3月27日「闇を駆る獣」

 試合開始。


 対峙するのはそれぞれ赤と青の戦闘用スーツに身を包んだ少女。赤の方には名前が無いが、青には「ヒメカ」という名前がある。


 赤の発動。

 H-20-W『ブラックアウト』

 1分間、被験者と召喚された生物は視界を失う。


 両者が同時に視界を失ったが、それとほぼ同時に、


 ヒメカの発動。

 A-29-O『トーチャー』

 対戦相手の身体の部位2つを指定し、15秒後にどちらかを破壊する。


 この能力でヒメカが対象に取ったのは相手の左脚と右脚。これで15秒後にはほぼ確実にどちらかが破壊され、赤の移動はほとんど不可能になる。

 しかしながら、視界を失った今、再度『トーチャー』を発動するには相手を捉える必要がある。2人の位置は初期状態からまだ変わっていない。


 両者が暗闇の中で移動を開始した。赤の脚はとりあえずまだ無事であるし、ヒメカからしてみれば相手を捕まえなければならない。『トーチャー』による拷問を再開するのに相手を捕まえる必要があるヒメカに対して、赤にはこの闇の中でも攻撃出来る手段があった。


 赤の発動。

 C-08-G『番犬』

 戦闘用の犬を召喚する。


 人間には無理でも嗅覚の鋭い犬ならば僅かな匂いを辿って相手を見つける事が出来る。発動から数秒の間が空いて、赤は召喚した『番犬』に「攻撃!」と命令した。


 当然その声はヒメカにも届いている。『ブラックアウト』の効果により、『番犬』の召喚に気づかなかったヒメカだったが、何らかの生き物が自身に向かってくる事は分かった。

 そしてその何かが、確実な殺意を持っている事も。


 光の無い世界で、見えない何かが迫ってくる恐怖。


 ヒメカのすぐ近くまで来た時、鼻息と臭いからヒメカはそれが『番犬』で召喚された犬である事を理解した。


 視界はないが、近くに走って寄ってきた犬の気配くらいは分かる。手探りの状態でも、とにかく迫ってきた脅威は排除しなくてはならない。暗闇の中、ヒメカは反撃の構えを取る。だが、それと同時。


 眩いばかりの閃光と共に、番犬の咥えた爆弾が爆発した。


 赤の発動。

 A-23-I『タイムボム』

 小型の時限爆弾を召喚する。


 この能力は発動時に秒数を設定する必要があり、その長さに応じて火力が変わる。赤が設定した時間は10秒。これならば、自身の足を破壊される前に決着をつけられる。『番犬』の召喚時、すぐに攻撃を命令しなかったのは時間を調整する為だった。


 そして召喚された『番犬』はこの『タイムボム』を咥えさせられていた。

 余りにも至近距離で爆発した結果。ヒメカの身体は『番犬』もろとも木っ端微塵に吹き飛んだ。


 ここで『トーチャー』の発動から15秒が経過する。骨の捻れる嫌な音と共に赤の右脚が破壊される。その痛烈な痛みに赤は思わず呻き声をあげる。だが、それと同時に赤は気付く。


 相手が爆発で吹き飛んだのに、試合が終わっていない。


 底知れぬ闇の中、骨の折れる音、苦しみを漏らす声。


 ヒメカの発動。

 H-13-S『リバイブ』

 1度だけ復活する。


 この能力は、復活した際に自身にかかった能力の影響を全て取り除く。だが、HーW系能力である『ブラックアウト』は復活した生物にも影響を及ぼす為、ヒメカはまだその影響下にあり、視界を失っている。


 それでも、先程赤がたてた2つの音で居場所は分かっている。


 ヒメカの発動。

 C-09-B『アミニット』

 1分間、身体能力を強化する。効果が切れると同時に死亡する。


 暗闇の中で赤は自身に向かって真っ直ぐ迫ってきている存在に気づく。そして爆殺したはずの対戦相手『リバイブ』で復活した事を理解し、防御の姿勢を取った。その瞬間、鞭のようにしなやかな回し蹴りが赤の片腕を砕いた。


 ヒメカは再度『トーチャー』を発動させる。次に対象に取るのは心臓。四肢を破壊するまで数秒もかからないだろう。次の『番犬』も新たな『タイムボム』の爆発も間に合いそうになく、脚も視界もない赤には逃れる手段がない。


 決着。

 ヒメカの勝利。



 参加メンター

 赤側 滝杉こげお様

 ヒメカ側 百足陣三郎様


 感想

 滝杉こげお様から作戦がDMで届いた時、思わず「えげつねえな」と呟いてしまいました。リクエストで「爆弾犬」というワードがあったんですが、演出上のネタバレになるので避けました。申し訳ない。

 今回も非常に面白い組み合わせで、音をたてる要因がなければ赤側が作戦通りに逃げ切れたかなという感じです。

 百足陣三郎様から頂いた作戦はちょっとハマらない部分が多くて、アドリブ多めになってしまいました。PBWを書く上で、どこまで小説としての面白さを求めてどこまでリクエストに答えるかのバランスは非常に難しい所なのでご理解頂けると幸いです。

 良い試合でした。ご参加ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る