第2話 学園

21日目

 今日は授業の話をします。

 午前中は前にも書いたように机に座って先生から色んな事を教わります。先生は前に裏の世界で戦っていた人で、今は引退して私達に教えるのを仕事にしています。1年生、2年生、3年生にそれぞれ1人ずつついているので合わせて3人いて、これに学園長が加わるので合計4人の大人が学園にはいます。


 実戦経験があるだけに、質問には何でも的確に答えてくれます。ただ厳しい面もあって、今日は授業中に居眠りしていた生徒を見つけて手から『清水』を発動させて水責めにしていました。

 でも私達生徒は、授業中に能力を発動させてはいけません。校舎内で生徒同士の喧嘩や試合も禁止です。能力を発動していいのは、午後の模擬戦訓練からです。


 午後になると1年生から3年生まで全員が体育館に集まって、ペアを組んで戦います。1年生と2年生と3年生では当然実力差があるので、同学年同士で、出来るだけ戦った事の無い人を相手に戦うように指示されています。専用の体操着に着替えた状態で、体育館の中ならば死ぬ事はありません。これは、学園長が用意したアイテムだからだそうです。


 私はメンターからもらった『フリーズ』+『チャージショット』+『スライド』でほとんど負け無しです。特にやっぱりPVDO出身の子は戦いに慣れていなくて、かわいそうだなと思いますが、真剣にやらないと私も怒られるのでやります。怒られるのは嫌です。

 1組が戦っている間は、他の組は周りで体育座りして見学しているんですが、たまに上級生が見にくる事があります。


 私達は年齢が上になる程見た目が個性的です。私達1年生はほとんど同じ見た目なのに、上級生は髪型もみんな違うし、背丈もバラバラで、顔つきも個性があります。先生から聞いた話によると、付与された能力と何が好きで何が嫌いかによって私達の成長の仕方は大きく変わり、卒業する時には全然違う人になってしまうのだそうです。私は私がどんな風に成長するのかが楽しみです。


22日目

 今日は特に変わった事が無かったので、前の事を思い出しながら書きます。

 ここに来てすぐ、教壇に立った先生は皆に向かってこう言いました。


「3年後卒業するまでに、あなた達は誰に忠誠を誓うかを決めなければならない。1つはPVDOそれ自体。もう1つは学園で時間を共にした友人。最後の1つはここに来る前世話になったメンター。私達は自分の為だけに戦う事は出来ない。何かに忠誠を誓わなければ戦う意味が無い」


 戦う意味、と言われて私はそれを疑問に思いました。今までも私は他の子と戦って来ましたが、そこに意味は求めませんでした。ただメンターに選ばれた能力を使って、言われた通りに動き、想定していなかった戦況になればその都度勝利の為に戦う。その繰り返しに対して意味なんて求めてません。だからこれからも同じ事だと思っていたのですが、先生によればそれは違うそうです。


「多分『裏の世界』で戦う時は、その場その場で適切な判断をしなければならないでしょうから、何の為に戦っているのか分からないとなるとそれが出来なくなるのではないですか?」


 と、ユウヒは言っていましたが、よく分かりません。それなら、誰に忠誠を誓うでもなく、ただ死にたくないから戦うというのでは駄目なのかな、と思いました。ユウヒは「私はメンターのお世話になりましたので、その恩返しに戦いたいと思います」と言っていました。

 言われてみれば私もお世話にはなったな、と思いました。


23日目

 今日は1日を使って全学年での合同訓練でした。

 同じ能力を持った1年生と2年生がグループを組んで、同じ能力を持った3年生が指導してくれます。私は『フリーズ』の組に入って先輩から指導を受けました。『フリーズ』を担当した3年生の名前はベルムさんと言って、とてもおしとやかな方でした。ずっと目を細めて微笑み、口調も柔らかくて教え方がすごく丁寧でした。


 『フリーズ』は1分に1度しか発動出来ません。それは学園でも裏の世界でも同じ事で、重要なのは使うタイミングだそうです。ここぞという所で使わず、どうでもいい所で消費して後で困るというのが『フリーズ』の使い手としては最悪で、いかに正確に全体の戦況を判断出来ているかが肝心だと仰っていました。


 確かに、試合だとトドメを刺す時かトドメを刺されそうな時のどちらかで発動するだけですが、チーム戦かつ連戦となると話は変わってきます。『フリーズ』は発動自体に工夫がいらないだけに、基礎的な力が試されるそうです。

 あと体術の最中に織り交ぜて発動し、有効な1撃を加える方法があるそうなのですが、これも基礎訓練と実戦経験が物を言う世界だそうです。


 ベルムさんがその技を披露してくれると言うので、私が相手として立候補しました。『フリーズ』以外の能力は使用禁止で、先に相手を参ったと言わせた方が勝ちというルールの格闘戦。私も試合で何度か『フリーズ』を使ってきましたし、同級生には勝ち越してきたので自信があったのですが、5秒もかからずにあっさり関節を決められてギブアップしてしまいました。その後、他の子が挑んでもベルムさんには1度も勝てませんでした。


 何をされたかも分からないくらいの早業で、1年生と3年生でここまでの実力差があるのかとくやしくなりました。

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