第42話 溜め撃ちの考察

 なんだかんだで気づけば連勝。ランク4から3に落ち、そこから戻って以降、試合を落とす事はあっても1度もマッチを落とす事なくここまで進んできた。今やランク8。あれだけ遠かった1億円がもう目の前にある。


 俺のこの快進撃にサロンの他メンバーはかなり驚いているようだ。浅見先輩は「たまたま運が良かっただけだろ」と辛辣だが、雨宮先輩と橋本は向こうから能力についての相談を持ちかけてくるようになった。スポーツいまいち、勉強もそこそこで何の取り柄もない俺だったが、まさか能力バトルの指示役としての才能があるとは思わなかった。人生分からないものだ。


 前日の結果としては、雨宮先輩と浅見先輩は勝って上昇。ただ、肝心の橋本が負けてランク4になってしまった。

 所持能力の在庫数も合計で20と心もとない。一応、系統のバランスは良く種類は多いので様々な戦略が実現可能なんだが、いかんせん対戦相手がこちらの予想を上回ってくる。


 純粋な1対1のバトルであり、近いランクとのマッチングである以上、相手も当然お遊びなどなく本気でやってくる。他メンターの目的が大金なのか、単純な興味なのか、はたまた俺のように自分の所に来た少女をなんとかしてやりたいという願いなのかは分からないがとにかく、生き残るには勝つしかない。


 最初にリーダーボードを見た時から、随分と名前も入れ替わった。一応毎日チェックしているのだが、橋本以降知り合いらしき名前も現れてないし、俺に連絡を取ってくるような人物もいない。全国から選ばれているようだし、今思えば親友の橋本がメンターとして先行していたのがそもそもとんでもない奇跡だった。


 だからこそ橋本には生き残って欲しい。同じくサキちゃんも、タマルの友達として仲良くして欲しい。小学生の頃友達の家に行くとやたらとお菓子とかジュースをもらったが、あの頃の友達の親はこんな気分だったんだなと実感する。


 かといって、橋本とサキちゃんの事ばかりを気にかけてもいられない。申し訳ないが最優先事項はタマルの生存。それについて考えなくちゃならない事は山ほどある。


 現状で最大の課題はストック数9まで積もった『チャージショット』の有効活用方法だ。これを消化しつつ勝ちに変換出来なければ俺とタマルに未来はない。必要なのは考察だ。


 『チャージショット』を有効活用するポイントは2点。


 1点は、「溜める時間を稼ぐ」事。30秒程度あれば、1撃で戦闘不能に追い込むだけの威力を作り上げる事が出来る。ただ30秒も無防備な状態でいると、例え相手が何の能力も持っていないとしても一方的にボコられてしまう。だからこそ『スライド』で溜めながら逃げたりCーG系で生物を召喚して足止めする必要がある。


 もう1点は、溜めた攻撃をきちんと相手に当てる事。せっかく30秒かけて溜めた1撃も避けられたり無効化されたらその時点でおしまいだ。2発目を撃つには再度溜める必要があり、それをさせてくれるほど相手も甘くない。だから回避を制限する『フリーズ』の相性が良い。


 となると、『チャージショット』を採用するイコール、残りのHEADとCOREを最初から時間稼ぎ用、命中補正用に割く必要があり、自由度が無くなる。今はまだなんとか『スライド』と『フリーズ』のストックがあるからマシだが、これが無くなると本格的に『チャージショット』が不良在庫化する怖れがある。


 なんかもう能力バトルというか会社経営に近くなってきたな。

 もちろんそんな経験なんて無いんだが、いち社会人として働いていた時は上に対して「もっとこうすりゃいいのに」とか「まだ古い方法にこだわってんのか」とかいくらでも思う事はあった。ただ同時に、いざ自分が権力を握ればしがらみでどうにもならない事ばかりなんだろうな、というのも分かっていた。


 そんな一見関係ない事を考えている時にこそ、アイデアという物は降ってくる物だ。


 ちょっと待て。俺は『チャージショット』を溜める事ばかりにこだわり過ぎていたのではないか、と。


 『チャージショット』は、何も常に1撃で倒せる威力を溜めなくちゃならない訳じゃない。事実、これまでも中途半端な威力で撃った事はあった。それは苦し紛れの一手だったが、最初から戦略に組み込めば話は変わってくる。


 必殺技をトドメの1撃として使うのではなく、あえて目眩しや囮として使う。


 発想の転換。となれば、相性の良い能力は全然変わってくる。この能力と、この能力か。あとまだ持ってないがあの能力かあの能力が来れば、理想形になる。面白くなってきた。

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