3月25日「鉄拳vsドラゴン」

 試合開始。


 対峙するのはそれぞれ赤と青の戦闘用スーツに身を包んだ少女で、お互いに名前は無いようだ。


 開始と同時、青は立て続けに2つの能力を発動する。


 青の発動

 C-28-G『ドラゴンエッグ』

 1分間で孵化するドラゴンの卵を召喚する。


 青の発動

 A-08-T『融合』

 自らの手と、他の生物に触れた部位を結合させる。


 召喚した『ドラゴンエッグ』を手に持ち、一体化する。

 この状態で1分が経過すると、卵が孵化した際に一体化している発動者を巻き込み、発動者自身が巨大なドラゴンに変身する。これは卵の状態からドラゴンに変化する効果で、人間である事が上書きされる為だと考えられている。


 発動者が人としての形を失った状態でも試合は続行するので、このコンボのメリットは対戦相手をドラゴンと強制的に戦わせる所にある。通常の『ドラゴンエッグ』では、ドラゴンを無視して本体を攻めるのが定石となるが、このコンボはその手を封じる。


 無事に変身が出来れば間違いなく青の有利な状況が築かれる。


 赤の発動。

 A-03-I『ピースメーカー』

 拳銃を召喚する。


 距離は保ったまま、銃を構える。だがその構え方は銃を撃つ為の物というよりは、空手のように両手を前後に置き、後ろの手に銃、前の手は握って拳を作っている。銃で狙いをつける時は普通、銃を前にしてより相手に近づけるが、その逆という訳だ。当然握った拳も相手に届くような距離ではない。この奇妙な構え方の理由は、発砲と同時に明らかになる。

 青は銃を見た直後に『ドラゴンエッグ』を抱えるような姿勢で丸くなった。


 銃声が響いた。


 赤の発動。

 C-23-M『ベクトル』

 対象の物と同じ方向、同じ速さで移動する。


 対象は放たれた銃弾。そしてすかさず、


 赤の発動

 H-03-S『鉄人』

 最大1分間、全身が鉄の塊になる。


 銃弾の初速は音速を超える。それを対象に取った『ベクトル』は、通常ならば発動者自身の四肢を粉々に砕き、急加速によるGは一瞬で気絶させるに足る。言わば自爆に近い組み合わせだが、そこを『鉄人』が補完する。発動者が鉄になった時点で『ベクトル』の効果は一旦切れる。だが音の壁を突破した鉄の塊は、その後も慣性が働き、十分な威力となって対戦相手へと向かう。


 ソニックブームが発生。その中心から拳を突き出した鉄の塊が、時速200km程度の速度で真っ直ぐ向かってくる。当然ながらそれに当たれば、生身の人間は即死する。


 青の発動

 H-03-S『鉄人』

 最大1分間、全身が鉄の塊になる。


 奇しくも赤と同じ能力を青も持っていた。鉄の塊同士の衝突。凄まじい大きさの金属音が戦闘エリア中に響き渡り、その後両者がそれぞれ別の方向に弾け飛んだ。ぶつかった赤は天井まで吹っ飛び、ぶつけられた青は背後の壁に激突。お互いの衝突面を見るとはっきり分かる程度に凹んでいる。


 地面に落ちた後、赤は『鉄人』を解除する。鉄になっていたとはいえ、あまりに早い速度と、相手も鉄だったせいで片腕がひしゃげている。銃弾はまだ5発残っているが、同じ事を繰り返せば腕や脚が持つかは分からない。

 対して青は最初から防御する姿勢を取っているおかげもあって肩の部分に多少の歪みは見られるものの、肝心の卵は無事なようだ。ぶつけられる方が固定されてないので、与えられる力が分散してしまっている。


 赤は判断する。これ以上鉄同士の衝突を続けるリスクは高い。銃弾に対して『ベクトル』と『鉄人』を順番に発動する為にはある程度の助走距離が必要であり、離れれば狙いが外れる可能性もある。1分後に相手がドラゴンと化した時、ダメージを負っていれば必然的にこちらがますます不利になる。


 仕方なく赤は歩いて距離を取り、呼吸を整えた。


 撃鉄を起こし、ドラゴンを迎え撃つ構え。


 鱗の防御力がどの程度かによるが、少なくともドラゴンの巨体に対して狙いを外す事はない。銃を構え、ひしゃげた拳で狙いをつける。脚を使うのは姿勢を崩すので狙うのに無理があるし、頭では同じ事が起きた時に致命傷になりかねない。必然的に拳に頼るしかない。


 先程の轟音が嘘のように、両者の間を静寂が流れる。


 試合開始から1分が経過。


 青の『鉄人』が解除。それと同時にドラゴンに変化した肉体が鉄の中から姿をあらわす。本体の身体能力も加算されている為か、通常の『ドラゴンエッグ』で召喚されるドラゴンより一回り大きい。


 青い鱗のドラゴンが咆哮する。

 赤は銃で狙いをつける。

 青が口を開き、炎を吐く。

 赤の手元から銃弾が放たれる。

 青の吐いた炎が地面を広がっていく。


 鉄と化した赤の身体が、真紅の海を真っ直ぐに割って進み、青いドラゴンの身体に命中する。


 青のドラゴンは一際大きな断末魔をあげた後、ゆっくりとその巨体を倒した。抉れた肉の中から『鉄人』を解除した赤が這い出てくる。2度の突撃により腕は折れて千切れ、全身を負傷している。更に僅かな時間とはいえその生身の身体にはGがかかり、眩暈で立っているのがやっとだ。だが、まだ生きている。


 決着。

 赤の勝利。




 参加メンター

 赤側 滝杉こげお様

 青側 Student様


 感想

 鉄人パンチ、もの凄く強力な組み合わせなので、最終的にはドラゴンの装甲を破れる火力はあると想定しました。本体への影響とか避けられるリスクとか色々とありますが、少なくとも1撃の火力面では「最強」に近い組み合わせかなと思います。

 ドラゴン変化は見栄えが凄く良く面白い組み合わせなんですが、いかんせん変身後に打てる手が限られていますね。ただ作中でも書きましたが、普通に『ドラゴンエッグ』を使っても本体を狙われるだけなので、自分がドラゴンになるのは相手の選択肢を奪えて賢いですね。

 非常に良い組み合わせの能力と試合になりました。ご参加ありがとうございます。

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