第57話 二択
『フリーズ』+『チャージショット』+『スライド』
これが第1候補だ。以前に試合でも使った事があるので、タマルにとっても馴染み深いはず。あれだけ『チャージショット』の被りに文句を言いまくっていたが、溜めれば溜める程威力が増す遠距離攻撃というのは何だかんだで便利だと思う。
本部に行った時の映像でも見た通り、裏の世界での戦いは基本的にチーム戦になる。となると、タマルを生き残らせるには後方からの攻撃を担当させるのが1番得策だと思う。更に『スライド』による移動と『フリーズ』での緊急回避も用意してしておけば、例えチームが全滅しそうになっても何とか1人だけは逃げられるんじゃないか。
生き残り云々だけで言えば、死んでも1度だけ復活出来る『リバイブ』や壁から壁に逃げられる『ウォールダイブ』あたりがかなり有力な候補なのだが、『リバイブ』の場合逃げる方法が無い状態で死ぬと意味が無いし、『ウォールダイブ』の場合は壁が無い所で戦った場合にまずい。
1度死んだら終わりな以上、今までの格闘アクション的な考えは捨てて、ローグライク的な考え方に切り替えた方が良い。それも踏まえた上で『フリーズ』+『スライド』は汎用性が高く、『チャージショット』で役割もある。
『ヴァンパリズム』+『斬波刀』+『限定強化』
これが第2候補だ。今まで1つも持っていない能力なので、1つ1つ説明していこう。
まず『ヴァンパリズム』は血を飲み込む事によってCORE系の能力にバフをかけられる能力だ。
裏の世界での戦いがチーム戦である以上、血の入手は容易い。チームメイトから血を分けてもらえばいいだけだからだ。能力解説によれば、発動は4回までという制限があるが、それでもCORE系が強くなるのは素晴らしい。特に一緒に選ぶ『限定強化』はリスクが少ない代わりに強化具合がいまいちな所があり、それを補う事も出来る。
そして武器として持つのはやはり『斬波刀』。遠距離近距離両方に対応出来て、更にCーB系との相性も良い。結局試合をしていた時は1回も手に入らなかったが、ずっと前からこの組み合わせは強いと俺は考えていた。能力を好きに選んでいいのなら、やってみたい。
後者の組み合わせは、前者とは違って敵を倒す事にほとんど特化している。管理人エフの話が正しいならば、敵となる『覚醒者』を倒さなければこっちの世界に戻っては来れない。ならば、敵を倒せる力をタマルに与えたいと考えるのは自然な事だ。
なんとかこの2つまで候補は絞ったが、そのどちらにするかを俺は決めかねている。そうこうしている内にも日付は進み、サキちゃんの新しいメンターとしての仕事を勝ったり負けたりでこなしつつ、タマルが出発する日がやって来てしまった。
その日、俺はまずサロンに行った。浅見先輩から呼び出しがあったからだ。
「ユウヒも学園に行かせる。あらかじめ言っておいた方がいいと思ってな」
橋本が終わってから、俺も自然とサロンに通う回数は少なくなっていった。だから浅見先輩とは3日ぶりくらいに会ったのだが、前よりも少し丸くなったような印象を受けた。
「Bを選んだんですね」
いつか浅見先輩に話された事の意味が今の俺には分かっていた。
「ああ。橋本で駄目だったんだ。俺だっていつメンターとしての資格を失うか分からない。それにユウヒの方から俺達の為に戦いたいと言ってきた。俺は反対したが駄目だった」
結局タマルと一緒だ。遅かれ早かれ少女達が誰かの為に戦う事を選ぶのはエフの想定通りという訳だ。強制的に徴集せずに、危機感を煽りつつも自主性に任せるのが本当にいやらしい。自ら選んだ道は逆走したくないと考えるのが人間だからだ。
「でも、とりあえず3年はタマルもユウヒちゃんも無事が確保出来ると考えればそんなに悪く無いかもしれないですよ」
もう決まってしまった以上、俺もプラス思考を心がけるようにした。
「3年? 何言ってんだ。1ヶ月だろ」
「え?」
「学園に通うのは1ヶ月だと聞いてるが」
冗談を言っている感じではない。
何かがおかしい。橋本情報でもエフ情報でも能力の固定化には3年がかかるというのは確定している事実だ。そして裏の世界においては、注射器によって能力の付与が出来ない。だからまず学園とやらに3年間通って、そこでチームでの戦闘を訓練しつつ能力を固定化する。そういう話だったはずだ。
「3年もかかってたら戦いが終わるだろ」
「それは分からないじゃないですか。むしろ1ヶ月じゃ全然足りませんよ」
「そこはなんかお前覚醒者様の能力でパパっと出来るんじゃねえのか」
「そんな事が出来るんだったら1ヶ月すらいらないじゃないですか」
食い違った会話を続けても答えは出ない。俺は3年と聞いたし、浅見先輩は1ヶ月と聞いている。どちらかが間違っているのか、あるいは両方間違っているのか。
そして俺はエフに呼び出され、再び本部に来た。
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