4月11日「口撃」

 対峙するのはそれぞれ赤と青の戦闘用スーツに身を包んだ少女。赤の方は「アタエ」、青の方は「キコ」という名をそれぞれメンターから与えられている。

 

 アタエの発動。

 A-29-O『トーチャー』

 対戦相手の身体の部位2つを指定し、15秒後にどちらかを破壊する。


 指定するのは右手と心臓。これによってキコは15秒後にどちらかを失う事が確定する。


 キコの発動。

 A-03-I『ピースメーカー』

 拳銃を召喚する。


 召喚された拳銃は旧式の物。これ単品では命中精度に難があり、連射も出来ない為当てる事が難しい。だが、キコは最初から単純に撃ち殺す事は狙っていない。


 キコの発動。

 H-11-F『四次元口』

 口の中に入る物ならば、何でも無限に蓄積出来る。


 サイズに限界こそあるが、それ以外の制限はこの能力には無い。つまり、空気だろうが水だろうが生物だろうが何でも体内の四次元空間に保管する事が出来る。例えそれが発射された弾丸だろうが。


 キコは銃口を咥え、躊躇無く引き金を引いた。撃鉄をすぐに起こし、続けざまに2発。これでキコの体内には、「速度を持った弾丸」が合計3発保存されており、それはキコの好きなタイミングで口から取り出す事が出来る。擬似的な二丁拳銃の完成だ。


 一方でアタエもこの間に準備を完了させていた。大きく息を吸い込み、そして口を開ける。


 アタエの発動。

 H-07-F『スクリーム』

 口から大声を出し、相手の耳を通して脳にダメ-ジを与える。


 この能力を発動している間は、声を出している為当然呼吸が出来なくなる。あらかじめ深呼吸しておく事によって、発動時間を延ばす事が可能になる。

 あまりに大きく、脳を揺さぶるような怪音に、キコは思わず銃を持った手も使って両耳を塞ぐ。少しはマシになったが、これによってアタエが先に『トーチャー』を発動させた狙いが明らかになった。あと数秒の内にキコは右腕か命を失う。それはこの音の攻撃から逃れられなくなる事を意味していた。キコの息が荒くなる。


 どちらも最初の位置から動いていない。アタエにとってみれば近づけばやはり二丁拳銃は怖く、離れれば『スクリーム』の影響力が弱まる。キコにとってはその事情がそっくりそのまま反対に機能する。


 『トーチャー』1回目の発動が完了するまであと3秒。その時、キコが覚悟したように耳から手を離し、銃を左手に持ち替えた。そして『トーチャー』によって指定された右手に向かって、口から銃弾を2発撃ち込んだ。


 血を噴出しながら破壊されるキコの右手。悲痛な声が上がり、更に呼吸が早くなったがこれによって『トーチャー』の回避条件は満たした。それだけではなく更に、キコはもう1つ必要な物を手に入れた。


 自身の手から出て、床に転がった2発の銃弾を拾い、自分の耳の中に入れるキコ。弾丸はまだ熱を持っており火傷による痛みはあるが、死よりはマシだった。そしてこれで左手は自由になった。アタエが『トーチャー』を再発動させる。次の対象は心臓と右脚。今度は移動手段を奪うのが目的なようだ。


 弾丸という耳栓を得たキコがアタエとの距離を詰める。次の発動までに仕留めるつもりのようだ。一方でアタエは距離を取る。耳栓をされているとはいえ、スクリームの影響は少なからずある。時間さえ稼げれば『トーチャー』だけでも十分にトドメを刺す事は可能だ。


 2人の距離は5m。アタエが壁まで追い詰められた。『トーチャー』2回目の発動完了まではあと5秒。ここから仕掛けたのはキコ。


 左手に持った拳銃と、口から発射する最後の1発で、同時にアタエを狙う。5mというのは本来なら2発とも当たってもおかしくはない距離ではあるが、『スクリーム』によって蓄積されたダメージはキコの平衡感覚を確実に損なわせ、1発は外れる。そしてもう1発は、


 アタエの発動。

 C-22-M『スライド』

 一定速度で地面との平行移動が出来る。


 急加速により回避される。『トーチャー』まで残り2秒。キコは渾身の一発が外れた事を理解し、瞬時に撃鉄を起こすと自身の右脚を撃ちぬいた。だがそれと同時に、最後の能力を使ってでもアタエとの距離を詰める。


 キコの発動。

 C-10-B『限定強化』

 これ以外の能力が封印状態の時のみ、身体能力を強化する。


 左脚で強く踏み込み、アタエを追撃する。残された銃弾は1発。これを外せば後は無い。

 だが、それはアタエも分かっている。

 距離を取ってきたアタエがここに来て自ら前に踏み込んだ。踏み込んだといっても『スライド』による移動なので足は動いていないが、それでもアタエの急な切り返しに傷を負ったキコは対応出来ない。距離が近づけばより『スクリーム』の威力は上がり、何よりアタエは両手をフルに使ってキコの左手を封じる事が出来る。右手と右脚は破壊した。あと自由になるのは左脚のみ。いや、もう1箇所自由な部位があった。


 キコとアタエの唇が重なった。予想外のマウストゥーマウス。口を塞がれた事によって『スクリーム』の発動が途絶える。そして次の瞬間、アタエの意識が切れた。


 キコはこの試合開始時から、『四次元口』を1つの目的の為に発動させ続けていた。空気を口の中に取り込み、そこから二酸化炭素のみを体内に集める。時間は少しかかるが、それをいっぺんに吐き出せば濃度100%の毒ガスが出来上がる。戦闘中、終始キコの息が荒かったのはこの為だ。


 アタエの死因と敗因は二酸化炭素中毒。2人のキスは始まりではなく終わりの合図だった。


 かろうじて立ち上がったキコの耳と目からは血が流れている。アタエの死体を見下ろし、拳銃を持った左手で口を拭った。


 決着。

 キコの勝利。




 参加メンター様

 アタエ側 滝杉こげお様

 キコ側 岩道節羅様


 感想。

 1週間ぶりだったこともあり量多めになりました。今回も両者クセのある能力を使っての逆転劇という感じでしたね。『スクリーム』と『四次元口』両方H-F系の口を使う対決で、最後に2人は幸せなキスをして終了というなかなかドラマのある幕引きだったと思います。

 ただ、『四次元口』の活用法についてはちょっと悩む所もあり、というのも果たして「空気中から二酸化炭素のみを選別して蓄える」というのが『四次元口』の機能として含まれるのかどうかという点についてです。本来人間が認識出来ない物からある属性を抽出するという能力ではない為、どうなんだろうなという感じです。ただ、今回は頂いたアイデアとして面白かったのでアリにしました。その内能力の調整等もやっていくつもりなので、もしかすると使えなくなる可能性はあります。

 ご参加ありがとうございました。またよろしくお願いします。

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