第50話 ある映像

 スカートから覗くふとももは、ややむちっとしていて、普段見ている細くてスラッとした感じとは明らかに違う。背も伸びて、これまではお互いに立った状態だとタマルが俺をやや見上げる形だったのが、今は自然に目が合っている。服が戦闘用スーツではなくて事務員の制服のような物を着ているので、それのせいも多少はあるんだろうが、それだけでは説明出来ない程、余りに本人の見た目が違い過ぎる。そして何より……。


 おっぱいがある。


 これはタマルの前では決して口に出さなかったし、なるべく考えないようにしていたが、タマルの胸囲は正直絶望的だ。もちろん、年齢で言えば中学生くらいなのだろうし、これから成長する可能性は高く、そもそもバトルをするのに胸に重りをつけて戦うのは邪魔以外の何物でもない。だから気にする事はないと思っていたが、目の前の少女、いや、女性は明らかにタマルに無い分量がある。


 顔だってそうだ。タマルはこんな風ににこっと笑わない。サロンで会ったサキちゃんやルカちゃんやユウヒちゃんもタマルとはちょっと表情が違ったが、今俺の目の前にいるのはその「同じ顔での微妙な違い」の範囲を超えて、「別の人物が似た顔をしている」の領域に踏み込んでいる。ついでに言えば髪型と色も違う。少女達は全員黒髪ショートだったが、この人は栗色のウェーブがかったロングだ。全然違う。


 それでも顔は本当に似ている。というかやはり、「成長した」としか表現出来ない程に見た目は近い。


「うふふ、誰でも驚きますけど、そんな素っ頓狂な顔で何度も胸を見られたのは初めてです。まあそれが楽しみでこうして出迎えているんですけど」


 そう言いながら、口に手をあてて笑っている。最近異性と言えばタマルか雨宮先輩としか喋ってなかったので、その圧倒的包容力を持った姉みに圧される。


「す、すみません。あなたは誰なんですか?」


「あら、自己紹介がまだでしたね。私は『案内人』エル。空間を司る次元の橋渡しです」

 次元がどうたらとかは全く頭に入ってこなかったが、「案内人」という単語には聞き覚えがあった。真嶋の言っていた、「管理人」「職人」「案内人」の内の1人だ。


「あの、あなたはタマル達とは違うんですか?」

「タマル……? ああ、少女達の事ですね。違うと言えば嘘ですが、同じだと言っても嘘になるかも?」


 今度は顎に人差し指をあてて、困ったように小首を傾げてる。なんだこの人。いやかわいいけどさ、タマルが今まで頑張って築いてきたクールなイメージをガンガンぶっ壊してくるぞ。


「まあまあ、立ち話もなんですから、中に入って下さいな。見せたい物もありますし」


 そう言われ、俺は服の袖を掴まれ引きずられるように中に入った。腕に柔らかい物が当たっているがそれがわざとなのかは分からない。ただ指摘して離されても俺が損をするだけだ。


 案内人エルと名乗る謎の女性に案内されたのは小型のシアターだった。途中、歴史あるホテルのロビーのような場所を通り、木製のエレベーターを使って、ふかふかのカーペットが敷き詰められた廊下も歩いたが、他の人間に会う事は無かった。シアターは、普通の映画館より席と席が離れていて席数が少なく、大金持ちが自分の屋敷の中に道楽で建てるような奴という印象だ。


 その真ん中に座らされた俺の隣には、美少女から美女へと華麗に成長した女の子。側から見れば羨ましい状況なのかもしれないが、当事者としては恐怖の割合がかなり高い。だって怖いだろ、いきなりこの状況は。


 そしてスクリーンに映し出されたのは、奇妙な映像だった。


 舞台は東京。というか渋谷のスクランブル交差点だ。パッとしないアーティストがよくMV撮っている所。俺は1回くらいしか行った事ないが、テレビで何度も見た事があるのですぐに分かった。太陽は高く上っているから昼間なのだが、人は1人もいない。建物の巨大モニターも電源が落ちているらしく、どこかがおかしい。


 そんな都会のど真ん中に得体の知れない化け物がいる。4足歩行でツルツルの肌。無機物なのか有機物なのかも微妙だが、おそらくは目と思われる2つの穴と人1人なら丸呑み出来そうな口がついている。しかもそれが10……いや15体ほど。交差点を仲良く走りながら横断している。


 何を見せられているんだ?


 そんな疑問を検証する暇もなく、次に現れたのは4人組の少女だった。正確には、今俺の隣に座っている案内人のように、「成長した」少女達だ。戦闘用スーツのデザインが普段俺の目にしている物とは明らかに違う。背丈もまちまちで、髪型も色もバラバラ。何なら目の色まで違う子もいる。顔はやはり似ているのだが、タマルとも案内人とも一緒にいる他の子ともどこか微妙に違っている。


 何を見せられているんだ?


 疑問は膨らみつつも俺はスクリーンから目を離せなくなっていた。それは、俺が家で初めてPVDOの対戦動画を見た時の心境に完全に一致していた。

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