第51話 少女達?

 少女達の成長具合にはそれぞれ差があるが、おおよそ高校生くらいの年齢に見える。普段の試合時は赤と青の2色しかないので、スクリーンに映る4人全員が黒の戦闘用スーツを着ているのに違和感を覚える。肩や腰のあたりに飾りのような物があったり、大きめのブーツを履いていたりと個性的だ。タマルをそのまま成長させたように凛とした表情の子もいれば、少し口角を緩めながらリラックスしている子もいて、落ち着きなく辺りを見回している子もいる。


 その内の1人の前に突然日本刀が現れ、その子は当然のようにそれを握る。俺の目に狂いが無ければ、それは紛れもなく『斬波刀』だった。


「エリカ、真ん中を狙って」

「あいよー」

「チヒロとサクヤは各個撃破の準備。一気にカタをつけるよ」


 刀を持った少女が他の3人に指示を出している。声もタマル達に似ているが微妙に違う。エリカと呼ばれた少女が手の平から火の玉を放出した。その大きさや軌道も見覚えがある。A-R系能力『ファイアーボール』だ。


 放たれた火炎弾は、指示通り謎の生物達の群れのちょうど中心部に命中した。跳弾して他の個体にも命中している。その性質も丸っきり『ファイアーボール』と一致している。命中した生物は活動を停止し、跳ねたのが当たった奴にもダメージがあった。生物は大きめの馬くらいのサイズをしているが、見た目よりも耐久度は無いらしい。


 攻撃を受けた生物達が3方向に別れた。正面に6、7体、左右にそれぞれ2体、いや3体ずつ。俺の目が展開に追いついていなくて申し訳ないが、少女も謎生物の動きに合わせて分かれてしまって追うのが更に難しくなった。


 エリカと呼ばれた少女と、残りの2人が左右に別れた。1番数の多い集団は、刀を持ったリーダー格の少女が受け持つようだ。『斬波刀』を構えて、待ち構えている。


 すると、謎生物の内の1匹が口を開けた。その中から、今度は氷の塊が飛び出す。これまた俺の見間違いで無ければ、『雹弾』と同じ大きさ、スピードを持っている。


 少女達が能力を使えるのはまだ分かる。明らかに成長しているが、使っている能力自体は俺にも馴染みの深い物だからだ。チームを組んで戦っているというのも、なんとなく飲み込めてきた。だが明らかに少女達と敵対しているモンスターみたいな奴まで能力を使い出すのは俺の理解を超えている。


「チヒロ!」

「分かってるって」


 別れた2人の内の1人が手をかざした。すると、謎生物から放たれた『雹弾』が突然に軌道を変えて明後日の方向に飛んでいった。これも俺の知識が正しければ、A-O系能力『方向転換』の効果だ。


 そして刀を持った少女が躊躇なく切り込んでいた。その俊敏な動きは明らかに強化された肉体によって行使されている。『アミニット』いや『限定強化』か? 試合の時と違って発動した能力が表示されていないのですぐに分からないのだが、刀を振るう腕もただ肉体が強化されているのとはちょっと違って、より無駄がない。ここでも「成長」を感じさせる。息つく暇なく『斬波刀』は生物を切り刻んでいく。


 エリカと呼ばれた少女も『ファイアーボール』を再発動させて殲滅している。空を飛びながらなのでこれは『空中浮遊』だ。2人組のチヒロじゃない方、確かサクと呼ばれていたか。その前にいる生物が自重で動けなくなっている。『グラヴィジョン』か『へヴィーウェイト』のどっちか。ごめんちゃんと見てなかった。スクリーンには複数のカメラで撮った色んな角度からの映像が同時に映されているので、全然把握出来ない。俺にもなんか映像を見るための能力をくれって感じだ。


 とにかく戦況としては、15体ほどの謎生物が4人の少女によって制圧されているようだった。気付くと俺は席から立って、首を伸ばしながら食い入るように映像を観ていた。


「ごめんエリカ、1匹取り逃がした」

「あいよー」


 それと同時に瞬間移動するエリカ。逃げた奴の真後ろに現れた所を見るに今のは『バックワーズ』だ。真後ろからの『ファイアーボール』で逃げた1匹も派手にやられていた。


「みんな、怪我はない?」

「はい! お疲れ様ですサリ先輩」

「ちかれた」


 刀を持った少女は周囲を警戒しながら3人を集める。

 そこで映像はぷつりと終わった。



 黒くなったスクリーンの前でふと我に返った俺を、隣に座っていた「案内人」エルさんがくすくす笑っているのに気づいた。もう遅いかもしれないが、俺は平静を取り繕いながら、尋ねる。

「えっと、今のは……?」

「うふふ、戦ってましたね」

 それは分かってる。機械なのか動物なのかもよく分からないモンスターと少女達が、誰もいない渋谷で戦っていた。もちろん、こんな映像はYoutubeのPVDOチャンネルにも上がった事はない。唯一馴染みがあるのは使っていた能力だけだ。見た目で分かる奴はすぐに分かった。問題は敵側も同じ物を使っていたって事だが。


「なんで戦っているんだと思います?」

 エルさんの質問。一瞬、本当に俺に訊いてんのか? と疑ってしまったが、この場所には俺以外に混乱している奴はいない。「分かりません」と答えるのがまず正解だが、心当たりがなくもなかった。


「世界を……救う為?」

 以前、本部から戻ってきた浅見先輩がそんな事を言っていたのを思い出したのだ。エルさんはその豊満な胸の前で小さく拍手して、「正解です」と明るく答えた。嬉しいけど嬉しくない。


「今見た映像の中に現れた謎の生き物がいたでしょう? 私達はあれの事を『ジーズ』と呼んでいます」

 ジーズ。寿司の業界用語みたいなもんか? あるいはかわいい犬か。阪神の助っ人外国人か。

「ご覧になった通り、『ジーズ』の中には能力を持った個体がいます。先程のは『雹弾』を使っていましたね」

 先程のはって事は他にもいるって事だ。

「ちょっと聞きたいんですけどいいですか?」

「どうぞ」

「あの、今戦っていた場所は一体どこですか?」

「渋谷ですね。裏の」

 裏!? 渋谷に裏とかあんのか? 原宿にはあると聞いた事があるけど、渋谷にもあったのか。

「正確には、この世界を模して作られたもう1つの世界における渋谷です。だから彼女達以外に人は誰もいませんでしたよね」

 確かにそうだ。いつも人でごった返してる場所とは思えないほど閑散としていた。だが、ここでもう1つの疑問が生じる。


「その『ジーズ』とやら裏にいるなら放っておいたらいいのでは?」


 これは俺にしてはなかなか鋭い指摘だった。裏だか表だか間だか分からないが、現実世界に来ないなら放っておけばいい。それこそ試合で使っている戦闘エリアみたいなもんで、こっちに影響が無いなら戦う理由がない。


「来ますよ」

「え?」

 エルさんは俺の考えを正確に読み取っているようだった。

「放っておけば、『ジーズ』達はこちらの世界に侵攻してきます。だから少女達は戦っているのです。あなた達の為に」

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