第49話 ランク10

 タマルの発動。

 A-10-R『チャージショット』

 手の中でエネルギー弾を溜め、放出する。


 両手にエネルギー弾を溜めながら相手を真っ直ぐ見据えるタマルの姿。何度見てもその姿は可憐でいて力強い。


 今更ながら正直に言おう。戦う少女達の動画を見たあの日から、俺はPVDOの提供するあらゆる物に夢中になっている。100万渡して黙って消したり、俺の質問をがっつり無視したり、これ本当にランダムかって程偏ったり、理不尽な事に限りはない。だがそれでも、誰かに言われた事をやるだけの空っぽな俺の人生で初めて、自分の意思で戦って勝つ事や、心の底から守ってやりたいと思える存在を与えてくれた事には感謝している。


 タマルの発動。

 C-22-M『スライド』

 一定速度で地面との平行移動が出来る。


 相手の攻撃をかわしながら、タマルは床の上を滑る。目の前の相手と戦うその真剣な表情が不思議で、俺は以前こう尋ねた事がある。


「戦いたくないって思う事は無いか?」

「思いません。戦う事が私の存在価値です」


 躊躇いも迷いもなくそう答えるタマルが不憫で仕方なかった。だから俺は戦う事以外にも価値のある事を教えたくなって、甘い物をあげたり、そとに連れ出したり。それはただのエゴだったのかもしれないが、タマルは「楽しかった」と言ってくれた。


 タマルの発動。

 H-14-V『フリ-ズ』

 視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。


 最後の能力を発動してトドメを刺しに行くタマル。勝利が決まった瞬間、俺はいつも奇妙な達成感に包まれる。別に自分が戦った訳ではなく、戦闘中はずっとモニターを眺めていただけだ。だがそこではタマルが俺の指示通りに戦ってくれたのは紛れもない事実であり、俺が想定していなかった状態になっても上手く対応してくれたタマルにも感謝する。


 そうして俺達は勝ってきた。


 決着。

 タマルの勝利。


 ランク10到達。

 その報告を浅見先輩と雨宮先輩にした時、2人は驚きつつも納得している様子だった。橋本は俺の手を硬く握って、今にも泣きそうな顔で俺の肩をぽんぽんと叩いた。何も言わなかったが、その態度には俺への信頼があった。


 サロン「テセウスの船」のメンバーも、最初は嫌な奴ばかりだと思っていたが、今となってはかけがえのない仲間達だ。一部例外はいるが、俺はこの人達の事を気に入っている。ちょっと臭いけどこの際だから言わせてくれ。例えPVDOが無くなったとしてもまたいつか、どこかのバーであって、一緒に酒を呑んだり思い出話に花を咲かせたりしたいものだ。


 イカつい浅見先輩。ふざけた雨宮先輩。頼りになる橋本。何故か育ちの良いユウヒちゃん。アニメ好きのサキちゃん。ちょっと内気なルカちゃん。そして、タマル。


 みんな、今までありがとう!


 俺達はようやく登り始めたばかりだからな、この果てしなく長いPVDO坂を……!



 ……あ。いや別にこれ最終回じゃないよ。なんかセンチメンタルな気分になり過ぎて一人でそんなモノローグを展開してしまったが、全然これからも続く。というか何も問題が’解決してないし、むしろ本当にこれだからだ。


 ランク10報酬、PVDO本部の鍵。それを受け取った俺は、一体どこでそれを使うべきか悩んだが、浅見先輩によればどこで使っても一緒らしい。勝手にクローゼットとサロンを繋げられた時とは違って、この鍵は出入りして閉じればその扉は元に戻るそうだ。という事は一旦家から出て周りに人がいない事を確認してから本部の鍵で’家に入ればいいという事だ。いや、それでも万が一大家さんに見つかったら敷金が返ってこなくなる。じゃあそれなら、うちのトイレでいいか。


 という事で、俺はトイレの錠にPVDO本部の鍵を刺した。もし浅見先輩の言っている事が嘘で、俺の家からトイレが消失したとしてもせいぜい俺のパンツが汚れるくらいだし、大した問題ではない。


 PVDO本部。ここに来るまで長かった、と言いつつ実際1ヶ月ちょっとしか経ってないし、10勝1敗という成績は本当に自分の成した事なのか我ながら疑わしい。だがとにかく俺は頑張ったし、正しい手段で本部の鍵を手に入れた。


 鍵は明らかにサイズが合っていないにも関わらず、スムーズに差し込まれた。右に回すのにも何の不具合もない。改めて、オーバーテクノロジーというかこの世の物ではない事を実感するが、今更それをどうこう言うつもりもない。


 トイレの扉をくぐると、そこには扉があった。鋼鉄、いやステンレスか? とにかく重そうな扉で、その横にインターホンがある。当然、押す。5、6秒ほどして、扉が開いた。


「ようこそ、PVDOへ」


 そこにはにっこりと笑う少女の姿があった。


 以前は真嶋の連れていた少女がタマルに見えて、しかも全裸だったものだから驚き過ぎてひっくり返りそうになったが、今回の俺はこういう状況も想定していた。何せPVDO本部に行くのだから、そこで別の少女に出迎えられても何ら不思議ではない。


 だが、結局俺はまた驚く羽目になった。何故なら、俺を出迎えた少女が「成長」していたからだ。

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