第48話 最低な奴

 11回戦第3試合のある今日は、昨日とは真逆の状態で人と会う約束をしていた。

場所はいつものサロンで、橋本以外のメンバーが全員揃っている状態。全員、つまりあの真嶋とかいう奴もだ。


「で、わざわざ僕を呼び出した理由は?」


 それが敵意によるものなのか自然な口調なのかは分からないが、真嶋は率直に俺に訊いてきた。ソファーには俺と真嶋が対面して座り、カウンター席に浅見先輩と雨宮先輩がいる。そして真嶋が持ったリードの先にはやはり、おそらく俺が前にも会った少女。今日も服を着ていなくて、ここに来て早々真嶋が命令せずとも四つん這いになった。余りにもよく調教された姿に反吐が出そうだ。


 俺はなるべく少女の方に視線をやらずに、真嶋の事だけを見据えて尋ねた。


「少女を救う方法は何か無いですか?」

「無いな。僕の知る限り」

 ロクに考えもせず答える真嶋。だがそこまでは予想していた事でもある。問題はここから、少しでも有益な情報をこのゲス野郎から引き出せるかどうかだ。


 橋本の頼みを聞いて、俺は真剣に考えた。だが俺には知らない事が多すぎるし、出来ない事はそれよりもっと多い。だがこのランク30の男真嶋なら、俺よりPVDOの事について知っている上、ランク報酬で出来る事も増えているはずだ。だから歯ぎしりで歯茎から血の出るような思いで相談を持ちかけた。


「だからこいつに聞いても無駄だって言っただろうが」

 浅見先輩がこっちを見ずに言った。真嶋はそれを鼻で笑いながら、同じく浅見先輩の方を見ずに言う。

「君達より遥かに事情を知っている僕が無いって言うんだから、いちいち無駄な事を考える手間が省けて良かったじゃないか。むしろ感謝して欲しいんだが?」


 うぜえ……思わず口に出しそうになったが、どうにか堪える。これも橋本とサキちゃんの為だ。


「例えばですけど、少女の管理を担当している人に何かコネクションは無いですか? なんとか生かしてもらえないかと交渉出来るだけでも良いんです」


「少女の管理ねえ」

 真嶋が隣にいる少女の頭の上にポンと手を乗せる。少女はビクッと身体を震わせて、その表情に怯えの色を見せた。

「僕は『管理人』にも『職人』にも『案内人』にも会った事があるが、奴には会った事がない。能力の検証をしている奴だ」

 ちょっと突いたら知らない単語がザクザク出て来た。混乱はするが良い兆候だ。もっと情報を引き出そう。

「その『管理人』とか『職人』とかって言うのは何ですか?」

「君ごときがそれを知る権利を持っているとでも?」

 我慢だ。ぶん殴ってやりたいけど我慢だ。


「というか管理人』はもう知ってるだろ? チャットの向こうにいる奴だよ」

 そうだ、全然管理出来てなかったからそう名乗っていた事すら忘れていたが、確かに俺がPVDOと初めて関わった時から管理人は管理人だ。ちなみに当然だが、既に助ける方法は無いかというのは管理人に尋ねている。もちろん無視されたが。


「だが管理人はあくまでPVDOを管理しているのであって、少女達を管理している訳じゃない。だから助けるのは無理」

 その違いが分からない。上手く言いくるめられた感があって癪に障るがここも我慢だ。


「じゃあその管理人と直接会って、少女達を管理している人物に取り次いでもらう事は可能ですか?」

「そんな事は知らない。自分でやってみたらいい。もうすぐ会えるんだろ?」


 現在、俺のランクは9。もし今日勝つ事が出来れば、ランク10になる。その事は当然真嶋も知っている訳だ。そしてランク10になって手に入るのはPVDO本部の鍵。真嶋の台詞から、少なくともそこに管理人いるという推察が成り立つ。


「正直驚いてる。君はすぐにいなくなると思ったんだがね」

 思った所か前に真嶋と会った時に直接言われた。忘れてるんだろうか。

「まあ、もし今日勝てば一緒に戦う事になるだろうから、よろしく頼むよ」


 は? 一緒に戦う? PVDOに共闘システムなんてあるのか? などと不思議に思っていると、真嶋は隣に居る少女の後ろに手を伸ばした。あんまり見ないようにしていたが、反射的に見てしまった。少女はお尻の穴に何かを入れられているようだった。我慢しているようだが声が漏れている。


「君の所の、タマルって言ったっけ? 多分こいつと一緒になるだろうな」

 こいつ、まだ名前すらもらっていない陵辱され続ける少女の事を指している。

「おい真嶋」

 浅見先輩が振り返って、真嶋の方を向いて言った。

「口止めされてるんじゃないのか?」

 真嶋は眉を上げながら下卑た笑みを浮かべ、少女の後ろにある物を弄んでいる。

「浅見、君と僕とでは格が違うんだが?」


 よし、キレろ。殴れ。もう殺せ。俺は心の底から浅見先輩にそう念じたが、睨むばかりで行動は起こさなかった。チキン野郎が。せっかく珍しく俺が浅見先輩を応援したというのに。などと思いつつ、同じく何も出来ない俺を俯瞰する。


「それじゃ、用は済んだろうし僕はこれで」


 そうして出て行った後、浅見先輩が俺を睨んでた。

「だからあんな奴呼び出しても無駄だって言っただろうが」

 俺は答える。

「あながち無駄でも無かったですよ。とにかく……」

 今日の試合を勝つしかない。

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