第43話 霧

 10回戦。もう2ケタかと驚いている暇もなく試合開始。


 タマルの発動

 C-30-L『フォグ』

 戦闘エリアを濃い霧の中に変更する。霧の中では発動した能力が分からない。


 今さっき手に入れたばかりの能力。対戦相手に使われた事はあるが、俺にとっては初めてのC-L系能力で、地形全体を一瞬で変更する効果がある。


 タマルと対戦相手が霧の中で対峙している。能力が発動した瞬間にカメラが特殊なモードに切り替わるという気遣いでモニター越しの俺からは良く見えるが、タマルの方からはほとんど相手が見えていないはず。


 だが、見えていない事自体はお互いに大した問題ではない。接近さえすれば通常の戦闘エリアとほとんど変わりないし、飛び道具だって全く当たらなくなる訳じゃない。


 俺が欲しかったのはもう1つの効果。


 相手の発動。

 C-12-G『劣化分身』

 能力を持たない自身の分身を召喚する。


 以前俺も使っていた能力だ。こちらが先に発動した『フォグ』は『劣化分身』に対して相性の悪い能力だと言えるだろう。何せタマルからすればどちらが本体だか分からなくなる。だが、それでも構わずに、


 タマルの発動。

 A-10-R『チャージショット』

 手の中でエネルギー弾を溜め、放出する。


 今回はいつものように溜める事を前提としていない使い方をする。手の平の中で2、3秒溜めて、すぐに放出する。


 相手は分身の方が本体の前に立ち、両腕でガードしてエネルギー弾を受けた。溜めたのがほんの数秒でもそこそこのダメージがあるが、もちろん1撃で戦闘不能に追い込むいつもの威力には程遠い。だが警戒はしているようで、じりじりとタマルに近づいてきた。タマルは飛び道具を警戒しつつ移動しながらどんどん『チャージショット』を放っていく。


 当たったり外れたりしつつも、分身にダメージは蓄積されてきた。『用心棒』とは違い、『劣化分身』は倒されても本体が道連れになる訳ではない。盾として使い捨てるのか、と思いきや相手は別の能力を発動させた。


 相手の発動。

 A-17-T『ヒール』

 触れた生物の傷を治す。


 PVDOにおいては珍しい、癒し系の能力。ただ触れただけでありとあらゆる傷を治すというのだから便利だ。特にC-G系の召喚能力と相性が良く、俺もかなり欲しくて、リクエストの時に迷ったくらいだ。


 こうなれば、『チャージショット』で分身を倒すルートも塞がれた。しかも『ヒール』は自分自身の傷も癒す事が出来るので、細かいダメージはいくら蓄積させても意味が無い。


 だが、タマルは『チャージショット』を撃ち続ける。モニターの前で見ている俺からすれば、その絶望的な状況は一目瞭然だが、『フォグ』の中にいるタマルは相手が『ヒール』を発動した事を知らないのだ。音と影で当たっている事自体は分かるが、それが本体か分身かも分かっていない。


 開始から50秒ほどで、いよいよタマルは相手の分身に捕まった。最後の足掻きとばかりに5秒ほど多めに溜めた『チャージショット』を分身に向けて放ったが、当たってすぐ隣の本体に傷を癒されてしまった。


 相手の発動。

 H-14-V『フリ-ズ』

 視界にいる対象の生物1体の動きを2秒間停止する。


 やはりこの能力が便利なのは共通認識なのか、相手も持っていたようだ。これで逃げ道も塞がれた。タマル、絶体絶命。


 相手が停止したタマルの顔を見る。霧の中から僅かに、タマルが目を瞑っているのが確認出来た。


 3、2、1……。


 相手の本体と分身が同時に倒れる。試合開始からジャスト1分。勝負は終わった。


 タマルの発動。

 H-21-W『ワールドエンド』

 全ての生物の寿命を残り1分に設定する。目を瞑っている間はカウントが止まる。


 濃い霧はこの能力が発動している事を隠す為の物だ。本来なら、発動した時点で相手もこの能力を理解し、寿命を伸ばす為に目を瞑る。特に今回は相手がたまたま『劣化分身』を持っていたのだから、かつて俺がやった戦略のように案内させればいい。だがそうはならなかった。何故なら相手は『ワールドエンド』が発動している事に気づかなかったからだ。


 決着。

 タマルの勝利。


 という訳で今回は、『チャージショット』の新活用法が上手くハマった。今までメインだったものをあえてサブにする事によって広がる戦略。それが披露出来。しかし『チャージショット』がダブった時はツイてないと思ったが、それを補佐するアイデアと能力がすぐに手に入るあたり、俺は運が良いのか悪いのかさっぱり分からない。結果勝ってるので多分良い方なんだろう。


 現在の所持能力。

 H-21-W『ワールドエンド』残り:1回

 H-04-V『眼制疲労』残り:2回

 H-30-W『斥界』残り:1回

 H-06-V『後退却下』残り:2回

 H-14-V『フリ-ズ』 残り:3回


 A-10-R『チャージショット』 残り:8回

 A-11-I『バリア』 残り:1回

 A-26-O『暴発』残り:4回


 C-14-G『猛獣使い』残り:2回

 C-16-G『用心棒』残り:1回

 C-04-B『代償強化』残り:2回

 C-22-M『スライド』 残り:3回

 C-30-L『フォグ』残り:4回


 明日はタマルの自由時間が取れる日だ。どこに連れて行こうか迷っている。

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