンプ』によって一気に距離を詰めます。そして相手に触れた瞬間に『インプラント』を発動して種を植え、『アンタッチャブル』によって透過して『ジャンプ』の勢いを利用してそのまま反対側に逃げるという物です。
この必殺技の恐ろしい所は、回避手段も迎撃手段もほとんど無いという事です。例えば盾になる物を用意して触れられないように抗っても『アンタッチャブル』ですり抜けられますし、『インプラント』発動後に反撃を行おうとしても同じくです。『アンタッチャブル』は解除も再発動も割と自由なので、ユウヒが自在にタイミングをコントロールします。こちらの身体を透過した後、離れ際に『インプラント』を残しておく事も出来ますし、それをブラフに『アンタッチャブル』を発動せずただ単に体当たりを仕掛ける事も出来ます。
流石は必殺技という感じでうらやましいです。私にはそういうのがありません。私にはそういうのが無いです。メンター? 読んでますか? 私にはそういうのが無いんですけど。
とにかく、今日の2対2でもユウヒは見事に必殺技を決めました。私もなんとか『チャージショット』を使って迎撃を試みようとしましたが、以前それで失敗したのでやめました。
1度植えつけられた『インプラント』は、見る見るうちに成長していきます。そしてこれは怪我でも傷でもないので『ヒール』によっては癒せません。1分で栄養失調によってほとんど動けなくなりますから、時間が残されていません。
それでも私は頑張りました。まずはユウヒ側の子が召喚した『劣化分身』を『チャージショット』で倒して、数の有利で戦闘エリアの端まで追い詰めました。『アンタッチャブル』も、1日合計5秒までしか発動出来ないという弱点がありますから、全てを使い切らせてから私の『チャージショット』でトドメを刺そうとしたんです。
でも駄目でした。『チャージショット』は威力を溜めるのに時間がかかります。中途半端な威力だと『ヒール』によって回復されてしまいますし、ユウヒは同室の子を盾にしてこちらの『フリーズ』も警戒していたので、打つ手がありませんでした。
ユウヒが2度目の『ジャンプ』を発動させて、包囲を突破した所で模擬戦は終わりました。
模擬戦が終われば身体の異常はリセットされましたが、負けたくやしさは消えませんでした。私は逃げるように自分の部屋に戻り、この日記を書いています。今はメンターが前に言っていたスイーツビュッフェというお祭りにとても行きたいです。お店の方には申し訳ないですが潰させて頂きます。
部屋に戻ってきたサトラが無言で私の頭を撫でてくれています。昨日は同じ能力を持った先輩に何も出来ずに負け、今日は同級生の友達に同じく何も出来ずに負けました。
私はとても弱いです。
25日目
朝、教室に行くとユウヒが黒ブチのメガネをかけていました。昨日の模擬戦でのご褒美で、いくつかの装飾品の中からこれを選んだそうです。メガネと言ってもレンズは入っておらず、視力を上げる効果ももちろんありませんが、これも学園長の特製アイテムで、身体の一部として機能するそうです。
ユウヒはメガネの横の部分を持ってクイっとやるのが気に入ったようで、何か言う度にクイクイやってました。昨日は負けてくやしかったですが、今日はその仕草がかわいいと思ってしまってそれはそれでくやしかったです。
昨日勝った子達は、みんな新しい装飾品を手に入れていました。かわいい花の髪留めとか、小指に嵌める小さな指輪とか、柄のネクタイとか色々ありました。こうしてどんどん見た目が分かれていくんだなと思うと同時に、次の模擬戦では何としてでも勝たなくてはならないと決意を新たにしました。
その為にはひたすら訓練です。咄嗟の能力発動。判断力。新たな戦略。どの部分を取ってもまだ私には努力の余地があり、実力が全然足りません。どこから手をつけていいのか悩むくらいです。
メンターの下にいた時は全く抱かなかった感情なので、正直私も驚いています。
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